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<311むすび塾>訓練参加で相互理解を/第68回ワークショップ@多賀城

障害者の犠牲を防ぐ

津波で全壊した「さくらんぼ」の跡地を視察する参加者。奥が砂押川の堤防=多賀城市栄
車座になり、障害者の命を守る方策を語り合う参加者=多賀城市桜木のみやぎ復興パーク

 河北新報社は2017年6月29日、災害から障害者をどう守るかをテーマに、通算68回目の防災・減災ワークショップ「むすび塾」を多賀城市内で開いた。東日本大震災で障害者の死亡率が全住民より高かったことを踏まえ、参加した10人が犠牲を防ぐための方策を議論。障害者と健常者が互いに理解を深めることが欠かせないとの認識を確認した。

 参加者は、震災の津波で全壊した同市の障害者支援施設「さくらんぼ」の跡地を視察。施設は、真向かいを流れる砂押川と仙台港の両方から来た津波に襲われたが、その直前、職員が知的障害者ら利用者11人を誘導、国道45号の歩道橋に上って一夜を明かし難を逃れた。近くの食品会社で作業中だった利用者6人も、上層階に避難して無事だった。

 当時職員だった山崎雅博さん(44)=現障害者支援施設「さくら学園」(塩釜市)施設長=は「津波が来ると住民が知らせてくれたおかげで避難できた」と振り返り、日頃から地域とのつながりを築いておく大切さを語った。

 視察後、参加者は、さくらんぼが現在入居する「みやぎ復興パーク」(多賀城市)で語り合いに臨んだ。ソニー仙台テクノロジーセンター内に2011年12月開所した復興パークでは、障害者施設を含む入居団体で年4回の防災避難訓練を行っているという。事務長の鈴木登之和(としかず)さん(58)は「車いす利用者を4人で持ち上げる体験など、必要な手助けを学んでいる」と話した。

 一方で障害者の存在が地域で認知されにくいとの指摘もあった。障害者福祉を考えるグループ「花」(仙台市)代表の伊藤ふき子さん(61)は「障害を知られたくないという人もおり、日頃の居場所を把握することも容易ではない」と災害時の支援に懸念を示した。

 車いす生活を送る参加者からは、障害者自身の地域参加を求める意見が相次いだ。障害者支援団体「CILたすけっと」(仙台市太白区)事務局長の杉山裕信さん(51)は、一昨年にあった地元の防災訓練に参加した障害者が自分一人だけだった体験を紹介。障害者が自立して生活できる社会づくりに取り組む「日本自立生活センター」(京都市)代表の矢吹文敏さん(72)は「障害者が地域社会に積極的に顔を出す努力をしないと、いざという時に支援を得られない」と述べた。

 矢吹さんは「健常者も、障害者や障害に理解が足りない」とも指摘。日頃から障害者と健常者が互いに歩み寄り、共に災害対策を考える姿勢が不可欠だと訴えた。

障害者の死亡率 全住民の倍/東北3県

 東日本大震災で、障害者の死亡率は全住民の死亡率より高かった。

 岩手、宮城、福島各県の調査を基に河北新報社が2012年9月に集計した結果によると、障害者手帳を持つ3県の計1655人が震災の犠牲となった。障害者手帳所持者全体に占める割合(死亡率)は1.5%で、全住民の死亡率0.8%の約2倍に上った。

 県別の障害者死亡率は岩手3.3%、宮城1.6%、福島0.4%。全住民の死亡率は岩手2.2%、宮城0.6%、福島0.5%だった。障害者の死亡率が岩手で1.5倍、宮城では2.7倍高かった一方、福島は逆に障害者の方が低く、地域差が出た。障害者関連施設が海沿いに立地しているかや、在宅の障害者が多いかどうかなどが影響したとみられる。

浸水約662ha 市域3分の1に

 多賀城市は塩釜市や仙台市宮城野区などと接し、5月末現在で6万2917人が住む。

 東日本大震災の津波で、国道45号や県道仙台塩釜線(産業道路)の幹線道路、商業施設、工業地帯などが濁流にのみ込まれた。市内での死者数は188人(16年11月現在)。

 砂押川南側のほぼ全域が浸水、市の浸水面積は約662ヘクタールに上り市域の3分の1を占めた。

<アドバイザーから>

■地域住民の支援不可欠/東北福祉大教授(障害福祉学) 阿部一彦さん(65)

 東日本大震災では聴覚障害のある人が津波の犠牲になる例があった。いったん避難したものの、周りとコミュニケーションを取れなかったのか、何度も押し寄せる津波の状況が分からずに家に戻ったとみられる。災害時は同じ地域の住民による支援が欠かせない。

 障害者が地域の防災訓練に参加し、自分たちの存在を知らせることも大切だ。どんなことに困り、どのような手助けが必要かを理解してもらうことは、平時はもちろん災害時の助けにつながる。災害時要援護者登録などの制度も積極的に利用してほしい。

 障害によっては一見して援助の仕方が分からないこともある。助けを待つだけでなく、必要な支援や配慮を自ら伝える「受援力」が求められる。積極的な情報発信で周りを巻き込むことが大事だ。

■壁壊し防災の担い手に/日本自立生活センター(京都市)代表 矢吹文敏さん(72)

 「障害の有無を越え共に生きる」という言葉は美しいが現実はシビアだ。障害者宅には回覧板が来なかったり、町内会役員の輪番から外されていたり。障害者と健常者の間には、どちらがつくったのかは分からないが、依然壁がある。

 障害者自らも壁を壊さないと、災害から自分の命を守れない。地域生活の中で日頃障害を隠して暮らしながら、災害時だけ「助けて」と言うのは無理がある。不安は強くとも、障害者は自分の存在をさらし、できることを主張すべきだ。

 一方、障害者は本当に一方的に助けられる存在か考えてほしい。スマートフォンの進化などで、目や耳が不自由でも意思疎通できる時代だ。施設入所者も住民と位置付け、防災など地域課題の担い手として障害者も参加させるという発想への転換を社会に求めたい。

<メモ>東日本大震災の体験や教訓を振り返り、専門家と共に防災や避難の課題を語り合ってみませんか。町内会や学校、職場など10人前後の小さな集まりが対象です。開催費用は無料。随時、開催希望を受け付けています。連絡先は河北新報社防災・教育室022(211)1591。

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