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ガラスペンとインクで遊ぼう 【特集】「書く」を彩る

ガラスペンは2ページで紹介するフリーライター杉浦百香(ももか)さんの愛用品。「HASE硝子工房の『ストライプショート』という種類で、美しさと書きやすさのバランスが取れた逸品です。ブラックライトを当てると光ります」(写真 鈴木 信敏)

 近年、インクやガラスペンにハマる人が続出している。インクの種類の豊富さと、ガラスペンの美しさや手軽さが人気の理由らしい。選び方や楽しみ方を達人に教えてもらった。

作り手の個性あり 好相性の1本探そう

 透明感があり、目に美しいガラスペン。せっかく買うならデザインも書き味も納得のいくものを選びたいが、選び方にこつはあるのだろうか。「ペンとインクと文房具の店 樂」の「ぺん爺」こと藤田千暁さんに聞いた。

 まずはガラスペンの特徴を知ろう。ガラスペンのペン先には縦に数本の溝が入っている。付けたインクは溝にたまり、溝の端が紙に触れることでインクが出る。溝のインクが少なくなると書けなくなってくるので、インクを補充する。

 藤田さんは「メーカーや工房によってペン先や溝の形状が異なり、個性があります。試し書きのできる店なら、ぜひ試してみて」と勧める。軸を回して何カ所か書き味を確かめ、好みの太さの線が書けるか、太さが極端に違うところはないか、書き味の悪いところはないかなどをチェックしよう。

 ペン全体の長さや重さ、持つ部分の太さ、ペン先の長さなどが持ちやすい形状かも確認を。もちろん、ぱっと見ただけで気分の上がるデザインかどうかも重要だ。

 5年ほど前に万年筆インクのブームが到来し、さまざまなインクを気軽に試せるガラスペンが注目された。「愛用者が増えた一方、初めて買ったペンの書き味が悪くて使わなくなってしまった、という声もよく聞きます」と藤田さん。「ガラスペンは正解がありません。最初の1本はぜひ相性のいいものを見つけてください」と話す。

ぺん爺流アドバイス

◆インクの付け方
 インク瓶にペン先の1/2か1/3ぐらいまで入れてインクを付けます。付け過ぎると線が太くなったりインクがボタッと落ちたりするので注意。ペン先は細くて折れやすいので、瓶の口や底などにぶつけないように気を付けてください。

◆ペン先の洗い方
 コップに入れた水にペン先を浸し、ティッシュやキッチンペーパーなどで水分を吸い取ります。一日の最後に、溝に残ったインクやラメを歯ブラシでしっかり落としましょう。

童心に返って楽しんで

ガラスペンは左利きでも書きやすい

 「ガラスペンは買うことも使うこともエンタメ。文房具の世界に新たな風を吹かせたと思います」。フリーライター杉浦百香さんは、こう絶賛する。工房が作るガラスペンは1つ1つが職人の手作りだ。美しく個体差があるからこそ、作り手の話を直接聞いてから買うのが楽しいのだという。

 子どもの頃から文房具が大好き。ガラスペンが万年筆インク好きに注目され始めた5年前は出産したばかりで試す余裕がなかったが、「万年筆より簡単にインクを替えられる」と1年前から愛用するようになった。左利きの杉浦さんにとっては、左から右に線を書く「押し書き」でもペン先が紙に引っかからず使いやすい。今ではガラスペンや万年筆での書写が習慣になり、仕事や子育ての息抜きにもなった。

 飽きずに使い続ける秘策を聞くと「かっこいいことをしようとしないこと」。初めて文房具を手にした子どものように「童心に返って楽しんでください」と笑った。

X(旧Twitter)のアカウント「朝活書写」に投稿されたお題に合わせて杉浦さんが書写した作品。お題に合わせてどのアイテムを使うかを考えるのも楽しい/ガラスペン…ガラス工房aun「月」/インク…文具の杜「ずんだ」/紙…kaku souvenir「mutsugami春眠」
杉浦さんが愛用しているインクの一部。(1)はラメ入り(2)はご当地インク(3)は時間がたつと色が変わるもの。書くことをシンプルに楽しめる/(1)KEN'S NIGHT「2nd Track9 Round Midnight」(2)文具の杜「ずんだ」 (3)プラチナ万年筆 「クラシックインク カシスブラック」

