<311むすび塾>南海トラフ想定 高台へ/第48回巡回ワークショップ@大阪・住吉区東粉浜小(上)
沿岸部の津波2次避難
東日本大震災の教訓を今後の備えに生かすため、河北新報社は2015年10月31日、巡回ワークショップ「むすび塾」を大阪市住吉区の東粉浜(ひがしこはま)小で開いた。東北以外の開催も含めて通算48回目で、毎日放送(大阪市)との共催。東北大災害科学国際研究所、電通と共同展開する津波避難モデル事業「カケアガレ!日本」と連動し、学校と地域住民による避難訓練も実施した。話し合いでは、参加者らが成果や課題について意見を交わした。
大阪市住吉区東粉浜地区で実施した避難訓練では、親子や要援護者、付き添いの住民ら計43人が、木造住宅密集地での地震や津波による火災発生時の避難の在り方を学んだ。
東粉浜小は南海トラフ巨大地震の津波浸水想定域に近接する市立学校。周辺は一戸建て住宅やマンションなど集合住宅が密集し、古い作りの民家も目立つ。
訓練は休日の午前10時、マグニチュード9.1の南海トラフ巨大地震が発生し、住吉区で震度6弱を記録した想定で実施。隣接する住之江区に津波が到達して火災が発生し、2次避難を迫られる設定も加えた。
東粉浜小が親子の避難訓練をするのは初めて。1年の堀尾有彩(ありさ)さん(6)方では、有彩さんと母の幸子さんが机の下に身を隠して安全を確保し、防災ずきんを着用。揺れが収まると非常用の持ち出し袋を背負い、徒歩で約150メートル離れた学校を目指した。
近所の1人暮らしの臼井千賀子さん(86)方にも声を掛け、臼井さんの避難を手伝う矢追勢喜子さん(71)と合流。ブロック塀の倒壊や屋根瓦の落下など、危険箇所を意識しながら、約3分で校舎に着いた。
午前10時半前に参加者全員が中庭に集合したが、町会幹部はさらに約10メートル高台の住吉中に避難することを指示。校舎の裏手から中学校の敷地に登れる避難階段のゲートを解錠し、親子らは次々と階段を駆け上がって2次避難を完了した。
避難訓練に先駆けて東粉浜小では、東北大災害科学国際研究所の保田真理助手が「減災って、なあに 自分でできることをやろう」と題して防災教室を開催。児童と保護者、教員約350人が参加した。
保田氏は普段の生活で安全を確保するポイントとして(1)物が倒れてこない(2)物が落ちてこない(3)閉じこめられない-の3点を強調し、自宅の点検を勧めた。
家族と電話で連絡がつかない事態に備えて「災害用伝言ダイヤル(171)の体験利用サービスを試し、使い方を覚えてほしい」と呼び掛けた。
敷地近くに直下型断層帯
大阪府は南海トラフ巨大地震で主に津波により大阪市内で最大約12万人、府内で13万人以上の犠牲を想定。早期避難で犠牲を1万人以下にできるとして防災啓発に乗りだしている。
東粉浜小がある住吉区は内陸部だが、5000人の犠牲が想定される浸水域の住之江区に隣接し、避難時は混乱が予想される。直下型地震を引き起こす断層帯が敷地そばにあり、揺れへの警戒も怠れない。
<専門家から>
■訓練重ねパニック回避/東北大災害科学国際研究所助手 保田真理さん
災害時はパニックになり、避難しようとしても普段の2~3割の力しか出ないと考えた方がいい。それを7割にまで上げられるように訓練を重ねてほしい。
家族全員の無事を災害後に確認することは大事なことだが、お互いが離れている時間帯は必ずある。待ち合わせ場所をあらかじめ決めておけば、連絡が取れなくなっても、無用な混乱は避けられる。
東粉浜地区は道路が広くなく、地震で電線やブロック塀、家屋の壁、瓦屋根といった落下物が多く発生しそうだ。周囲の様子を確認しながら避難してほしい。
■災害弱者は臨機応変に/減災・復興支援機構専務理事 宮下加奈さん
車いすの利用者や高齢者が避難する際は付き添いの人が健康状態に応じ、上り坂でも短距離のルートとか、遠回りだが勾配の少ないルートとか、臨機応変に経路を選択していい。健常者がアイマスクや耳栓をして訓練しておくと、要支援者の気持ちが分かっていいかもしれない。
南海トラフ巨大地震が発生した時には、東粉浜地区は隣接する沿岸部の住之江区の避難者の受け入れで大変になると思う。普段から同区と顔つなぎをしておくことが大切だ。どのような受け入れ態勢が組めるのか、考えておく必要がある。
■情報入手が第一歩/減災・復興支援機構理事長 木村拓郎さん
地震の発生の仕方によって、その後の活動が左右される。震源が内陸なら救助や消火、海溝なら津波からの避難が優先される。地震が発生したら、ラジオやワンセグなどから情報を入手することが、まず第一歩となる。
今回の訓練は2段階の避難を想定したが、東日本大震災では段階的避難が時間的にも、判断的にも難しいことが教訓となった。いったん避難し、様子を見てさらに避難させることには大変な責任が伴う。タイミングを間違えれば多数の命を失う。一気に高台に避難するケースも考えてほしい。