<311むすび塾>災害時の判断 大切さ実感@宮城・大郷中
台風19号豪雨の教訓
河北新報社は9月11日、112回目の防災ワークショップ「むすび塾」を宮城県大郷町の大郷中で開いた。2019年10月の台風19号豪雨で大きな被害を受けた地域の中学生が、被災経験や教訓を話し合ったほか、災害時の判断を疑似体験する防災ゲーム「クロスロード」に取り組んだ。専門家と共に災害や防災を自分ごとにとらえ直し、備えや避難の大切さを確認した。
生徒会役員の2、3年生7人が参加。町消防団長の鈴木安則さん(65)、クロスロードを活用し防災教育に取り組む仙台市の市民団体「わしん倶楽部」代表で防災士の田中勢子さん(70)が助言者を務めた。
台風19号豪雨で町を流れる吉田川の堤防が決壊し、住宅の全半壊や農地冠水の被害が出た。2年鈴木釉奈さん(13)は「近くの用水路があふれ、家に水が入って外に出られない状態が続いた。食べ物がいつなくなるか心配だった」と振り返った。「家の後ろが山なので土砂崩れが不安だった」「川が決壊した地区の友達が心配だった」との声もあった。
当時の教訓として、家族で備えを見直したという証言が相次いだ。3年今野蒼太さん(14)は「家族で避難場所を確認したり連絡先のメモを作ったり、ハザードマップで近くの川を調べたりした」と報告した。
鈴木団長は発生後2週間の消防団活動と町の被害を解説。「被害は大きいが死傷者はいなかった。過去の教訓を生かし、住民が早めに避難したからだ」と説明した。
一方で雨がやんだことから自宅に戻り、その後の堤防決壊で、救助された人がいたことに触れ「避難指示が解除されないうちは、避難を続けて」と呼びかけた。
クロスロードでは、誰もが判断に迷うお題3問に挑戦。「家の近くの川があふれそう。親は避難しないと言う。あなたは『避難しよう』と言う?」という問題で、田中さんが回答を促すと、生徒6人がイエス、1人がノーのカードを出した。
唯一、ノーと答えた2年菅原慎吾さん(13)が「避難所への途中で浸水したら元も子もない」と理由を説明すると、他の生徒から「おぉ」「なるほど」と共感する声が漏れた。イエスの生徒からは「親が言うことを聞かなかったら1人で逃げる」といった発言があった。
田中さんは「親が避難しようとしないという話をよく聞く。大切な命を守るため、親を説得できるように考えておいてほしい」と述べた上で「クロスロードは地域の歴史の伝承や後輩とのコミュニケーションにも役立つ。台風19号の教訓を踏まえて皆さんで問題を作って、やってみてはどうか」と提案した。
クロスロード 災害対応力の向上を目指し、開発されたカードゲーム。参加者は正解がない質問に「イエス」か「ノー」のカードを選んだ後、理由を述べ合い、意見交換する。1995年の阪神・淡路大震災で、神戸市職員が経験したジレンマなどが題材になっている。災害現場ではマニュアル通りにことが運ばないことが多く、そのとき、その場でみんなで答えを出すことが大切になる。自分が見逃していた「想定外」に気付くことも目的の一つ。
早め避難奏功 犠牲者ゼロ
2019年10月の台風19号の接近に伴い、宮城県大郷町は12日午後2時10分に避難準備・高齢者等避難開始を出した。夕方から雨が強まり、午後6時40分に避難勧告を出し、夜遅くに避難指示を発表した。
町に近い大衡観測所では12日午後11時20分から1時間で51.5ミリの非常に激しい雨を観測。12日午前3時50分からの24時間降水量は309.5ミリで、1976年の統計開始以降最大となった。
町には12日午後11時10分、大雨特別警報が出された。町を横断する吉田川の水位は13日午前2時、氾濫危険水位8.2メートルを上回る9.02メートルを観測。午前4時には9.92メートルに達した。大雨特別警報は午前5時45分に解除された一方、堤防は午前7時50分に決壊した。
住宅被害は全半壊148棟、避難者は最大319人に上ったが早期の避難が奏功して犠牲者はゼロだった。台風19号の教訓の継承と防災意識の向上を図るため、町は10月13日を町民防災の日と定めている。
<助言者から>
■家族で声をかけ合おう/宮城県大郷町消防団長 鈴木安則さん(65)
台風19号豪雨で大きな被害を受けながら犠牲者を出さなかったのは、1986年の8・5豪雨など水害に悩まされてきた歴史と危機感が、早期の避難につながったからだと思う。
一方、持病やペットなどの事情で、避難できない人たちもいた。100%避難を目指し、やらなければいけないことがまだある。
皆さんには、防災無線などで災害や避難の情報が入ったら、家族で声をかけ合って避難してほしい。何もなければ安心して家に帰れる。何かあってからでは遅い。自分たちの命を守ることが何より大事だ。
■家庭、地域を変える力に/「わしん倶楽部」代表・防災士 田中勢子さん(70)
台風19号豪雨をきっかけに、食料や水の備蓄をはじめ、家族会議を開くなど家族で防災を考えるようになったのは素晴らしい。今後もぜひ続けてほしい。
津波が来たら死ぬ覚悟をしていた高知県黒潮町のおばあちゃんが、命を守ろうと避難訓練に出るようになった事例がある。心変わりさせたのは、地域のみんなで助かろうと各家庭の避難経路を考え、行動を働きかけた中学生の姿だった。
皆さんには家庭や地域を変える力がある。地域の人と一緒になって、過去の災害の教訓を伝え、防災活動に取り組んでもらいたい。