それでも人々は科学者を信頼している
プレスリリース詳細 https://kyodonewsprwire.jp/release/202501293551
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― パンデミック以降最大規模の68か国調査から ―
それでも人々は科学者を信頼している ― パンデミック以降最大規模の68か国調査から ―
発表内容の詳細は、早稲田大学HPをご覧ください。
【発表のポイント】
●241人の研究者からなる”TISP研究プロジェクト“(※1)を通じて、世界68か国・71,922人に対する大規模な国際比較調査を行いました。科学に対する信頼の危機が叫ばれる中、調査対象者のうち多くが科学者に高い信頼を寄せており、科学者は有能・誠実で、人々のウェルビーイングを考慮していると認識していることがわかりました。
● また、科学が社会や政策決定において活発な役割を担うことに多くの人が賛成しており、科学者が特定の政策について積極的に主張すべきではないと考える人は少数派でした。
● ただ、日本は科学に対する信頼が世界平均を大きく下回り、相対的に科学への信頼が低い国であることには注意が必要です。
● 本分析結果は、新型コロナ・パンデミック以降の世界で、人々がもつ科学者への信頼や、その政策決定への関与についての意見を、包括的にとらえた研究知見です。
早稲田大学政治経済学術院の田中幹人(たなか みきひと)教授、ハーバード大学研究員のViktoria Cologna研究員(チューリッヒ工科大学研究員兼任)、チューリッヒ大学のNiels G. Mede上級助手、東京大学大学院情報学環の石橋真帆特任助教らは、241人の研究者からなる国際的な研究プロジェクトTISP(Trust in Science and Science-Related Populism)(※1)として、世界68か国、71,922人に対して科学の信頼に関する大規模な国際比較調査を行いました。
調査対象者の科学者に対する信頼を1(信頼度が最も低い)から5(信頼度が最も高い)までの数値で表したところ、全世界の平均値は3.62ポイントであり、高い信頼を寄せていることがわかりました(図1)。さらに、対象者のうちの52%の回答者が、科学者はより政策決定のプロセスに関与するべきと考えていました。一方で、科学者が特定の政策について積極的に主張すべきでないと考えている人は23%でした。
結果には国による違いも見られ、信頼に関して、日本(n=1,000)は世界平均(3.62)を下回る3.37という平均値を示し、調査各国中で「科学への信頼が相対的に低い」国であることが示されました。
本研究成果は、2025年1月20日付けで「Nature Human Behaviour」に掲載されました。
論文名:Trust in scientists and their role in society across 68 countries
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202501293551-O2-sXlwWYos】 (図1)各国、地域における科学者に対する信頼の平均値 (1=とても信頼が低い、3=高くも低くもない、5=とても信頼が高い)
(1)これまでの研究で分かっていたこと
科学に対する社会の信頼は重要であり、感染症の流行や、気候変動などの世界的な危機を乗り越える際には、科学者に対する信頼の高さが奏功することが指摘されています。COVID-19パンデミックの際には科学や科学者に対する国民の信頼が高い国は、より効果的に対処したり、ワクチンに対する信頼度も高かったりすることがわかっています。このように、すでに行われた研究では、科学に対する信頼は世界的にも高いと指摘されてきました。
(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
科学に対する信頼についての調査研究は進んでいるものの、主に米国や欧州で得られた知見であり、これらの地域以外も含めた調査は限定的でした。また、近年では科学と科学者に対する信頼の危機を主張する言説が出回っており、科学者に対する人々の見方を変化させている可能性のあるため、本研究では、この言説が本当かどうか強固な証拠を得るための大規模な国際比較調査を行いました。その結果、パンデミック以降最大規模となる「グローバル・サウス」も含めた68か国における大規模な国際比較データから、科学者の信頼や、科学者の政策決定への関与に対する意見を明らかにしました(図2)。
調査結果からは、調査対象者の科学者に対する信頼を1(信頼度が最も低い)から5(信頼度が最も高い)までの数値で表したところ、全世界の平均値は3.62ポイントであり、高い信頼を寄せていることがわかりました。科学者は「有能である」と答えた回答者は78%、「誠実である」と答えた回答者は57%、「人々のウェルビーイングを考慮している」と答えた回答者は56%でした。
