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<記憶の素描(34)芥川賞作家・石沢麻依>逃亡する人形

 熱でぼんやりした視界の中、白い顔がのぞき込んだかと思うと、滑らかに遠ざかって天井に姿を変えた。寝台に横になったまま見上げた天井は、いつもより少しだけ遠い位置にある。心なしか、壁までが距離を置いていると見えた。

 7月に入ってから風邪をうつされ、熱と胃の痛みで起き上がれなくなった。平熱が35度ほどしか…

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記憶の素描

 仙台市出身の芥川賞作家石沢麻依さんのエッセーです。ドイツでの生活で目にした風景や習慣の妙、芸術と歴史に触発された思い、そして慣れ親しんだ本や仙台の記憶を、色彩豊かにつづります。

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