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<311むすび塾>防災 実践と課題シェア@311メディアネット/第109回

全国の10、20代意見交換/訓練や催し ヒント探る

震災の津波の威力と被害を説明する熊谷さん=2月11日、気仙沼市東日本大震災遺構
話し合いを終え、誓いの言葉を記した紙を掲げる参加者

 河北新報社など全国の地方紙、放送局でつくる「311メディアネット」は2月11日、全国13カ所をオンラインで結び防災ワークショップ「むすび塾」を開いた。気仙沼市の20歳の語り部が東日本大震災の津波の威力と被害を中継で伝えたほか、各地で災害伝承や防災に取り組む10、20代の若者が備えについて意見を交わした。むすび塾の実施は109回目。

 気仙沼市東日本大震災遺構の気仙沼向洋高旧校舎で、熊谷樹さん(20)が語り部を務めた。津波で流入した車が残る3階、外壁が壊れた4階などを案内。地域でたくさんの犠牲者が出たことを説明し、「この場所で起きたことを忘れないように、伝えることが私たちの使命だ」と語った。

 広島修道大3年の岩田佳吾さん(21)は、宮城県内の災害伝承碑について質問。熊谷さんは「女川町では若者が石碑を建てる活動をしている」などと答えた。

 助言者を務めた矢守克也京都大防災研究所教授は、教室に残された書籍やロッカーに着目し、「震災前の学校の日常を示してくれたことで、それを突如奪う津波、地震の恐ろしさ、そして備えの大切さを学ぶことができた」と述べた。

 意見交換で、北海道大大学院修士課程1年の今井俊輔さん(23)は、将来の千島海溝巨大地震による全域停電を懸念。「真冬は凍死者が多発する可能性がある。家ではカセットガスが使える簡易暖房を準備している」と紹介した。

 同志社大3年の安立竜清さん(22)は全国で相次ぐ水害への備えの重要性を強調。「水害に備えるため、リスクを自覚させること、疑似体験で行動をイメージさせること、大切な人を守るという本能に訴えることが必要だ」と指摘した。

 「4歳で見た阪神・淡路大震災のテレビ番組に衝撃を受けた」と言うのは神戸学院大3年の稲沢遥樹さん(21)。兵庫県は将来の南海トラフ巨大地震のリスクがある。「阪神から時間がたち、備えの意識が薄れている」と明かした。

 想定される将来の災害について、矢守教授は「私たちは何度も自然災害に裏をかかれてきた。予想と違った災害が起きるかもしれないと、想像力をふくらませてほしい」と助言した。

 若者たちは活動で気付いた課題にも言及した。福井大4年の都築大輔さん(22)は昨年、福井県内の災害ボランティアに参加。「現場の様子、仕事、持ち物などの情報を共有する必要性を感じた」と言う。解決に向け「ボランティア情報を共有するアプリを開発したい」と述べた。

 避難所運営のジェンダーフリーについて問題提起したのは高知県立大1年の石川紗羅さん(19)。「日頃できていないことは緊急時もできない。日頃から女性や性的マイノリティーが決定権のある場にいることが大事だ」と語った。

 宮崎県佐土原高2年の中田翔さん(17)は2022年の台風14号の教訓を説明。浸水域に住む友人のケースを挙げて「自分は大丈夫だと思って避難しない人がいた。強い正常性バイアスを何とかしなければならない」と訴えた。

 多くの参加者が要支援者の避難を課題と感じていた。矢守教授は、高知県の健康体操を例示し「防災の取り組みではないが、皆が健康になれば、要支援者は定義上ゼロになる。体操は究極の防災対策ともいえる」と解説した。

 また、要支援者に避難訓練を促す工夫として「現在の避難訓練はタフ過ぎる。まずは2階に上がってみる、玄関まで出てみるなど訓練のハードルを下げてはどうか」と提案した。

 釜石市出身の静岡大3年の高橋奈那さん(21)は、静岡で震災伝承活動をしている。「震災を知らない世代が、未来に起きうることではなく、過去の出来事と捉えていることに危機感を覚える。どうすれば、自分ごとになるのだろう」と問いかけた。

 若者をはじめ幅広い世代に災害や防災に関心を持ってもらうことも、参加者共通の悩みだった。

 横浜市在住で慶応大2年の小林美月さん(20)は、災害時の対応を疑似体験するゲーム「クロスロード」を紹介。「神奈川県版のゲームを作った。プレーヤーは取り組みながら、地域の災害のリスクを知ったり、自分に引きつけて災害を考えたりできる」と述べた。

 名古屋市の看護師後藤凜さん(23)は学生時代、親子対象のサバイバルキャンプに関わった。「スタッフの学生は防災を意識している人が少なかったが、イベントを通して知らず知らずのうちに備えが身に付いていた」とヒントを示した。

 さまざまな防災のアイデアを出し合ってワークショップは終了した。最後に広島修道大の岩田さんは、熊谷さんに向けて「話を聞いてためになった。これからも語り続けてほしい」とエールを送った。

<東日本大震災の語り部から>

■経験伝え 命守りたい/けせんぬま震災伝承ネットワーク、宮城県気仙沼高等技術専門校2年 熊谷樹さん(20)

 東日本大震災の発生時は、気仙沼市内の友達の家にいた。地震が起き、こたつにもぐり込んだ。大きな揺れに耐え、はい出ると室内は、棚が吹き飛んでテーブルが倒れ、割れた食器が散乱していた。

