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アレンジ無限大 懐深い食材 【特集】正月間近 餅が食べたい

 米どころの宮城県は餅どころでもある。油断すると食べ過ぎてしまうほど、餅はするするとのどを通っていく。餅料理に詳しいカフェKaffe tomte(カッフェ トムテ)(仙台市青葉区立町)オーナー相原百合さんに、ひと味違うレシピを教えてもらった。

<Kaffe tomte>
仙台市青葉区立町18-12
ライオンズマンション西公園第3 1階
営/水曜17:30〜21:00(LO 20:00)、木曜11:30〜15:00(LO 14:00)

アレンジ無限大 懐深い食材

 餅食で知られる一関市出身の相原さんは、「子どものころから餅は食べ飽きるぐらい食べてきた」と振り返るぐらい餅食に浸ってきた。祝儀、不祝儀のときだけでなく餅は日常的に食卓に並んだ。

 「どうせ食べるならちょっと変わった感じで食べたい」と思い、数々の餅レシピを編み出してきた。「秋田県には軟らかい食感と甘さが特徴のバター餅がある。甘いもの、しょっぱいものと組み合わせるだけではない。アレンジの可能性は無限大です」と相原さん。

 餅はピザ風にしてよし、春巻きの皮にチーズやハムと一緒に包んで揚げてもよし。懐が深い食材でもある。

 相原さんが最も好きな食べ方は何か尋ねると、「白い餅に塩を付けて食べるのが1番。塩むすびみたいだから」。極めると「シンプル イズ ベスト」なのかもしれない。

中華風餅あんかけ

 野菜たっぷりで彩り鮮やか、ごま油とラー油が食欲をそそる中華味。角切りの餅をからりと揚げて具だくさんのあんをかける。栄養、ボリュームとも満点の一皿だ。餅を揚げるときは、周囲が固まるまでなるべく触らないのがコツ。くっついても後ではがせるので慌てずに。揚げずに焼いてもOKだ。

<レシピ>

材料)2人分
切り餅…2個
豚こま切れ肉…50g
小エビ…50g
パプリカ… 赤、黄色各1/4個
ネギ…1/2本
雪菜…1/2株
シメジ…1/4株
ニンニク…1片
ショウガ…1片
パクチー…(お好みで適量)
合わせ調味料=だし醬油… 大さじ1 、片栗粉…小さじ2、水1カップ(だし醬油の濃さによって調整)
紹興酒…大さじ1(日本酒で代用可)
塩…ひとつまみ
こしょう…少々
ラー油…少々

作り方)
①米油またはサラダ油(分量外)をフライパンの底から1㎝程度注いで180℃に熱し、さいこ
ろ状に切った餅をカラッと揚げ取り出しておく
②野菜を小さめにカットし、雪菜は茎と葉を分けておく。ニンニク・ショウガはみじん切りにする。小エビに片栗粉をまぶしておく
③フライパンにごま油(分量外)とニンニク、ショウガを入れて火にかけ、香りが立ったら豚肉、小エビを加えて炒める
④豚肉の色が変わったら野菜(雪菜の葉以外)と塩、こしょう、紹興酒を加えて強火で炒める。合わせ調味料と雪菜の葉を加え、沸騰したら中火にして10秒ほど加熱して火を止める
⑤皿に❶を盛り、❹をかけてラー油を回しかけ好みでパクチーをトッピングして出来上がり

セリと好相性 小腹満たそう

<セリとしらすのまぶし餅>

 寒さと共にうまさが増す地元食材・セリは餅にも好相性。たっぷり使って、鮮やかなグリーンとすがすがしい香り、シャキシャキした食感を楽しもう。調味料もシンプルで思い立ったらあっという間に作ることができる。小腹が空いたときや子どものおやつにぴったりだ。「焼きのりで巻いて食べるのもお勧め」と相原さん。しらすの代わりに小エビを使えば香ばしく色鮮やかに。ゴマや青のりなどいろいろな食材を試してみては。