また、多くの人が、科学が社会や政策決定において活発な役割を担うことに賛成していることも明らかにしました。世界全体では、回答者の83%が科学者は一般市民と科学についてコミュニケーションをとるべきだと考えていました。さらに、対象者のうちの52%の回答者が、科学者はより政策決定のプロセスに関与するべきと考えていましたが、科学者が特定の政策について積極的に主張すべきでないと考えている人は23%でした。
これらの結果には国による違いも見られました。特に欧米諸国では、右派の政治的見解を持つ人々は左派の見解を持つ人々よりも科学者に対する信頼が低いことが分かりました。しかし、多くの国では政治的思考と科学者への信頼に関連性はみられませんでした。日本に関わるデータの詳細は後続の論文で分析予定ですが、日本においては、全体的には中立的ではあるものの科学を信頼する人びとはわずかに保守よりで、また左派-右派、リベラル-保守といった政治傾向自認が強い人は、いずれも科学への信頼が低く、さらにいずれも気候変動やワクチンに関して懐疑的である傾向が伺えました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202501293551-O3-XJ56FbgY】 (図2)政治的見解と科学者への信頼の関連性 (上:右派―左派;下:保守的―リベラルの結果。関連性がある国のみ青と赤で色付けしており、青は左派/ リベラル傾向が高いほど科学者への信頼が高いことを示す。赤は右派/ 保守的傾向が高いほど科学者への信頼が高いことを示す。)
(3)研究の波及効果や社会的影響
新聞や書籍などでは、科学に対する不信が話題になっていますが、そのような主張を裏付ける国際的・実証的な根拠は多くありませんでした。本研究結果は、大規模かつ開かれたデータを提供することで、意思決定者、科学者そして人々が科学者に対する信頼を維持したり、増加させたりすることを助けるものとなることが期待されます。
(4)課題、今後の展望
今回の調査結果では、いくつかの懸念事項も浮き彫りになりました。例えば、回答者のうち「科学者は他者の意見に注意を払っている」と考えている人は42%と半数以下でした。また、多くの回答者が「科学の優先順位が必ずしも自分たちの優先順位と一致していない」と感じていることも明らかになりました。回答者は公衆衛生の向上、エネルギー問題の解決、貧困の削減に特化した研究を優先すべきと考えており、国防や軍事技術の開発に関する研究の優先順位は低いものでした。つまり、回答者は自分たちが望む以上に、科学が国防や軍事技術の開発を優先しているという印象を持っているといえます。今後はこのような人々の懸念に科学者が丁寧に答えていくことが重要と言えます。
(5)研究者のコメント
私たちは、科学者たちが本結果を真摯に受け止め、フィードバックを受け入れ、一般市民との対話に対してより開かれた態度をとる方法を見つけること、そして西洋の国々においては保守的な層に働きかける方法を検討すること、いずれは一般市民の価値観に沿った形で優先順位を設定する役割を検討していくべきだと考えます。本結果は論文だけではなく、ダッシュボード(https://www.tisp-manylabs.com/explore-tisp-data)でも公表しています。ダッシュボードではより簡単に各国の比較が可視化できますので、ぜひご覧になってください。
(6)用語解説
※1 TISP(Trust in Science and Science-Related Populism)
ハーバード大学のVictoria Cologna博士、チューリッヒ大学のNiels Mede博士の呼びかけに応じて集まった世界中の科学コミュニケーション研究者による国際共同研究の時限プロジェクト。日本での翻訳書もあるハーバード大学のNaomi Oreskes教授など、この研究分野をリードする著名研究者が参画している。
(https://www.tisp-manylabs.com)
(7)論文情報
雑誌名:Nature Human Behaviour
論文名:Trust in scientists and their role in society across 68 countries
執筆者名(所属機関名):Viktoria Cologna*, Niels G. Mede , Sebastian Berger, John Besley, Cameron Brick, Marina Joubert , Edward W. Maibach , Sabina Mihelj , Naomi Oreskes , Mike S. Schäfer , Sander van der Linden, Nor Izzatina Abdul Aziz, Suleiman Abdulsalam, Nurulaini Abu Shamsi, Balazs Aczel, Indro Adinugroho, Eleonora Alabrese, Alaa Aldoh, Mark