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こだわりギューッと詰め込んだ【特集】牧場発の乳製品

 バターにチーズ、ジェラート、ヨーグルト…。搾りたてのミルクを使い牧場で手作りされる乳製品には、酪農家それぞれのこだわりがギュ~ッと詰まっている。個性豊かなおいしさを求めて北へ南へ、宮城の牧場を訪ねた。

■山の牧場で伸び伸び放牧 ~茂木家ファクトリー(宮城県石巻市)~

左から「手造りバター(有塩/無塩)」(100g1200円)と「手造りモッツァレラチーズ」(1g7円から)
牛から母親のように慕われる梨恵さん

 石巻市の上品山をぐいぐいと上った中腹に「茂木家ファクトリー」の牧場はある。牧場と聞いて想像する草原とは異なり、起伏に富んだ広大な森が広がる。案内してくれた茂木梨恵さんの声を聞きつけ、牛たちが尾根の向こうからのんびり姿を現した。現在、飼育する23頭のうち7頭がこの牧場で昼夜過ごしている。

 サラリーマン家庭で育った梨恵さん。北海道の大学で茂木家13代目の幹司さんと出会い結婚。酪農の仕事に携わるようになった。

 牛がストレスなく伸び伸び過ごせるよう通年で放牧し、餌には稲わらや地元豆腐店のおからなどを使う。7頭の朝夕の搾乳は牧場脇にある小屋で行い、体に負担をかけないよう多く搾ることはしない。

 「お母さん牛の優しさが詰まったミルクの魅力を届けたい」と、バターとモッツァレラチーズを手作り。ノンホモ製法(※)、低温殺菌でミルクの風味を最大限に引き出す。バターは口の中でさっと溶けて消える軽やかさと、後に残る極上の香りが魅力。ふんわり食感のモッツァレラは、生と加熱調理で異なる味わいが楽しめる。ともに「道の駅 上品の郷」「アクアイグニス仙台・マルシェ リアン」などで販売。バターはインターネット通販でも購入できる。

梨恵さんの声を聞きつけ牛が集まる
山の斜面を利用した牧場。放牧中に出産する牛もいるそう
牧場脇にある小屋。放牧中の牛はここで朝晩搾乳する
マルシェなどに出店しバターを販売している

【Data】
宮城県石巻市三輪田竹ノ迫100

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■搾りたての味 届けたい ~蔵王プロヴァンスファーム(宮城県白石市)~

もりもりジェラート・Mダブル(440円)。左からフレッシュミルク×蔵王町産ブルーベリー、フレッシュミルク×抹茶
朝搾りヨーグルト(写真手前右・450g420円※2個で800円)や朝搾り"飲む"ヨーグルト(900㎖590円、150㎖230円)も人気商品。取り寄せにも対応している

 南蔵王の大自然に囲まれ、晴れた日ははるか太平洋も望む標高約600mの高原に、蔵王プロヴァンスファームの牧場カフェ「醍醐(だいご)」がある。名物のジェラートを目当てに、宮城のみならず山形や福島からも1年中客足が絶えない。

 約50年前に父が数頭の牛で始めた牧場を引き継いだ倉繁正人さん。高校卒業後に青森の牧場で学んだ「土壌→穀物(餌)→牛→堆肥→土壌」を健康的に循環させる酪農を実家の牧場でも取り入れた。広々とした風通しの良い牛舎で、牛にとっての快適さを追求する。

 「おいしいミルクの味をお客さんに直接届けたい」と、自社でジェラートとヨーグルトを製造。搾りたての風味とこくが生きるノンホモ製法(※)にこだわる。

 ヨーグルトは上面に濃厚なクリームの層ができるのが特徴で、ほどよい酸味が爽やか。ジェラートはさっぱりとのど越し良く、蔵王酒造の純米大吟醸「蔵王昇り龍」やニッカウヰスキー「伊達」をぜいたくに使ったフレーバーも人気。

 ヨーグルトやドリンクヨーグルトは取り寄せも可能だ。

地元の食材を積極的に活用する倉繁さん
見晴らしのよい高原にあるカフェ「醍醐」
牛舎では牛たちがのんびり暮らす

【Data】牧場カフェ「醍醐」
宮城県白石市福岡深谷二ノ萱282-2
営/10:00~17:00
休/水曜 (12~2月は火曜も休み)
問/TEL0224-24-8006