<レシピ>

材料)2個分
切り餅…2個
セリ…1株
しらす…大さじ2
醬油だれ=醬油…小さじ2、だし醬油…小さじ1、砂糖…小さじ1/2

作り方)
①セリは刻んでしらすと交ぜておく。醬油だれの材料をよく混ぜておく
②耐熱容器に餅とかぶる程度の水を入れ、ラップをかけずに500~600wの電子レンジで2分~2分30秒加熱する(レンジによって差があるので時間は調整を)
③❷に醬油だれをからめ、セリとしらすをまぶして出来上がり

練乳練り込み 甘い汁で

<ココナツ汁粉>

 ベトナムのスイーツ「チェー」を身近な食材でアレンジ。現地ではタピオカや白玉を使うことが多いが、今回は練乳を練り込んだ餅を使う。ココナツミルクベースの温かい汁と合わせた。餅やあんこといった和食材がエスニックな風味をまとい、口の奥から鼻腔へ異国の風が吹き抜ける。

 スイーツにトウモロコシは意外だが、ほのかな甘みと歯切れのいい食感が濃厚なお汁粉によく合う。ミントは味と香りのアクセントになるので、手に入ればぜひ使おう。ポイントはココナツミルクに適量の塩を入れること。味が引き締まり食材それぞれの甘みが引き立つ。相原さんは「餅は切って焼いて練乳をからめるだけでもおいしくなる。気軽に作ってみて」と話す。

<レシピ>

材料)4人分
切り餅…2個
練乳…大さじ2
片栗粉…適量
ココナツミルク…1缶
砂糖…大さじ2~3
塩…小さじ1/2
ミントの葉…適量
粒あん(缶詰)…1人当たり大さじ1〜2(お好みで)
トウモロコシ(缶詰)…1人当たり大さじ1〜2(お好みで)

作り方)
①耐熱容器に餅と練乳、水大さじ4(分量外)を入れてラップをかけ、500~600wの電子レンジで2分加熱。箸でよく混ぜ8個に分けて丸め、片栗粉をまぶしておく。※レンジによって差があるので時間は調整を。混ぜている途中で硬くなったら再度軽くレンジにかける
②ココナツミルクに砂糖と塩を加えて鍋で煮溶かし、❶を入れて沸騰寸前で火を止め器によそう。粒あん、トウモロコシ、ミントをトッピングして完成だ

草餅 鈴木餅店|優しい味わいとよもぎの香り

きな粉たっぷりの草餅

 伊達政宗を祭神とする青葉神社(仙台市青葉区青葉町)参道入り口近くに店を構える。かつては堤通雨宮町で40年以上営業した後、現在地に移転して21年になる鈴木餅店のショーケースには看板の餅はもちろん、おこわやがんづき、団子、まんじゅうなど多彩な品々が並ぶ。

 幅広い年代に人気があるのは草餅だ。あんこなし、こしあん、つぶあんの3種類で、きな粉をたっぷりまぶしている。自家製あんこは根強い人気。あんこが苦手な人にはあんなしで。「あんこなしに砂糖を振りかけてもうまい」と店主の鈴木好古(よしふる)さん。

 よもぎの香り、きな粉の優しい味わい、餅の軟らかさ口中でハーモニーを奏でる。なんとなく懐かしいと感じる味わいは、草餅ならではかもしれない。

 これから年末までは切り餅が中心になる。「正月はどうしてもここの餅じゃないと」と毎年買いに来る人もいるという。

仙台市青葉区青葉町5-3
TEL022-234-3219
営/9:00ごろ〜18:30 ※12月31日(日)は16:00まで
休/日曜、2024年1月1日(祝)~3日(水)

でんがく餅 マルホカフェ|老舗の味継ぐ でんがく餅

老舗の味を受け継ぐでんがく餅。手前から時計回りに醬油、黒蜜きな粉、ごま、あんこ

 寺町の一角にたたずむ和カフェ「マルホカフェ」は餅メニューが豊富。それもそのはず、店主の穂積拓也さんは仙台市若林区連坊で70年続く老舗餅店「萩乃屋」の3代目だ。

 串に刺している「でんがく餅」はもちもちでしっとり。ごま、あんこ、醬油、黒蜜きな粉の4種類ある。店内メニューの黒蜜きな粉は、食べる直前に黒蜜をかけてくれる。甘くて香ばしい味わいがたまらない。

