「仲間とともに勝つ」<エースへの階段 東北高・ダルビッシュ投手(下)主将の自覚>
最速150キロの快速球を誇り、全国の球児たちの目標となっている東北高の主将ダルビッシュ有投手(3年)。イラン出身で学習塾経営の父ファルサさん(44)、母郁代さん(46)=大阪府羽曳野市在住=の間に生まれた繊細な少年は、野球を通じてたくましく育った。最後の「夏」に挑むエースの成長の過程を追った。(スポーツ部・阪本直人)
一投手の役割を
秋田市内で春季東北大会第2日準々決勝があった6月5日夜、ダルビッシュ有投手(3年)の母郁代さん(46)は大阪・羽曳野市の自宅で、息子からの電話を受けた。前日の1回戦秋田(秋田)戦で1回を投げ、3安打1失点と不調を極めたダルビッシュ投手。電話の内容は野球とは無関係だったが、母にはぴんと来た。
「大会中に電話してくるのは気が集中していない証拠」。郁代さんは「チームの一投手として自分の役割を果たせばいい。ヒットを何本打たれたっていいじゃない」と息子をしかった。
志願の救援登板
「しっかりしないといけないと思った」とダルビッシュ投手。翌日の準決勝、羽黒(山形)戦。先発采尾浩二投手(3年)が1回に2点を先制されると、自らブルペンに赴き肩をつくった。志願して4回から救援し、6回を2安打1失点。気迫の投球で勝利に導いたエースを若生正広監督は「主将としての自覚が感じられた」とたたえた。
勝利に向かってリーダー役を果たすダルビッシュ投手をボーイズリーグ全羽曳野時代に指導した山田朝生監督は「みんなを引っ張っている姿を見るのが一番うれしい」。教え子の成長ぶりを喜ぶ。
投手としても一つの壁を乗り越えた。6月27日、秋田市・秋田県立野球場で行われた横浜(神奈川)との招待試合。先発した1回、電光掲示板に「150キロ」の表示が光った。周囲が期待を寄せる大台をクリア、試合後には「ほっとした」とダルビッシュ投手。父ファルサさん(44)は「数字は気にしないといっても本人にもこだわりはある。これで楽になれる」とほほ笑む。
昨夏の雪辱期す
チームの仕上がりも順調だ。7月上旬のこと。ダルビッシュ投手は打撃練習で東北のレギュラー陣と対戦した。唯一、1年の成田恭佑外野手に速球をライト前に運ばれた。一瞬悔しそうなしぐさを見せたが、「1年生が打てば、ほかの選手にも刺激になる」と笑みがこぼれた。
あと一歩で大旗を逃した昨夏の悔しさを忘れていない。「みんなと一緒に勝つ。声を出し、全力疾走でチームを引っ張りたい。最後なので悔いを残さない」。主将の言葉は頼もしかった。
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