<杉浦 百香さん>
 会社員勤めを経て2021年からフリーライター。女性向けや企業のWEBメディアなどを執筆する。石巻市在住。

X(旧Twitter)

ブーム受け 種類も価格も幅広く

 お気に入りのガラスペンを手に入れたら、さっそくインクを付けて試してみよう。

 近年のブームを受け、インクの種類は幅広い。万年筆メーカーのものは色数が少ないが、大容量でお手頃価格。インクメーカーのものはバリエーションが豊富で、ラメ入りや香り付き、UVライトで色が変わるものなどもある。

 ペン先のインクをさっと洗うだけでいいガラスペンなら、万年筆では使いづらい「ラメインク」や顔料粒子などが入った「つけペン専用インク」も気軽に使えるのがうれしい。

 インクの使用期限は2、3年が目安で、変質しないように光の当たらない涼しい場所で保管する。ふたを閉めていても揮発するので、なるべく早めに使い切ろう。

 インクは使うペンと紙によって発色が変わる。「最近は紙がブーム。種類がどんどん増えています」と樂の藤田さん。楽しみ方は広がる一方だ。

ぺん爺流アドバイス

◆初心者にお薦めの1本

 ガラスペン初心者には、セーラー万年筆の「SHIKIORI―四季織―」シリーズがお薦めです。1本20ccで使い切りやすく、全部で28色あります。瓶の高さが低く、小瓶の割に瓶の口が広いのもポイント。倒れにくいですし、インクを付けるときにペン先が見えやすいので瓶にぶつけてしまうといったことも少ないと思います。

 当店は300種類ほどのインクを取り扱っており、オリジナルもあります。色見本帳を置いていますので、気軽に見に来てくださいね。

「SHIKIORI―四季織―」の山鳥(1320円)
店内のインクコーナー

<ペンとインクと文房具の店 樂>
仙台市青葉区二日町10-26 ファヴール北四番丁2階
TEL022-397-9188
営/11:00~19:00(土・日曜、祝日は18:00まで)
休/木曜、臨時休あり

X(旧Twitter)

多彩な表現 水彩筆でも

 インクは水彩筆でも多彩な表現ができる。「文字ばかり描いてるイラストレーター」tomomi_type(トモミタイプ)さんは、水彩筆で書く「ブラッシュレタリング」が得意。複数の色を使ったグラデーションもお手の物だ。

 3年前に独立した頃、インクに魅了され「沼」にハマった。日付と曜日を書いてSNSにアップしたり、レタリングで書いたカードを贈ったりしながら、インクと筆記具の組み合わせを楽しんでいる。インクが余ってしまう人は参考にしてみて。

<グラデーションはこう作る>
1.同系色の場合
「1字目は濃い色で、2字目は淡い色を少しだけ筆先に付けて、3字目はさらに淡い色を付けて書きます。グラデーションにならないときは、濃い色のインクをティッシュなどで拭いてから淡い色を付けてみてください」

2.反対色のグラデーション
「反対色の場合は筆2本を使い分けます。淡い色同士を組み合わせるとうまくいきますよ」

1.同系色の場合
2.反対色のグラデーション
トモミタイプさんのお気に入りインク。左から、東北工業大限定「Esquisse Bleu」、彩玉ink「ガリガリ君ソーダ」、BLUE BOTTLE COFFEE×カキモリ、iroshizuku「Yu-yake」、TAKEDA WINERY Sans Soufre ROSÉ
オリジナルフォント字典(1980円)  トモミタイプさんが考案したフォントをまとめた一冊。普段使いから季節ものまで、すぐにまねできそうなフォント133種類を掲載。

<tomomi_typeさん>
 他業種の会社に勤めながら二足のわらじで活動を始め、2020年に独立。宮城県を拠点に、店舗の看板や外壁のウォールアート、グッズデザイン、フォントデザインなど幅広く手がける。仙台市在住。

◆ワークショップ開催
 人気レタリングアーティストDanaeさんとのコラボワークショップを10月18日(水)、仙台市内のカフェで開く。全3回で、内容は各回異なる。参加費が必要。詳しくはInstagramで確認を。

Instagram

(河北ウイークリーせんだい2023年9月14日号掲載)

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