山岳ライターと大高森に行ったら楽しかった話。 【特集】低山から始めよう
登山。山頂の景色でリフレッシュできて、有酸素運動にもなるというけれど、高い山は体力が不安。なら標高1000m未満が目安とされる低山はいかが? 山岳ライターの曽根田卓さんに山の楽しみ方と、仙台市中心部からアクセスしやすいお薦めの山を教わった。
絶景の大高森へ
松島四大観を目指して
山を紹介するなら、自分でも登ってみなくては。
曽根田さんの案内で向かったのは、東松島市宮戸にある低山「大高森」。雪が少なく、寒い季節でも登りやすいため初めの一歩にはもってこいなのだとか。「登山初心者は標高差(実際に歩いて登る高さ)が300m以内、3時間程度で往復できる山から始めるのがいいでしょう」とのこと。曽根田さんによれば大高森は標高差105m、約30分で往復できるという。コースはよく整備され、ほぼ一本道のため分かりやすい。山頂の眺望の良さから松島四大観の一つに数えられ「壮観」の別名もある。
高さは大したことないし、階段もある。適度な運動にも良さそうじゃないか。楽勝気分で登山口からどんどん進む。階段状の登山路を歩くこと5分ちょっと。あれ、息が苦しい、足取りが重い、汗も出てきた。
歩幅小さく適度に休息
「高低差のある場所は距離以上に体力を消耗します。階段になっていると一段一足になりがちですが、歩き方に合っていないとむしろ疲れます。呼吸を乱さないようスローペースで、歩幅は常に極力小さくが基本です」
曽根田さんのアドバイスどおり歩き方を変える。なるほどこれなら一気に山頂を目指せるはず。しかし、またすぐスローダウン。持ってきたカメラや脚立がずっしり重たく感じる。
「登山はこまめな休息が大事。思った以上に汗をかくので水分は多めに携行しましょう。また山では暑さ寒さに応じ、脱いだり着たりしやすい服装がお薦めです」
小休止を挟んで出発から20分余りで山頂へ到着。眼前に広がる松島湾と太平洋は、想像以上に眺めが良い。
「持ってきたお菓子でも食べながら、少し長めに休憩しましょう。慣れてきたら山頂で湯を沸かしてコーヒーやお茶をいれても楽しいですよ」
曽根田さんに促されるまま菓子を頰張る。疲労のためか景色がいいからか、普段よりおいしく感じる。疲れたときは甘い物とよく言われるのは、こういうことか。さあ休憩して景色も堪能できた。あとは下るだけ。ゴールしたも同然だ。
登りは体力 下りは技術
「持ってきたトレッキングポール、出しておいた方がいいですよ」
下るだけなのに必要なんですか、曽根田さん? 疑問に思いながらもポールを手に下山開始。なるほど、あるとないとでは膝への負担が違うし、しっかり着地できる。
「登りは体力、下りは技術と言われ、転倒事故が多いのも下りです。疲労時はなおさら。斜面が怖いからと後傾姿勢になるとかかとから着地することになります。衝撃がダイレクトに膝へ伝わって痛めたり、滑ったりする危険もあります。気持ち低い姿勢を保ち、膝から前に出るイメージで着地するようにしましょう」
情けないくらいそろりそろりと下山。慣れないことだらけで案外疲れたな。そんなことを思っていたら。
「楽で物足りなかったでしょう? ここは韓国発祥のトレッキング・オルレのコースにもなっていましてね。ついでに案内しますよ。景色がきれいですし、距離も10km程度ですから大丈夫。さあ行きましょう」
誰の何が大丈夫なのだろう? そんなことを思いながら必死で曽根田さんについていき、なんとか歩ききった編集担当。後日筋肉痛になりながら原稿を書いたとさ。
曽根田さんに聞く 登山のポイント
<無理のない山を選ぼう>
標高差300m以下、3時間以内で往復可能なところから始めよう。自治体のWEBサイトや地図、現地の案内板が充実した場所がお薦め。ガイド付きツアーがあれば利用しよう。
<重ね着で調整、雨具必須>
山中で目立つ色合いで、寒暖に応じて着脱できる服装を。服地はナイロンなど速乾素材がお薦め。綿素材、特にデニム地は汗を吸って重くなるので避ける。雨具は通年で必携。
<バックパックは20~30リットル>
低山や日帰りハイキングなら容量20~30リットルが最適。ウエストベルト付きなど体にフィットするものがお薦め。レインカバー付きがベスト。
<補給は大切>
山中で脱水やエネルギー切れを起こさないよう、補給は適切に。必要量は体格や登る山で変わってくる。ネット検索するといろいろな情報があるので、自分に合った内容を見極めよう。
<登山は明るいうちに>
たとえ低山でも日没後は足元が見えず危険。夜の山中は想像以上に暗く、ヘッドライトがないと一歩も動けなくなってしまう。明るいうちに下山できるよう計画を立てよう。
<トレッキングシューズ推奨>
足首も保護するミドルカットで、防水性のあるしっかりした物を。最初は登山用品店で助言を受けながら、足に合った一足を探すとよい。
<頼れるトレッキングポール>
山歩きに慣れないうちは必携。歩行バランスを整え転倒防止につながるだけでなく、足場の確認にも役立つ。
<万一に備えて>
携帯電話など連絡手段は携行しよう。スマートフォンなら山でも使えるコンパスアプリを入れておくと心強い。救急ばんそうこうや消毒液、ヘッドランプもあるとよい。
今行くなら この低山
曽根田さんに、この時期お薦めでアクセスしやすい山を教えてもらった。
※ 標高差は登山口から頂上まで、実際に歩く高さ。行動時間は休憩を除いた目安(データは曽根田さん提供)
<蕃山>
仙台駅から西へ7~8㎞離れた、JR仙山線落合駅の南側にある低山。「蕃山」「西風蕃山」「蛇台蕃山」の三峰からなり、蕃山から西風蕃山にかけて歩く登山コース(標高差約270m、行動時間2時間)がお薦め。仙台駅前発の市バス茂庭台行きに乗り大梅寺前で下車するのが便利。
<深山(しんざん)>
山元町の西側、阿武隈山地北端の山(標高差259m、行動時間2時間20分)。分岐点ごとに案内板があり、道は分かりやすい。山頂からは太平洋と角田盆地が一望できる。
<鹿狼山(かろうさん)>
丸森町と福島県新地町の県境にある山(標高差300m、行動時間1時間40分)で、登山コースは新地町側にある。冬場でもほとんど積雪がなく、初日の出を見るため登る人もいるほど山頂からの眺めは良い。
<曽根田卓さん>
「山岳写真クラブ仙台」所属の山岳ライター。高校時代に山岳部活動を通じて山と出合い、以来多くの峰へ登り続けている。現在はあまり名の知られていない東北の山を好み、年50~60日のペースで登山活動継続中。著書に「ヤマケイアルペンガイド東北の山」(山と渓谷社、共著)、「山と高原地図 栗駒・早池峰」(昭文社、調査執筆)などがある。1958年仙台市生まれ
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Photo by 曽根田卓
(河北ウイークリーせんだい 2023年3月23日号掲載)