Alfano, Innocent Mbulli Ali, Mohammed Alsobay, Marlene Altenmüller, R. Michael Alvarez, Richard Amoako, Tabitha Amollo, Patrick Ansah, Denisa Apriliawati, Flavio Azevedo, Ani Bajrami, Ronita Bardhan, Keagile Bati, Eri Bertsou, Cornelia Betsch, Apurav Yash Bhatiya, Rahul Bhui , Olga Białobrzeska, Michał Bilewicz, Ayoub Bouguettaya, Katherine Breeden, Amélie Bret, Ondrej Buchel, Pablo Cabrera-Álvarez, Federica Cagnoli, André Calero Valdez, Timothy Callaghan, Rizza Kaye Cases, Sami Çoksan, Gabriela Czarnek, Steven De Peuter, Ramit Debnath, Sylvain Delouvée, Celia Díaz-Catalán, Lucia Di Stefano, Kimberly C. Doell, Simone Dohle, Karen M. Douglas, Charlotte Dries, Dmitrii Dubrov, Małgorzata Dzimińska, Ullrich K. H. Ecker, Christian T. Elbaek, Mahmoud Elsherif, Benjamin Enke, Tom W. Etienne, Matthew Facciani, Antoinette Fage-Butler, Md. Zaki Faisal, Xiaoli Fan, Christina Farhart, Christoph Feldhaus, Marinus Ferreira, Stefan Feuerriegel, Helen Fischer, Jana Freundt, Malte Friese, Simon Fuglsang, Albina Gallyamova, Patricia Garrido-Vásquez, Mauricio Garrido Vásquez, Winfred Gatua, Oliver Genschow, Omid Ghasemi, Theofilos Gkinopoulos, Jamie Gloor, Ellen Goddard, Mario Gollwitzer, Claudia González Brambila, Hazel Gordon, Dmitry Grigoryev, Gina M. Grimshaw, Lars Guenther, Håvard Haarstad, Dana Harari, Lelia N. Hawkins, Przemysław Hensel, Alma Cristal Hernández-Mondragón, Atar Herziger, Guanxiong Huang, Markus Huff, Mairéad Hurley, Nygmet Ibadildin, Maho Ishibashi, Mohammad Tarikul Islam, Younes Jeddi, Tao Jin, Charlotte A. Jones, Sebastian Jungkunz, Dominika Jurgiel, Zhangir Kabdulkair, Jo-Ju Kao, Sarah Kavassalis, John R. Kerr, Mariana Kitsa, Tereza Klabíková Rábová, Olivier Klein, Hoyoun Koh, Aki Koivula, Lilian Kojan, Elizaveta Komyaginskaya, Laura König , Lina Koppel, Alexandra Kosachenko, John Kotcher, Laura S. Kranz, Pradeep Krishnan, Silje Kristiansen, André Krouwel, Toon Kuppens, Eleni A. Kyza, Claus Lamm, Anthony Lantian, Aleksandra Lazić, Oscar Lecuona de la Cruz, Jean-Baptiste Légal, Zoe Leviston, Neil Levy, Amanda Lindkvist, Grégoire Lits, Andreas Löschel, Alberto López Ortega, Carlos Lopez-Villavicencio, Nigel Mantou Lou, Chloe