 当時は津波も避難も知らず、すぐに海側の自宅を目指した。内陸に向かう道路は車で大渋滞していた。途中で偶然、徒歩で避難してきた家族と会い、高台の中学校に避難した。

 家は基礎を残して流された。家族と出会わなかったら、自分は家ごと津波に流されたかもしれないと思うと、今でもぞっとする。

 震災の経験を伝えることが人の命を守ることにつながると考え、気仙沼向洋高在学中に語り部活動を始めた。高校の旧校舎は震災遺構になった。

 震災遺構から見える杉ノ下地区は、市指定避難場所で住民93人が亡くなった。ハザードマップの想定より、もっと大きい災害が起きる場合がある。

 避難先を2、3カ所決め、道が寸断されても別の経路で逃げられるように、ルートも複数を設定してほしい。家、学校、職場からばらばらに避難する「てんでんこ」を、家族で日頃から話しておくことが大切だ。(河北新報・渡辺ゆき)

<助言者から>

■「大切な人守る」視点持って/京都大防災研究所 矢守克也教授

 意見交換で「大切な人」というキーワードが出た。防災に関心のない人に、興味を持たせる上で、とても大事なポイントだと思う。

 防災は「自分の命を守ろう」から始まることが多いが、それだけが入り口だろうか。むしろ、あなたは命をどうやって守るのかと問いかけられても、人は「自分は大丈夫」となりがちだ。

 特に若い人は、そのような傾向があると思う。一般論だが、体力があり、情報機器にも慣れていて、自分の命を守れる可能性が高いからだ。

 一方で「田舎に1人で住んでいる祖母は大丈夫か」「大切な孫は大丈夫か」と問いかけられたときに、初めて防災のスイッチが入る人は案外多い。

 ぜひ「大切な人を守るために」という視点で、皆さんが工夫してきたことを進めたり、工夫しようとしていることを始めたりしてほしい。

■新聞各社の参加者が報告した自然災害

※◇は将来発生が懸念される災害、◆は過去の災害
◇千島海溝巨大地震(北海道新聞・今井俊輔さん)

 マグニチュード(M)8クラス以上の巨大地震。北海道太平洋沿岸の広い範囲で10~30メートルの津波被害が想定され、津波による死者想定は最大で10万人。

◆東日本大震災(河北新報・熊谷樹さん)

 2011年3月11日、三陸沖を震源にM9.0の地震が発生し、最大震度7を観測。東北地方を中心に大津波が襲い、死者・行方不明者は計1万8423人。

◇首都直下地震(神奈川新聞・小林美月さん)

 東京都心南部でM7.3の地震が起きた場合、神奈川県の想定では、死者2990人、負傷者約6万2740人。通信回線の逼迫や帰宅困難者の大量発生が懸念される。

◆2022年8月の大雨災害(福井新聞・都築大輔さん)

 福井県南越前町の鹿蒜(かひる)川と河野川が氾濫した。死者はいなかったが、町内で住宅230棟が被害を受け、1093戸が断水した

◇南海トラフ巨大地震(静岡新聞・高橋奈那さん)

 最大M9クラスの地震。静岡県の地震想定では、下田市で最大33メートルの津波が到達。犠牲者は静岡県だけで最大10万5000人に上る。

◆2000年9月の東海豪雨(中日新聞・後藤凜さん)

 愛知県を中心に記録的な大雨となった。県内各河川の破堤は45カ所に達し、浸水家屋は県内で約6万8000棟を超え、伊勢湾台風に次ぐ浸水害となった。

◇水害(京都新聞・安立竜清さん)

 毎年、梅雨や台風などによる集中豪雨で、平年の1カ月の雨量を超えるような雨が短時間で降り、河川の氾濫や山崩れなどが起きている。

◇南海トラフ巨大地震(神戸新聞・稲沢遥樹さん)

 兵庫県の被害想定で最大震度は7、津波高の最大は南あわじ市8.1メートル、神戸市3.9メートル。死者2万9100人のうち津波の犠牲が96%を占める。

◇土砂災害(中国新聞・岩田佳吾さん)

 広島県は、まさ土の土砂災害が発生しやすい土壌が広がる上、山に近い場所にも住宅地があり、土砂災害警戒区域は全国最多。今後も土砂災害の発生が懸念される。

◇南海トラフ巨大地震(高知新聞・石川紗羅さん)

 高知県では最大で震度7の揺れ、沿岸部では30メートルを超える津波が押し寄せる。最悪の場合、死者数は4万2000人とされる。

◆2022年9月の台風14号(宮崎日日新聞・中田翔さん)

 最大風速55メートルと「過去に匹敵する台風がない」(気象庁)ほどにまで発達。県内で3人が亡くなったほか、土砂崩れ、停電、断水、住宅被害が相次いだ。

<311メディアネット>河北新報社が展開する防災の巡回ワークショップ「むすび塾」を共催した全国の地方紙、放送局が参加するネットワーク。防災機運を盛り上げるため、東日本大震災の発生日前後に共通タイトルの特集や連載、番組を組む。今年が6回目。

 メンバー 北海道新聞、河北新報、東京新聞、神奈川新聞、福井新聞、静岡新聞、中日新聞、京都新聞、毎日放送、神戸新聞、中国新聞、高知新聞、宮崎日日新聞

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