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※ノンホモ製法=生乳の脂肪球を砕いて均質化させる「ホモジナイズ処理」を行わない製法。脂肪分の分離や味の変化が起きることがあるが、風味が芳醇で牛乳臭さがなく、滑らかな舌触りになるとされている。一般的にはホモジナイズ処理を行うことが多い。

■牛の健康にこだわり ~ゼルコバドリーム(宮城県蔵王町)~

左から、ヨーグルトとソフトクリームをのせた「ハニーレモン」(830円)と、「ミックスベリーボウル」(640円)
プレーンヨーグルト(写真左、450g750円)、のむヨーグルト(写真右2本、180㎖350円、800㎖1000円)

 蔵王連峰のふもと、遠くからも目を引く真っ白な建物がヨーグルト工房「Atreyu(アトレイユ)」だ。乳牛140頭を飼育する牧場「ゼルコバドリーム」が直営する。

 工房を立ち上げた佐々木飛鳥さんはゼルコバドリームを運営する村上家に生まれた。働きづめの両親の姿に「休みがない酪農なんて継がない」と思いながら育ったが、いつしかその魅力に目覚め就農。結婚、出産を経て地元への愛着が増し「うちのミルクで地域に喜ばれる店を」と一念発起した。

 飼育のこだわりは徹底した衛生管理と牛への思いやり。「牛が健康であればこそ、香りのいい上質なミルクを出してくれる」と佐々木さん。ヨーグルトは、搾乳後すぐ牧場に隣接する工房へ運び製造する。酸味は少なくミルクの自然な甘みが引き出され、もったりとした濃厚な食感が特徴だ。

 カフェには種類豊富なソースと合わせたヨーグルト、ミルク感が口いっぱいに広がるソフトクリームなど多様なメニューがある。蔵王観光やスキーの帰りに立ち寄ってみては。

「搾乳後30分以内のミルクでヨーグルトを作ります」と佐々木さん
真っ白な外観で目を引くヨーグルト工房「Atreyu」
年老いた牛がゆったりと過ごす牛舎(衛生上の理由から牛舎には近づけない)

【Data】ヨーグルト工房 「Atreyu」蔵王本店
宮城県蔵王町小村崎向原68-1
営/10:00〜15:00
休/無休 ※12〜2月は水曜休み ※牧場は終日立ち入り禁止
問/TEL0224-22-7033

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■秋保の味 ジェラートに ~秋保柴田牧場 (仙台市太白区)~

シングルカップ(420円、アーモンドプラリネ)、ダブルカップ(520円、牧場ミルク×クリームチーズ)
多彩なフレーバーを手作りしている

 秋保温泉街から西へ車で10分ほど進むと、かわいらしい木造の建物が見えてくる。秋保柴田牧場直営の「KOMOREBI gelato(こもれびジェラート)」は、「搾りたて」と「出来立て」にこだわるジェラート専門店だ。

 オーナーの柴田耕太郎さんは牧場の3代目。就農した約10年前、牧場と地域の未来を考えた。「平坦地が少ない土地柄、規模拡大による雇用創出は難しい。ならば人を呼べる加工品を生み出そう」。数ある乳製品の中でジェラートに決めたのは、地域の産物を活用しやすいから。これまでに干し柿、イチジク、トマト、トウモロコシなどさまざまな旬の食材にトライ。ひと口目から果物や野菜の味がしっかり感じられるよう配合を工夫した。

 常に新鮮な状態で提供するため、仕込んだジェラートは週4日で売り切り、翌週に持ち越さない。濃厚なクリームのように滑らかで、甘さは控えめ。食べ終えた後に、ミルクの香りと甘みの余韻が長く残る。

 秋保観光の前後に、整えられた木立の中で旬を感じるジェラートを楽しもう。

オーナーの柴田さんと妻の香奈さんは中学の同級生
温かみを感じる店内
秋保の自然に抱かれた店舗

【Data】KOMOREBI gelato
仙台市太白区秋保町境野上戸49-1
営/10:00~16:00
休/火~木曜

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(河北ウイークリーせんだい2025年3月6日号掲載)

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