H. Lucas, Kristin Lunz-Trujillo, Mathew D. Marques, Sabrina Mayer, Ryan McKay, Hugo Mercier, Julia Metag, Taciano L. Milfont , Joanne Miller , Panagiotis Mitkidis, Fredy Monge-Rodríguez, Matt Motta, Iryna Mudra, Zarja Muršič , Jennifer Namutebi , Eryn J. Newman, Jonas P. Nitschke, Fernando Luiz Nobre Cavalcante , Ntui-Njock Vincent Ntui, Daniel Nwogwugwu, Thomas Ostermann Tobias Otterbring, Jaime Palmer-Hague, Myrto Pantazi, Philip Pärnamets, Paolo Parra Saiani, Mariola Paruzel-Czachura, Michal Parzuchowski, Yuri Pavlov, Adam R. Pearson, Myron A. Penner, Charlotte R. Pennington, Katerina Petkanopoulou, Marija Petrović, Jan Pfänder, Dinara Pisareva, Adam Ploszaj, Karolína Poliaková, Ekaterina Pronizius, Katarzyna Pypno, Diwa Malaya Quiñones, Pekka Räsänen, Adrian Rauchfleisch, Felix G. Rebitschek, Cintia Refojo Seronero, Gabriel Rêgo, James P. Reynolds, Joseph Roche, Simone Rödder, Jan Philipp Röer, Robert M. Ross, Isabelle Ruin, Osvaldo Santos, Ricardo R. Santos, Philipp Schmid, Stefan Schulreich, Bermond Scoggins, Amena Sharaf, Justin Sheria Nfundiko, Emily Shuckburgh, Johan Six, Nevin Solak, Leonhard Späth, Bram Spruyt , Olivier Standaert , Samantha K. Stanley, Gert Storms, Noel Strahm, Stylianos Syropoulos, Barnabas Szaszi, Ewa Szumowska, Mikihito Tanaka, Claudia Teran-Escobar, Boryana Todorova, Abdoul Kafid Toko, Renata Tokrri, Daniel Toribio-Florez, Manos Tsakiris1, Michael Tyrala, Özden Melis Uluğ, Ijeoma Chinwe Uzoma, Jochem van Noord, Christiana Varda, Steven Verheyen, Iris Vilares, Madalina Vlasceanu , Andreas von Bubnoff , Iain Walker, Izabela Warwas, Marcel Weber, Tim Weninger, Mareike Westfal, Florian Wintterlin, Adrian Dominik Wojcik, Ziqian Xia, Jinliang Xie, Ewa Zegler-Poleska, Amber Zenklusen, Rolf A. Zwaan
掲載日:2025年1月20日(月)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41562-024-02090-5
DOI: https://doi.org/10.1038/s41562-024-02090-5
(8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
本研究の日本分の調査は、日立感染症関連研究基金(https://www.hitachi-zaidan.org/activities/fundsupport/index.html) を中心に、JST-RISTEX「デジタルメディア社会における科学の信頼(#JPMJRS24L1)」「現代メディア空間におけるELSI構築と専門知の介入(#JPMJRX20J3)」の助成も受けて実施しました。
