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<311むすび塾>園児ら高台目指す/第37回宮崎日日新聞社と共催@宮崎市・木花、島山地区(1)

「カケアガレ!日本」と連動

木花保育園と島山地区自治会が初めて合同で実施した津波避難訓練。園児は乳母車や徒歩で高台を目指した
木花保育園と島山地区自治会が初めて合同で実施した津波避難訓練。園児は乳母車や徒歩で高台を目指した
木花保育園と島山地区自治会が初めて合同で実施した津波避難訓練

 東日本大震災の教訓を今後の備えに生かすため、河北新報社は2014年10月28日、巡回ワークショップ「むすび塾」と津波避難訓練「カケアガレ!日本」を宮崎市で実施した。東北以外の開催も含めて通算37回目。宮崎日日新聞社(宮崎市)と共催し、南海トラフ巨大地震を想定した津波防災対策を考えた。

 訓練は日向灘に面した宮崎市南部の木花地区で行った。木花保育園と島山地区自治会が初めて合同開催。園児181人を含む計約220人が、乳母車や徒歩で約600メートル離れた高台に避難した。

 むすび塾は宮崎市南部の島山自治公民館で開いた。前半は訓練を振り返り、地域事情に即した実践的な防災対策を話し合った。減災・復興支援機構(東京)の木村拓郎理事長の進行で、自治会と保育園関係者、東北大災害科学国際研究所の研究者ら11人が意見交換した。

 後半は宮城県山元町と相馬市の被災者が語り部として議論に加わったほか、気仙沼市の元保育所長がビデオ参加。迅速な避難行動の大切さを確認した。

 語り部2人の講演会もあった。元保育所長の体験談もビデオ上映され、市民約130人が熱心に耳を傾けた。

園児ら220人、高台へ/乳母車押すのは重労働

 津波避難訓練「カケアガレ!日本」は10月28日、木花保育園の0~6歳児181人と保育士26人、隣接する島山地区の住民が、保育園の約600メートル先にある高台の公園を目指した。

 訓練は午前9時半、日向灘を震源とする超巨大地震が発生し、宮崎県沿岸に大津波警報が発表されたと想定した。訓練用に録音していた緊急地震速報を放送。園児は教室でロッカーに入って身を守った後、園庭に出て避難準備を始めた。

 0~3歳児は保育士が、4~7人ずつ12台の乳母車に乗せた。駆け足で逃げる3~6歳児は、手をつないで整列。訓練開始から数分で全員が保育園を出発し、異なるルートで避難先に移動した。

 最初の難関は保育園前の2車線の県道で、保育士が黄色い旗を掲げて通行中の車を止めている間、乳母車と園児が次々と横断した。

 乳母車の避難ルートは傾斜がややきつい。職場体験に来た中学生や住民の助けもあったが、保育士が乳母車がふらつかないように押し続けるのは、かなりの重労働のようだった。駆け足の園児にも転倒したり、靴が脱げたりするなどのアクシデントがあった。

 標高34.9メートルの公園には、最初に乳母車の一行が約16分で到着。駆け足の集団も続き、約23分で全員が避難を終えた。

 園児を背負った状態で4人乗り乳母車を押した砂地洋子さん(48)は「何度やっても疲れる。保育士が少なくなる朝や夜に地震が起きたら、人手が足りず大変だ」と息を切らしながら語った。

道路の横断困難、崖崩れの危険性…/不安の声続出

 木花保育園は避難訓練で最短記録を更新したが、関係者の不安は尽きない。むすび塾では、これまでの訓練を通じて浮かび上がった課題についてアイデアを出し合い、解決策を探った。

 高台の公園に避難するには、保育園前の県道の横断が必要になる。保育士の間に「訓練では車が停止したが、津波が迫る緊迫時に同様の対応をしてくれるだろうか」との懸念が強い。

