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<311次世代塾>津波の脅威 教訓聞く/第7期第9、10回講座

津波被害と被災地の現状 学ぶ

杉ノ下遺族会慰霊碑の前で黙とうをささげる受講生たち=気仙沼市

 東日本大震災の伝承と防災の担い手育成を目的に、河北新報社などが開く通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」第7期は10月14日、第9・10回講座を気仙沼市で行った。大学生や社会人、高校生ら58人が杉ノ下遺族会慰霊碑と東日本大震災遺構・伝承館を訪れ、津波被害や被災地の現状を学んだ。

 慰霊碑では、「けせんぬま震災伝承ネットワーク」の3人、代表の近藤公人さん(76)、三浦秋男さん(76)、三浦祝子さん(78)が講師を務めた。

 杉ノ下地区には85世帯約310人が暮らしていたが、約13メートルの津波で全戸が流された。慰霊碑は犠牲になった5~97歳の住民93人の名前を刻む。2012年に遺族会が建立した。近藤さんは「犠牲になった人数が市内で最も多い地区。今も行方不明のままの人もいる」と語った。

 一帯は1896年の明治三陸大津波で浸水しなかったという。このため市の避難場所に指定されたものの、津波の高さは想定を超えた。震災後、住民の要望で海抜19メートルの避難タワーが整備された。三浦秋男さんは「災害の歴史があっても100年たてば油断が出る。地震が起きたらとにかく早く高く、遠くへ逃げることが大事だ」と訴えた。

 三浦祝子さんは避難場所近くの自宅で津波に遭った。がれきの中からはい出し一命を取り留めたが、そばで高齢者の手助けをしていた夫の正三さん=当時(67)=を亡くした。「第1波が来ても逃げずにいたら、波が前後から来た。ここまで来ないという思い込みが被害を大きくした。正しい情報を得て、一人一人が命を守る行動をすることが大切」と呼びかけた。

 受講生からは語り部の担い手についての質問があった。近藤さんは「高齢化が進む。若手を育成し、地元の中高生も活動しているが、進学や就職などで地域を出てしまうことが多い」と話した。

 講師の話を前に、受講生たちは犠牲者に献花し、黙とうした。

 伝承館では、震災遺構の気仙沼向洋高旧校舎を視察。津波で流された工場が衝突して壊れた4階の校舎外壁、建物内に流入した車やがれきが当時のまま残る3階部分など、津波の脅威を物語る展示を見学した。

<受講生の声>

■伝承施設は大切
 車やがれきが散乱した教室を見て津波被害の大きさを実感した。私も12年前に石巻で被災したが、当時の記憶は薄れてきている。災害は繰り返し起きるからこそ、震災の記憶と教訓を伝える施設や語り部は大切。被災経験の有無を問わず、多くの人に知ってもらいたい。(石巻市 宮城大3年 杉浦妃舞(ひらり)さん 21歳)

■復興はまだ途上
 歴史ある農地や地域文化が津波で流された。防潮堤などハード面の整備が進んだ一方、働く場が少なく若者が市外に出て行くなど、目に見えない部分の復興はまだ途上にある。地域文化やなりわいの再生、経済成長を促す手だてが必要と感じた。(仙台市太白区 東北管区行政評価局職員 坂田涼太朗さん 24歳)

<メモ>

311「伝える/備える」次世代塾を運営する推進協議会の構成団体は次の通り。河北新報社、東北福祉大、仙台市、東北大、宮城教育大、東北学院大、東北工大、宮城学院女子大、尚絅学院大、仙台白百合女子大、宮城大、仙台大、学都仙台コンソーシアム、日本損害保険協会、みちのく創生支援機構。

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