それでも人々は科学者を信頼している ― パンデミック以降最大規模の68か国調査から ―
発表内容の詳細は、早稲田大学HPをご覧ください。
【発表のポイント】
●241人の研究者からなる”TISP研究プロジェクト“(※1)を通じて、世界68か国・71,922人に対する大規模な国際比較調査を行いました。科学に対する信頼の危機が叫ばれる中、調査対象者のうち多くが科学者に高い信頼を寄せており、科学者は有能・誠実で、人々のウェルビーイングを考慮していると認識していることがわかりました。
● また、科学が社会や政策決定において活発な役割を担うことに多くの人が賛成しており、科学者が特定の政策について積極的に主張すべきではないと考える人は少数派でした。
● ただ、日本は科学に対する信頼が世界平均を大きく下回り、相対的に科学への信頼が低い国であることには注意が必要です。
● 本分析結果は、新型コロナ・パンデミック以降の世界で、人々がもつ科学者への信頼や、その政策決定への関与についての意見を、包括的にとらえた研究知見です。
早稲田大学政治経済学術院の田中幹人(たなか みきひと)教授、ハーバード大学研究員のViktoria Cologna研究員(チューリッヒ工科大学研究員兼任)、チューリッヒ大学のNiels G. Mede上級助手、東京大学大学院情報学環の石橋真帆特任助教らは、241人の研究者からなる国際的な研究プロジェクトTISP(Trust in Science and Science-Related Populism)(※1)として、世界68か国、71,922人に対して科学の信頼に関する大規模な国際比較調査を行いました。
調査対象者の科学者に対する信頼を1(信頼度が最も低い)から5(信頼度が最も高い)までの数値で表したところ、全世界の平均値は3.62ポイントであり、高い信頼を寄せていることがわかりました(図1)。さらに、対象者のうちの52%の回答者が、科学者はより政策決定のプロセスに関与するべきと考えていました。一方で、科学者が特定の政策について積極的に主張すべきでないと考えている人は23%でした。
結果には国による違いも見られ、信頼に関して、日本(n=1,000)は世界平均(3.62)を下回る3.37という平均値を示し、調査各国中で「科学への信頼が相対的に低い」国であることが示されました。
本研究成果は、2025年1月20日付けで「Nature Human Behaviour」に掲載されました。
論文名:Trust in scientists and their role in society across 68 countries
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202501293551-O2-sXlwWYos】 (図1)各国、地域における科学者に対する信頼の平均値 (1=とても信頼が低い、3=高くも低くもない、5=とても信頼が高い)
(1)これまでの研究で分かっていたこと
科学に対する社会の信頼は重要であり、感染症の流行や、気候変動などの世界的な危機を乗り越える際には、科学者に対する信頼の高さが奏功することが指摘されています。COVID-19パンデミックの際には科学や科学者に対する国民の信頼が高い国は、より効果的に対処したり、ワクチンに対する信頼度も高かったりすることがわかっています。このように、すでに行われた研究では、科学に対する信頼は世界的にも高いと指摘されてきました。
(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
科学に対する信頼についての調査研究は進んでいるものの、主に米国や欧州で得られた知見であり、これらの地域以外も含めた調査は限定的でした。また、近年では科学と科学者に対する信頼の危機を主張する言説が出回っており、科学者に対する人々の見方を変化させている可能性のあるため、本研究では、この言説が本当かどうか強固な証拠を得るための大規模な国際比較調査を行いました。その結果、パンデミック以降最大規模となる「グローバル・サウス」も含めた68か国における大規模な国際比較データから、科学者の信頼や、科学者の政策決定への関与に対する意見を明らかにしました(図2)。
調査結果からは、調査対象者の科学者に対する信頼を1(信頼度が最も低い)から5(信頼度が最も高い)までの数値で表したところ、全世界の平均値は3.62ポイントであり、高い信頼を寄せていることがわかりました。科学者は「有能である」と答えた回答者は78%、「誠実である」と答えた回答者は57%、「人々のウェルビーイングを考慮している」と答えた回答者は56%でした。
また、多くの人が、科学が社会や政策決定において活発な役割を担うことに賛成していることも明らかにしました。世界全体では、回答者の83%が科学者は一般市民と科学についてコミュニケーションをとるべきだと考えていました。さらに、対象者のうちの52%の回答者が、科学者はより政策決定のプロセスに関与するべきと考えていましたが、科学者が特定の政策について積極的に主張すべきでないと考えている人は23%でした。
