<311次世代塾>被災家庭 多様な悩み/第7期第13、14回講座
経済環境や偏見 課題が浮上
東日本大震災の伝承と防災の担い手育成を目的に、河北新報社などが開く通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」第7期は12月9日、第13・14回講座を仙台市宮城野区の東北福祉大仙台駅東口キャンパスで開いた。大学生64人が、震災後の子どもの学習支援や親を亡くした子どもの心のケアについて理解を深めた。
NPO法人アスイク(仙台市)の代表理事大橋雄介さん(43)、東松島子どもグリーフサポート(東松島市)の代表理事菅原節郎さん(73)が講師を務めた。
アスイクは震災直後の3月下旬から、学生ボランティアらと仙台市内の避難所を回り、子どもの学習をサポートする活動を始めた。石巻市、多賀城市、宮城県亘理町と範囲を広げ、仮設住宅や借り上げ住宅で暮らす子どもの学びの場をつくった。
学習支援を入り口に子どもや保護者と関わると、震災による失業など家庭の経済環境の悪化、物心両面の支援を受ける被災者へのねたみや偏見、みなし仮設住宅に転居した被災者の孤立などさまざまな課題が浮上した。大橋さんは「貧困をはじめ、震災前から存在する問題が震災で悪化した。普段から困難を抱える人を支える社会の仕組みづくりが必要」と訴えた。
質疑応答で受講生に「被災者への偏見やねたみにどう対応したらいいか」と問われた大橋さんは「生活保護や新型コロナウイルス禍でも同じような問題が起きている。支援者は当事者意識を持って関わり、理解する人を増やすことが大事」と述べた。
震災発生当時、東松島市議だった菅原さんは妻の郁子さん=当時(53)=、長男諒さん=同(27)=を津波で亡くした。住民に避難を呼びかけようと自宅を出る前、2人と言葉を交わしたのが最後だった。「代われるものなら代わりたい。なぜ一緒に逃げなかったのかと今も罪悪感がある」と心情を吐露した。
避難所運営に携わり、市内で親を亡くした子どもが三十数人いることを知った。11年5月、専門家の協力を得て震災遺児の心の回復を支えるグリーフケアを開始。子どもが自由に遊び、安心して思いを話せる場を設けて支援活動を続ける。同じ遺族の立場で保護者のケアも担う。
菅原さんは「東松島市野蒜地区だけでも約500人が犠牲になり、その何倍もの遺族がいる。今後は大人も含めた遺族の心のサポートにも力を入れたい」と展望を語った。
<受講生の声>
■助言生かしたい
震災を経験した子どもたちが傷つくようなことは聞かないようにする一方、子どもが話し始めたときはしっかり受け止めるという大橋さんの言葉が印象に残った。子どもたちの居場所づくりのサークルに入って活動している。大橋さんの助言を活動に生かしたい。(栗原市 東北福祉大1年 頼住優翔さん 19歳)
■活動継続に感銘
津波で大切な家族を亡くしながらも、親を亡くした子どもの心のケアのために震災直後から行動し、今も活動を続ける菅原さんの姿に感銘を受けた。私は大学で心理学を学んでいて、将来は人の心をケアする仕事に就きたいと考えている。今日の学びを生かしたい。(塩釜市 宮城学院女子大2年 阿部葵さん 20歳)
<メモ>
311「伝える/備える」次世代塾を運営する推進協議会の構成団体は次の通り。河北新報社、東北福祉大、仙台市、東北大、宮城教育大、東北学院大、東北工大、宮城学院女子大、尚絅学院大、仙台白百合女子大、宮城大、仙台大、学都仙台コンソーシアム、日本損害保険協会、みちのく創生支援機構。