閉じる

<311むすび塾>情報共有 安否確認に力@少林寺拳法美里スポ少

災害時のSNS活用

SNSを生かした災害対策について話し合った「むすび塾」
被災体験や備えの課題を発表する中学生
出来川の決壊地点(中央奥)から水の流入した宮城県美里町鳥谷坂地区=2022年7月17日午前11時ごろ

 河北新報社は6月24日、110回目の防災ワークショップ「むすび塾」を宮城県美里町の青生コミュニティセンターで開いた。地域の児童生徒が活動する少林寺拳法宮城美里スポーツ少年団は、交流サイト(SNS)を日常の連絡に使うほか、2022年7月の大雨など災害時の情報共有にも役立てている。指導者と団員の中学生、保護者の計7人が当時を振り返り、SNSの活用策を話し合った。

 東北大災害科学国際研究所の菅原大助准教授(48)、田辺亜澄助教(41)が助言者として参加した。

 スポ少団員約60人の居住地は美里町、加美町、涌谷町、大崎市、石巻市の5市町で、美里町などの施設に集まり練習する。連絡網は通信アプリLINE(ライン)を使い、親のグループに一斉通知。親からの返信は、指導者に個別に投稿する仕組みにしている。

 昨年7月の大雨は、大崎市と涌谷町で堤防が決壊。美里町も笹舘地区と鳥谷坂地区で浸水被害があった。「危機感を覚えるすごい雨だった。近くの貯水池があふれて道路が冠水し、万一のときは自宅2階に避難しようと家族で話し合った」と美里町不動堂中3年和田敏弥さん(14)は語る。

 当日は練習日で、大雨の予報を知った副支部長阿部恵さん(54)は、親のグループに練習を早めに切り上げることを通知。団員は雨が強まる前に帰り、事なきを得た。「東日本大震災や過去の大雨から『これくらいは大丈夫だろう』は絶対にいけないと学んだ。その後も、道路の冠水や断水などの情報を共有し注意を促した」と振り返った。

 市民がデジタル技術を使って災害時に助け合う防災コミュニティーの研究をしている田辺助教は「組織で役割分担し、阿部さんの代わりに他の人が発信する仕組みもあるのは理想的だ。他の地域、団体の参考になる」と評価。「災害時は情報が鍵になる。県や市町村などの必要な情報を得る方法を、事前に知っておくことも重要だ」と助言した。

 団員のグループラインもあり、練習連絡以外に災害時の安否確認にも活用。21年3月に宮城県で最大震度5強を観測した地震が発生し、JR東北線が止まった際、電車内の団員と連絡を取り、車で送迎する段取りを付けた。

 災害時のSNSの活用の課題について、小学生の保護者で美里町の主婦斎藤亜佐美さん(39)は「スマートフォンを持っていない小学生が、1人でいる時に災害が起きたら心配だ。学校から持ち帰るタブレットで避難の情報を知らせ、安否確認もできたらいい」と述べた。

 「タブレットをネットワーク環境で使えるようにすれば、災害時に活用できる。ネットワークに接続しなくても災害対応のアプリを入れておく方法もある」と菅原准教授。「学校のタブレットは大きな可能性がある。行政、学校に災害時の活用を要望し、実現してほしい」と呼びかけた。

2022年7月 宮城県内の記録的大雨/相次ぐ決壊 203棟全半壊

 宮城県内は2022年7月15日夜から16日にかけて、北部を中心に記録的な大雨となった。気象庁は15日深夜、東松島市、松島町、大郷町で1時間に約100ミリの猛烈な雨が観測されたとして、記録的短時間大雨情報を発表。大崎市と松島町は緊急避難確保、石巻市など6市町村は避難指示を発令した。

 16日午後10時までの48時間降水量は大崎市古川が259.5ミリ、栗原市築館226.0ミリでともに観測史上最大を記録。大崎市鹿島台251.0ミリ、大衡村大衡245.5ミリは、いずれも7月の最大値だった。

 大雨で涌谷町の名鰭(なびれ)地区で出来川が決壊。流域の美里町鳥谷坂などで床上・床下浸水が相次ぎ、消防団などがボートで孤立した住民を救出した。大崎市は名蓋(なぶた)川の決壊などで広範囲が浸水し、加美町では国道457号が陥没し、通行止めとなった。

 住宅被害は全壊が松島町で3棟、半壊が大崎市、美里町など5市町で200棟。床上・床下浸水は15市町村で1461棟に上った。12市町村が一時、避難所を開設し、412人が避難した。

<助言者から>

■未使用者への伝達 重要/東北大災害科学国際研究所准教授 菅原大助さん(48)

 SNS(交流サイト)が普及した今は、SNSでつながっていない子どもやお年寄りに、命を守る情報を伝えることが大きな課題になっている。近所にそのような人がいたら、SNSを使っている人が、情報の橋渡し役になってほしい。ただし、1人で多くの人をサポートするのは大変だ。そんなとき、協力の呼びかけにもSNSは役に立つ。

 自分に必要な情報がどこにあるか分からない、情報を出す側が住民の求める形で提供できていない、といった課題もある。一人一人必要な情報は異なる。AI(人工知能)を活用するなどして、情報が行き渡るようにしないといけない。

■デジタルで共助高める/東北大災害科学国際研究所助教 田辺亜澄さん(41)

 町内会は高齢化や人手不足に直面している。1人暮らしの若者や、親戚が遠くに住んでいる人も増え、災害が起きたときに、昔ながらの助け合いが働かない可能性がある。デジタル技術を活用し、若い人も遠くの人も参加しやすいネットワークを作ることで、逃げ遅れをゼロにできるのではないかと考えている。

 SNSを使えば、1回の投稿でたくさんの人がニーズを見られる。「近くにいるから助けに行ける」「資格を持っている」などの情報やスキルを合わせて、助ける側の負担を軽く、助けられる側の待ち時間を短くできる。そのような共助を探っている。

関連タグ

最新写真特集