 ごま、あんこ、醬油は老舗の実家の味を受け継いでいる。醬油は地元の味噌醬油屋に特別に造ってもらっているという。穂積さんは「この醬油じゃないと、深い味が出ないのです」と話す。

 あんこは北海道産小豆、上白糖、ざらめ、塩だけで作る。食育に熱心な幼稚園から「餅つきをするから、あんこだけ欲しい」という注文もあるという。

 豆餅、大福、草大福もある。でんがく餅を含めいずれも150円。

仙台市青葉区北山1-2-24
TEL022-707-3621
営/11:00〜16:00(LO15:30、餅の持ち帰りは9:00から)
休/日曜(12月31日は営業)、2024年1月1日(祝)~8日(祝)

しんこ餅 もちっ小屋でん|食感つるり 歯切れよく

つるっとした食感のしんこ餅

 うるち米の上新粉を使って作るしんこ餅。もち米とは異なる歯切れのよさ、つるっとした食感が特徴だ。「仙台ではなじみが薄いかもしれませんが、栗原ではよく食べられています」と話すのは、もちっ小屋でん(栗原市)取締役の狩野弘樹さん。

 うるち米は栗原市産を中心としたひとめぼれ。蒸気を吹き付けながら練る蒸練機で作った生地をついてこしを出す。丸めて水で締めて、こしあんを手包みしたら出来上がり(1個135円)。これを揚げて醬油たれにくぐらせた揚げしんこ餅(155円)も。

 狩野さんによると、米どころの栗原では江戸時代、年貢として上質なコメを藩に納めざるを得なかったことも。残ったくず米をおいしく食べる庶民の知恵がしんこ餅を生み出したという。

 狩野さんは「一家だんらんのとき、お茶を飲みながら食べてほしい」と話す。

栗原市一迫真坂本町2
TEL0228-52-2602
営/8:00〜16:00 ※12月31日(日)は12:00まで
休/水曜、2024年1月1日(祝)~4日(木)

種類は多種多様 豊かな食文化反映

東北学院大歴史学科教授
政岡伸洋教授(民俗学)に聞く

 餅は民俗学的にハレの食と考えられてきた。しかし、東北歴史博物館(多賀城市)や私のゼミの学生らが2008年度、宮城県内で調査したところ、日常的に食べられていることが分かった。

 東北地方は水田が多い。宮城では江戸時代、伊達政宗が積極的に新田開発を進めた。徳川家康が江戸を開いたことがきっかけだろう。火山灰土の台地が多い関東で、江戸の人口を賄うだけのコメを作るのは難しい。政宗は戦略的にコメを増産した。農民にとってコメは商品なのでたくさん食べるものではない。雑穀を交ぜるなど増量していた。

 有り余るほどの水田で、農民はもち米を作った。調査によると年中行事や来客時だけではなく、食べたいときに食べる「クデモチ」というのもあった。江戸時代には40種類もの餅食があったという報告もある。

 私は兵庫県尼崎市出身で、東北学院大に赴任するまでは関西を中心に民俗調査をしてきた。関西で餅といえば雑煮かあん餅ぐらい。仙台に来て驚いたのは種類の多さ。ずんだ、エビ、カニ、納豆、ジュウネ、クルミなど多種多様。山、川、海の食材に恵まれている証拠だ。宮城をはじめ東北は食文化のレベルが非常に高い。

 江戸時代の東北は「飢饉」「貧しい」というイメージがあるかもしれないが、薩長を中心とした明治政府が東北を支配するためにつくったもの。「あなた方は遅れている」との意識を植え付けることで、支配しやすくしたのだ。

 宮城で長年続いている餅食は、豊かさの表れといえるだろう。

<まさおか・のぶひろ>1964年、兵庫県尼崎市出身。四国学院大助教授、東北学院大助教授などを経て2008年から現職。

(河北ウイークリーせんだい2023年12月14日号掲載)

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