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<311むすび塾>口頭より視覚情報有効@宮城県自閉症協会

自閉症児者の避難と備え

防災イラストなどを参考に意見を交わす参加者
スマホなどを活用して安否確認方法を説明する桂連合町内会会長の山本さん(右)

 河北新報社は8月2日、111回目の防災ワークショップ「むすび塾」を仙台市青葉区の河北新報社で開いた。東日本大震災発生当時、自閉症スペクトラム障害(自閉症)の人と家族は、さまざまな困難に直面した。宮城県自閉症協会の役員が当時を振り返り、日頃の備えと会員間の安否確認について意見を交わした。

 助言者としてNPO法人自閉症ピアリンクセンターここねっと(仙台市若林区)の黒沢哲常務理事(47)、仙台市泉区の桂連合町内会の山本寿充会長(62)が参加した。

 同協会は県内の自閉症児者の親ら103人で構成する。震災当時の状況について、吉田三千代さん(69)は「人が多い避難所には行けないと思い、次男を連れて親戚宅に身を寄せた」と振り返った。他の参加者からも「車の中で過ごした」など、避難所を回避した証言が相次いだ。

 仙台市内で被災した目黒久美子さん(67)は「当時20代の次女を職場に迎えに行けたのは発生3日後で、ずっと泣いていたそうだ。もっと早く連絡が取れれば良かった」と回顧した。

 自閉症の人は生活習慣や環境が突然変わったり、日程が見通せなかったりすると強い不安感を覚える。片付けを終えて家に戻る日を具体的に示し、落ち着かせたことが報告された。

 都丸あさかさん(54)は「当時小学2年だった長男は地震の後、2時間泣き叫んだことがあった。水道が止まり、家で不自由な避難生活を送る中、苦し紛れに断水を絵で伝えたら通じた」と振り返った。

 避難や防災のイラストやピクトグラムのアイデアも出し合った。渡辺久美子さん(65)は、次女(36)とのコミュニケーションに活用している(1)人の姿と吹き出しの図案(2)時計の絵とメモ欄に時刻と項目を書き込むシート-を紹介。「普段から使えるものがあると、災害時も混乱しない」と提案した。

 自閉症の特性で色やデザインに目が行き、肝心の身を守る行動が伝わらないこともあるという。参加者からは「最低限の情報や色でシンプルなデザインに」「肯定的な表現で伝えて」との要望があった。

 自閉症児者と家族を支援する黒沢さんは「情報の視覚化は、口頭で伝えるよりも有効。誰が何をするか明快に示すことが大切だ」と指摘。「例えば、避難経路は非常口マークに向けて歩く親子の図案もいい。イラストやピクトグラムを訓練で何度も見て行動し、体験と結びつけると定着する」とアドバイスした。

 今後、河北新報社と県自閉症協会は連携して、視覚情報の防災ツールの作成に取り組む。

 参加者からは「震災後、会員の安否確認ができず混乱した」という声も上がった。桂町内会連合会は、デジタル技術を住民の安否確認や要援護者マップなど防災活動に生かし、先進事例として知られる。

 仙台市地域防災リーダーでもある山本さんは、グーグルフォームを使った安否確認システムの導入方法を解説。「協会の既存のブログを活用して簡単に始められる。災害時は安否確認を含め、速やかな情報収集と伝達が大事だ」と述べた。

指定避難所 避ける傾向/被災4県でアンケート

 日本自閉症協会が東日本大震災後、岩手、宮城、福島、茨城4県の自閉症児者を対象に実施したアンケートによると、自閉症児者と家族は指定避難所を避ける傾向があった。

 東日本大震災発生後、避難した人は24.3%で、避難していない人が73.7%。アンケートの自由記述と、学校や関係団体の聞き取り調査から、一般の指定避難所に本人が入れなかったり、自閉症児者特有の行動から家族が気兼ねしたりして、多くの家庭が車中泊や親戚宅に身を寄せていたことが浮き彫りになった。

 災害時に必要とされた支援などを複数回答で質問したところ、「自閉症児者本人が安定する場・対応」が56.0%で最も多く、「自閉症児者への理解・配慮」44.7%、「家族の安否確認ツール」と「物資の配給」がそれぞれ43.2%で続いた。

 指定避難所以外の場所では、物資の支給が受けられなかったほか、自閉症児を連れて長時間、店舗に並ぶのも難しく、食料品の確保に苦労する状況だった。

 調査は2011年12月、975世帯を対象に実施し、514世帯から回答を得た。

<助言者から>

■変化が苦手 特性知って/NPO法人自閉症ピアリンクセンターここねっと常務理事 黒沢哲さん(47)

 自閉症の特性を知ってほしい。本人にとって重要なのは、自分のペースを維持すること。このため災害が発生すると、災害そのものよりも、いつもと状況が大きく異なることに生きづらさを感じる。いつ終わるか分からない状況も苦手だ。

 聴覚、嗅覚が過敏なため、大変な思いもする。震災では特に、緊急地震速報の音が負担だったという。

 震災発生後の家族の体験談を聞き、改めて自閉症の本人、家族が災害時に安心できるような取り組みが必要だと思った。支援者として自閉症について地域に情報発信したい。

■「助けて」言える環境を/仙台市泉区桂連合町内会長 山本寿充さん(62)

 桂連合町内会では要支援者を誰ひとり取り残さない、インクルーシブ防災を目指している。2020年に導入したアプリ「桂デジタルコミュニティ」は、金沢市の企業が開発した情報受発信ツール「結(ゆい)ネット」を活用している。

 住民が支え合い、共に生きるには、この「結」がキーワードになる。黙っていると誰も気付かないかもしれない。受け取る側にとっても、まず発信することが重要だ。「助けて」と言われて、助けない人はいないだろう。安否確認を含めて、皆さんで情報発信にトライしてほしい。

自閉症スペクトラム障害(自閉症) 発達障害の一つで、生まれつきの脳機能障害とされる。人とコミュニケーションを取ったり、共感したりするのが難しいなどの特性がある。生活習慣などにこだわりが強く、急な変更に不安感を抱く。聴覚や視覚など特定の感覚が過敏だったり鈍感だったりする。発生率は1000人に1人か2人。知的障害を伴う場合もあり、多様な症状に合わせた支援が必要とされる。

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