本を選ぶ楽しさ広がる ブックカフェや図書施設 【特集】つながる本棚
読書をするのにいい時季になった。書店などで本棚を見ていると、思わぬ本との出合いに恵まれる。最近は、本を通じて客と店側、利用者同士といった新たなつながりが生まれる空間が増え、本を選ぶ楽しさが広がっている。仙台市内で、一般の書店や公立図書館と一味違ったブックカフェや図書施設を巡った。
<Antique&Café TiTi>築100年の蔵でゆったり
J R 仙台駅東口の住宅街にあるAntique&Café TiTiは、白い壁のすっきりとした外観が目を引く。築100年の蔵をリノベーションし、壁一面にぎっしり詰まった本が印象的なカフェだ。
店主の高橋裕美さんは「少なくとも3000冊はあると思います」と話す。12年前に亡くなった父鈴木孝壽さんが残したたくさんの書籍を中心に、家族の分も加わっている。
ジャンルは幅広い。漢字に関する白川静の書籍や歴史、科学、スポーツの本の他、北杜夫、伊坂幸太郎、恩田陸ら仙台ゆかりの著者の小説、コミックなど。友達の家を訪れて、本棚を見せてもらっているような気分になる。
貸し出しはしていないが、店内で自由に読める。「ここにある本はどれも家族の思い出。本を通してお客さまと話をするのが楽しい」と、オーナーである母の鈴木裕子さんは笑顔を見せる。
2階には、タイプライターや照明などアンティーク雑貨がたくさん並び、実際に買うことができる。落ち着いた雰囲気で本に親しめる。
仙台市宮城野区鉄砲町中5-8
営/11:00~19:00
休/木曜
TEL 022-353-9897
<book cafe 火星の庭>本との一期一会 橋渡し
古書店と喫茶店の両方を備えた、仙台市内の先駆けがbook cafe 火星の庭だ。絵本、文芸、美術、思想、郷土史…。さまざまな分野の本が約8000冊並ぶ。
古書コーナーの隣のカフェで、買ったばかりの本を早速読む人たちの姿が見られる。
本を購入する前でも、コーヒーや紅茶などを飲みながら、気になる本を自席に置いてじっくり選べる。
開店して23年。WEBサイトでも古書を販売している。店主の前野健一さん、久美子さん夫妻は「『ずっと探していた本が見つかった』と目の前で言われたときに勝る喜びはない」と実店舗ならではの喜びを語る。
「欲しいと思った本が必ずあるとは限らないけれど、その代わり意外な1冊に出合えるかもしれない」と、夫妻は訪れる人に、本との一期一会を楽しみにしてほしいと願う。
店内には、ジェンダーや労働問題、子育てや生活の悩みがある際の支援の窓口を紹介した市民活動のチラシなども置かれている。カフェのある古書店を通じて、関心のある市民同士を結び付ける役割も果たしている。
仙台市青葉区本町1-14-30
ラポール錦町1階
営/11:00~18:00
休/火・水曜
TEL 022-716-5335
<荒井まちのわ図書館(私設図書館)>オーナー制 大人の部活
地下鉄東西線開業後、町づくりが進む若林区荒井に昨年6月オープンしたのが、私設の「荒井まちのわ図書館」だ。面積は約90㎡。近くで福祉施設を運営する未来企画(福井大輔代表)が、NPO法人まちあす(同)に委託して管理している。
蔵書は3000冊。福井さんや法人職員らが提供した小説などに、利用者が自ら選んだお薦めを並べ、貸し出しをする「一箱本棚オーナー制度」による本が加わる。
月2000円を払ってオーナーになると、縦44cm、横42cm、奥行き30cmの区画を借り、本などを自由に並べられる。20代~70代の35人がオーナーになっている。
個性的なのは、オーナーらが交代で店番をしていることだ。その時間、本や自分で作ったアクセサリーなどを販売できるほか、自分の興味のある講座を開くこともできる。
本棚オーナー制度は運営費の一部を捻出する一環だった。しかし、それ以外にも利点が出ている。「オーナー同士や来館者と交流できるのが楽しいと話してくれます。まるで『大人の部活動』のようです」。福井さんは、この場所で多世代が緩やかにつながり、新たなコミュニティーが生まれていると語る。
オーナーが多くなるほど、開館する日や時間が増えることになる。今後、ますます利用しやすくなる可能性が大きい。
入館は無料で、本を借りたい場合は貸し出しカード(300円)を作って利用する。
仙台市若林区荒井3-2-2
営/10:00~17:00
(短縮・延長の場合あり)
休/臨時休あり
TEL 022-352-7296
<8BOOKs SENDAI(会員制図書施設)>8コンセプト 本を分類
表紙で紹介した8BOOKs SENDAIは、銀行の支店が昨年8月、民間の会員制図書施設として生まれ変わった。1万冊の蔵書を館内で自由に読める。
施設は鉄骨2階で広さは約5400㎡。ソファーを含む75席あり、円卓も置かれている。
蔵書の並べ方が個性的だ。「なりたい」「表現する」「参加する」など8つのコンセプトごとに分類。例えば「旅行」に関しては、ガイドブックや紀行文、写真集が一緒に置いてある。
貸し出しをしていないため、ニックネームや交流サイト(SNS)などを記した自分のしおりを、読みかけの本に挟めるのもユニーク。同じ本を読んだ人同士が、しおりを介してコミュニケーションを取れる。
運営するのは市内の不動産仲介業「アイ・クルール」。スタッフの荒川美風さんは暮らしに寄り添う会社として、本を通じた市民交流の場になるようにしていきたい」と話す。
館内では定期的にイベントなども開催している。
月額料金は大人3000円、大学生2000円、中高生1500円、小学生1000円、未就学児無料(1ドリンク無料)。日額の料金体系もある。
仙台市太白区八本松1-15-25
営/9:30~19:00(LO18:30)
休/水曜
TEL 022-748-5781
(河北ウイークリーせんだい2023年9月7日号掲載)