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仙台にたたずむ自然の営み【特集】地形を歩こう 街なか探訪記

《河岸段丘》広瀬川が造る坂の街 流れの岸辺に多くの野鳥

大橋から広瀬川下流を望むと右手に青葉山、正面には経ケ峯の緑が広がる

 仙台の市街地を歩くと、ちょっとした坂道に度々出合う。宮城県庁から西に下ると市役所がある。県庁は河岸段丘の仙台上町段丘面、市役所は仙台中町段丘面に立つ。市役所から一番町のアーケード街を南に進み、東北大片平キャンパス辺りから広瀬川方面に下ると、川沿いの仙台下町段丘面に位置する米ケ袋の住宅地に出る。

 「仙台の街は広瀬川の流れが大地を階段状に削った河岸段丘面の上に広がっています。最も高いのは仙台城跡などがある青葉山段丘面(標高120〜150m)。下町段丘面(同20m)との高低差は100mほどです」。こう話すのは元東北学院大教授の松本秀明さん。地形学の専門家だ。

 広瀬川に架かり、市中心部と仙台城跡を結ぶ大橋から上流部に目をやると、右手に西公園の木々が見える。振り返れば右手の崖の上に青葉山、正面には経ケ峯の深い緑が広がる。

 この辺りは野鳥の観察スポットだ。日本野鳥の会県支部副支部長の坂野恭子さんは「広瀬川流域では年間140種類以上の野鳥を観察できます。大橋周辺で観察できるのは約90種類です」と教えてくれた。「空飛ぶ宝石」と呼ばれるカワセミは通年、初夏にはオオルリやキビタキ、冬はジョウビタキやツグミ、カモ類などの渡り鳥が観察できる。

 人を寄せ付けない段丘崖ではハヤブサが営巣する。猛禽(もうきん)類は小鳥を、小鳥は木の実や虫を、サギ類は小魚などを餌にする。「大橋周辺には水辺や森といった多様な環境があるので多くの野鳥が観察できます。100万都市の真ん中に、自然がしっかり残っているのです」と坂野さんは言う。

大橋周辺で観察できるカワセミ(坂野恭子さん撮影)
大橋周辺で観察できるオオルリ(坂野恭子さん撮影)
大橋周辺で観察できるキビタキ(坂野恭子さん撮影)

高低差生かした要害の地 城跡に立てば政宗気分?

仙台城本丸の遺構。騎馬像の前に立てば市街地を一望できる

 青葉山と呼ばれる標高120mの青葉山段丘面に位置する仙台城跡の本丸。東の眼下に望むのは広瀬川、南は深く切り込む竜ノ口渓谷、西は深い森に囲まれた天然の要害だ。

 現在は東北大がある二の丸は仙台上町段丘面、市博物館がある三の丸は下町段丘面。河岸段丘という高低差がある地形を利用して城域が整備されている。

 NPO法人仙台城ガイドボランティア会副理事長の須藤恒さんは「城跡から市街地を見渡すと、観光客の多くは『こんな高い所に城を構えたんだ』と驚きます」と教えてくれた。「市街地にはビルや住宅がひしめいていますが、何となく階段状の段丘の上に街が広がっていることが感じ取れるはずです」と続ける。

 太平洋の水平線まで見渡せる城跡に立てば、築城した伊達政宗の気持ちになれるかもしれない。

須藤恒さん
仙台城ガイドボランティア会についてはこちらから

《活断層による隆起帯》大年寺山の市野草園 市民憩いの場

市野草園は市民憩いの場だ

 仙台藩主の伊達家墓所や市野草園がある大年寺山公園は、風致地区に指定されており、自然が多く残る。かつて黄檗(おうばく)宗日本三大叢林(そうりん)に数えられた大年寺が頂上部にあったことから名付けられた丘陵地は、活断層の長町―利府線と大年寺山断層が押し合い、地殻変動が生じたことで形成された隆起帯だ。

 寺跡の西に位置する市野草園は、戦後の混乱期に激減した野草類を移植して1954年に開園した市民憩いの場所。広さは9万5000㎡で高山植物区、水生植物区などに計950種を超える植物が展示されている。

 「土日は家族連れ、平日は高齢者や幼稚園、小学校の遠足でにぎわいます。天気が良ければ栗駒山まで見渡せます」。園長の早坂徹さんはこう話す。花が咲く植物は900種類以上あり、とりわけ4月から5月にかけてはシラネアオイやクマガイソウ、コマクサなど多くの花が園内を彩る。

市野草園の開園時間や利用料金などはこちらから

《沖積平野》堀張り巡らせ 広瀬川の水運ぶ

若林区役所南側を流れる七郷堀

 台地に位置する市中心部から広瀬川沿いに下り、宮沢橋辺りから先は沖積平野になる。かつて氾濫を繰り返していた広瀬川が運んだ土砂が堆積した。この平野部で水田を拡大するため造られたのが、藩制時代に開削された七郷堀や六郷堀などだ。堀は愛宕大橋下流部の取水口から進むに従い鞍配(あんばい)堀、高砂堀などへと分岐し、広瀬川の水を水田地帯の隅々に運ぶ。

 仙台市のWEBサイトに掲載されている「行人塚(ぎょうにんづか)の伝説」には、「昔、広瀬川は七郷を流れ、深沼で海にそそいでいた」と記されている。大規模な土木工事による治水が施されていなかった時代、広瀬川は大水のたびに流路を変えていたのだろう。

 「七郷堀や六郷堀周辺の地名の大半は、獣や魚を捕らえたり、洪水が運んだ大量の流木を暮らしのエネルギー資源にしたりした狩猟時代のもの」と推測するのは、水と暮らしの技術や地名の起こりを探求する東北文化学園大教授の八十川淳さん。「七郷は『大きな澪筋(みおすじ)が膨満する』、伊在は『激流が流木を漂着させる所』」と解説した上で、「広瀬川の流れを造り変え、農耕に適した水流に整えられたのが七郷堀や六郷堀なのです」と話す。

 沖積平野に広がる水田の田植えは最盛期。実りの秋を迎えられるのは、広瀬川があるからなのだろう。

八十川淳さん

活断層が走る場所を知り防災、減災を -元東北学院大教授 松本秀明さんに聞く

 仙台の市街地は台原段丘、青葉山段丘に囲まれ海側に開いた馬蹄(ばてい)形をしています。活断層の長町―利府線を境に東側が沖積平野。西側は、数段の河岸段丘からなる台地です。

 市街地中心部をほぼ平行して活断層の長町―利府線と大年寺山断層が貫いています。3000年程度以上の間隔で繰り返し活動してきたと考えられている縦ずれの逆断層で、1度に2m以上、垂直方向にずれるとみられています。

 神戸市に甚大な被害をもたらした阪神大震災(1995年)では、震源である淡路島の野島断層が水平方向に1〜2m、垂直方向に0.5〜1mずれました。仙台の市街地直下の活断層が動けば、極めて大きな災害が発生することは容易に想像できます。

 活断層の上には宮城野区役所や高校、マンションが立ち並んでいます。いつ活断層が動くか予知はできません。防災や減災のためにはまず、どこを活断層が通っているかを知ることから始めましょう。

まつもと・ひであき 1953年、仙台市生まれ。東北大理学博士。東北大助教授、東北学院大教授などを歴任。

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