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もふもふにほっこり<記者が推します(6)宮城蔵王キツネ村(宮城県白石市)>

1日に2回あるキツネの抱っこ体験。順番待ちの列ができる人気ぶりだ=2024年12月31日

 「だめだめ、ノンストップ、ウオーキング、プリーズね」

 交通整理を担当するスタッフは簡単な英単語と日本語を交えながら、来園者を誘導する。多くは台湾、香港、シンガポールからの旅行者。日本人を探すのが難しい。宮城県白石市の宮城蔵王キツネ村で目にしたのは、インバウンド(訪日客)人気を象徴する光景だ。

 1日に2回あるキツネの抱っこ体験には人が群がる。寒さが増した昨年12月中旬。平日にもかかわらず、列は50人を超えた。抱っこ体験に起用されるのは、おとなしい性格の精鋭たち。うっとりした瞳を輝かせて来園者を癒やす。香港から来たカップルは「(動画投稿サイトの)ユーチューブでキツネ村を知った。ここでしか抱っこは経験できない。もふもふしていて、かわいかった」とご満悦だ。

 1990年の開園。運営会社の佐藤光寛社長(74)が「キツネが好き」という理由で始めた施設は、2013年冬から訪日客が増えだした。

 キツネと雪景色の組み合わせが受け、閑散期だった冬季が繁忙期に変わった。23年度の来園者は20万人に達し、6割が外国人。平日でも400~600人が来場する。年末年始も活況だった。

 人気の理由は、スタッフのキツネへの愛情だ。

 1匹ずつマイクロチップで管理し、性格も把握する。温和なキツネほど集団生活でいじめに遭いやすく、ケージで守り、大切に育てる。10年近く前に始めた抱っこ体験は個々の性格を見極めているからこそ、実現した取り組みだった。

 繁殖環境も重視し、専用の施設がある。顔、におい、音に敏感で臆病な傾向があることから、携わるのは限られたスタッフだけ。雄と雌のペアも性格や相性が肝心になる。

 約2・5ヘクタールの敷地のうち、来園者が見学できるのは1・6ヘクタールほど。老後をゆっくり過ごせるケアハウスも整える。佐藤社長は「キツネを見に来てもらっているんだから、キツネに投資する。愛情を持って育てるのはキツネも人間も同じ。キツネ自身も『自分は人間だ』って思っているんじゃないかな」と語る。

 キツネ村は「普通の動物園ではない」とうたう。120匹ほどが放し飼いにされ、通路を横切ったり、来園者の脇でのんびり過ごしたり。手を出せば「100%かまれる」との注意書きもあった。

 動物が苦手な記者。恐る恐る園内を巡ったが、かまれるどころか、おとなしいキツネばかり。その愛くるしい表情に心が温まった。
(白石支局・剣持雄治)

放し飼いにされているキツネ。愛らしい表情で来場者を見つめる

<メモ>宮城県白石市福岡八宮川原子11―3。東北線白石駅と東北新幹線白石蔵王駅から車で各20~25分。入園料は中学生以上1500円、抱っこ体験は1000円。いずれも現金のみ。キタキツネ、銀キツネなど6種類が飼育されている。午前9時~午後4時、水曜定休。

通路の脇でくつろぐキツネ。放し飼いにされているため、間近で眺めることができる
放し飼いにされているキツネ。愛らしい表情で来場者を見つめる

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