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「リーダーは偉くない」 元東北楽天球団社長の立花さんが著書出版 観客数1万人増やした組織運営術明かす

著書を手にする立花さん

 プロ野球東北楽天を運営する楽天野球団(仙台市)で2012~21年に社長を務めた立花陽三さん(53)が、経営トップとして試行錯誤した日々を振り返った著書「リーダーは偉くない。」(ダイヤモンド社)を出版した。スーツ組とユニホーム組の断絶を乗り越え、1試合平均の観客数を1万人以上も増やした組織運営術を明かした。東京都内で河北新報の取材に応じた立花さんは、故・星野仙一元監督に触れ「リーダーには志が重要」と語った。(経済部・菊間深哉)

 「Respect each other(お互いに敬意を持とう)」

 社長に就任して間もなく社内に掲げた標語だ。営業部門などのスーツ組と、野球チームを管理するユニホーム組に断絶があり、営業部門がスポンサーのために選手のサインをもらうことさえも許されないような社風だったという。

 立花さんは「観客に喜んでもらい、優勝を目指すのが選手を含めた全員のゴール。立場を超えて仕事に敬意を持ち、一丸になってほしかった」と語る。

 自身には苦い経験があった。外資系のゴールドマン・サックス証券からメリルリンチ日本証券(現BofA証券)に好待遇で迎えられた際、新天地で有頂天になり、部下全員にそっぽを向かれた。「部下に思う存分、力を発揮してもらわなければ、大きな目標は達成できない」と痛感した。

 社長就任前まで毎年赤字だった球団経営の再建は、経費節減ではなく観客数を増やして売上高を伸ばし、好転させる戦略を採った。「プロ野球は観客がいなければ単なる野球。球場を満員にすることを一番大事にした」

 東北楽天の本拠地の1試合平均観客数はグラフの通り。立花さんが社長に就く直前の12年度は1万6216人だったが、コロナ禍前の19年度は2万6250人まで伸び、1試合当たり1万人以上も増やした。

田中投手(中央)の日本通算100勝達成の記念セレモニーで記念撮影する立花さん(左)=2021年5月、仙台市宮城野区

 観客数増に向け、社員にもさまざまな「仕掛け」をした。目標の観客数をクリアすれば社員食堂が無料になるルールを導入。社員一人一人に持たせた自己紹介カードを、観客が1年かけて収集する企画は、観客と会話をすることでニーズをくみ取る狙いもあった。

 最初は全く動かなかった組織も「ドタバタ劇」を繰り返す中で、瞬発力を付けていった。「何をしてもいいから球場を満員にしろ」といったむちゃぶりにも応え、頼れる右腕となったのは現社長の森井誠之さんだった。

 社長としての心残りは日本一になった13年オフ。田中将大投手らが移籍したにもかかわらず、大型補強をしなかったことだ。「若手が育ってきたと思い『行けんじゃね?』と慢心があった。情けない」と悔やむ。以後、東北楽天はパ・リーグ制覇を果たせていない。

 立花さんは21年に退任。現在は宮城県や東京・銀座ですし店を展開する「廻鮮寿司 塩釜港」(宮城県塩釜市)、地域の宿泊業など中小企業の支援を手がける投資ファンド運営「PROSPER」(東京)でいずれも社長を務めている。塩釜港は今月11日、国会議事堂内の参院議員食堂に新規出店する。

 星野元監督をはじめ尊敬するリーダーは私的利益を超え、野球振興といった高い次元の志を持っていたと振り返る。「僕なりに東北の皆さまに恩返しができればいい。イーグルスのように、人が集まる楽しい街をつくりたい」と決意を新たにする。

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