 東北大災害研の保田真理助手は「黄色い旗ではアピールが弱い。道路工事の誘導に利用する旗や光を反射するベストを使ってはどうか」提案。減災・復興支援機構の宮下加奈専務理事は「もっと幅広く道路を止め、一度に渡れる人数を増やせばいい」と助言した。

 地震の揺れから園児たちを守る方法も議論した。ロッカーに頭を入れたり、毛布にくるまったりする現在の取り組みに加え、身を隠せる大きなテーブルを普段から置くことなどを確認した。

 地震後は道路の亀裂や液状化、崖崩れの危険性がある。路面が少し変化しただけで、乳母車の移動の障害になる。木村理事長は「沿道の住民に乳母車を押してもらえれば力になる」と強調。事前に協力を要請し、避難時も拡声器などで声掛けするよう助言した。

 避難ルート沿いの住宅のブロック塀撤去や、崖崩れの危険箇所の対策を要望する際、保育園と地域の連携が重要になるとの認識も共有した。

 保田助手は、駆け足の訓練を称賛した上で「園児が転んだり、靴が脱げたりすると逆に遅くなる。津波到達の予想時刻までに浸水想定域を出ればいいので、小走りでも間に合う」と述べた。

 木花保育園の保護者で大船渡市で被災後、宮崎に移り住んだ後城真佐美さん(33)は、声を詰まらせながら被災体験を振り返った後、「天気の変化や保育士の少ない時間帯など、パターンを変えて訓練を重ねることが大事だ」と訴えた。

複合型避難施設2015年秋完成

 宮崎市木花地域は市南部に位置し、東は日向灘に面している。市全体の面積の1割に当たる65キロ平方メートルに、5700世帯1万2000人が暮らす。

 地域内には小学校3校と木花中のほか、宮崎大がある。保育園は木花保育園を含めて3施設。沿岸部には宮崎県総合運動公園が整備されている。

 島山地区自治会は、地域を構成する27自治会の一つ。190世帯400人が暮らし、65歳以上の高齢者が住民の3割を占める。2004年に自主防災隊が結成され、防災訓練や避難訓練に取り組む。15年10月に、複合型避難施設が完成する予定。

<専門家から>

■保育士の安全確保を/東北大災害科学国際研究所助手 保田真理さん
 木花保育園の避難訓練は東北に比べても充実していた。緊急地震速報の後、園児がロッカーにすっぽり収まって揺れから身を守る方法はユニーク。さらに保育士の安全確保策も充実させてほしい。保育士が負傷すれば、園児の避難誘導に支障が出るからだ。

 訓練で使った避難ルート沿いにはブロック塀が多かった。訓練では道の端を通っていたが、これからは道の中央を通ることを勧めたい。

 訓練時のデータを取ることも重要だ。避難に要した時間や津波到達予想時刻までの高齢者の避難の成否などが、行政に何らかの対策を求める際の説得材料になる。

 津波は高い場所に逃げれば助かる。島山地区のように起伏が少なく高齢者が多い地域でも、車を使うことで多くの人が避難できる。臨機応変な対処が大切だ。

■住民との交流不可欠/減災・復興支援機構専務理事 宮下加奈さん
 園児たちが緊急地震速報を聞いた途端、表情を変えて帽子を取りに向かったのに驚いた。訓練に慣れることなく、真剣に取り組み続けている成果だろう。

 保育士には入れ替わりがあるため、危機意識の継続は重要な課題だ。保育園の伝統として緊張感を持った訓練を積み重ねてほしい。園児たちにとっても、その後の人生で役立つはずだ。

 せっかく保育園と島山地区の住民が顔を合わせ、お互いの状況を知ったのだから、今後も交流を続けてほしい。

 例えば保育園が毎月開いている誕生会に、島山サンサン会(高齢者の親睦団体)のメンバーを呼んではどうか。逆にサンサン会の集まりに園児が参加してもいい。

 こういう協力をしてほしいと要望するだけの関係ではなく、普段からお互いを知ることが、連携の強化に欠かせない。

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