これらの結果には国による違いも見られました。特に欧米諸国では、右派の政治的見解を持つ人々は左派の見解を持つ人々よりも科学者に対する信頼が低いことが分かりました。しかし、多くの国では政治的思考と科学者への信頼に関連性はみられませんでした。日本に関わるデータの詳細は後続の論文で分析予定ですが、日本においては、全体的には中立的ではあるものの科学を信頼する人びとはわずかに保守よりで、また左派-右派、リベラル-保守といった政治傾向自認が強い人は、いずれも科学への信頼が低く、さらにいずれも気候変動やワクチンに関して懐疑的である傾向が伺えました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202501293551-O3-XJ56FbgY】 (図2)政治的見解と科学者への信頼の関連性 (上:右派―左派;下:保守的―リベラルの結果。関連性がある国のみ青と赤で色付けしており、青は左派/ リベラル傾向が高いほど科学者への信頼が高いことを示す。赤は右派/ 保守的傾向が高いほど科学者への信頼が高いことを示す。)
(3)研究の波及効果や社会的影響
新聞や書籍などでは、科学に対する不信が話題になっていますが、そのような主張を裏付ける国際的・実証的な根拠は多くありませんでした。本研究結果は、大規模かつ開かれたデータを提供することで、意思決定者、科学者そして人々が科学者に対する信頼を維持したり、増加させたりすることを助けるものとなることが期待されます。
(4)課題、今後の展望
今回の調査結果では、いくつかの懸念事項も浮き彫りになりました。例えば、回答者のうち「科学者は他者の意見に注意を払っている」と考えている人は42%と半数以下でした。また、多くの回答者が「科学の優先順位が必ずしも自分たちの優先順位と一致していない」と感じていることも明らかになりました。回答者は公衆衛生の向上、エネルギー問題の解決、貧困の削減に特化した研究を優先すべきと考えており、国防や軍事技術の開発に関する研究の優先順位は低いものでした。つまり、回答者は自分たちが望む以上に、科学が国防や軍事技術の開発を優先しているという印象を持っているといえます。今後はこのような人々の懸念に科学者が丁寧に答えていくことが重要と言えます。
(5)研究者のコメント
私たちは、科学者たちが本結果を真摯に受け止め、フィードバックを受け入れ、一般市民との対話に対してより開かれた態度をとる方法を見つけること、そして西洋の国々においては保守的な層に働きかける方法を検討すること、いずれは一般市民の価値観に沿った形で優先順位を設定する役割を検討していくべきだと考えます。本結果は論文だけではなく、ダッシュボード(https://www.tisp-manylabs.com/explore-tisp-data)でも公表しています。ダッシュボードではより簡単に各国の比較が可視化できますので、ぜひご覧になってください。
(6)用語解説
※1 TISP(Trust in Science and Science-Related Populism)
ハーバード大学のVictoria Cologna博士、チューリッヒ大学のNiels Mede博士の呼びかけに応じて集まった世界中の科学コミュニケーション研究者による国際共同研究の時限プロジェクト。日本での翻訳書もあるハーバード大学のNaomi Oreskes教授など、この研究分野をリードする著名研究者が参画している。
(https://www.tisp-manylabs.com)
(7)論文情報
雑誌名:Nature Human Behaviour
論文名:Trust in scientists and their role in society across 68 countries
執筆者名(所属機関名):Viktoria Cologna*, Niels G. Mede , Sebastian Berger, John Besley, Cameron Brick, Marina Joubert , Edward W. Maibach , Sabina Mihelj , Naomi Oreskes , Mike S. Schäfer , Sander van der Linden, Nor Izzatina Abdul Aziz, Suleiman Abdulsalam, Nurulaini Abu Shamsi, Balazs Aczel, Indro Adinugroho, Eleonora Alabrese, Alaa Aldoh, Mark Alfano, Innocent Mbulli Ali, Mohammed Alsobay, Marlene Altenmüller, R. Michael Alvarez, Richard Amoako, Tabitha Amollo, Patrick Ansah, Denisa Apriliawati, Flavio Azevedo, Ani Bajrami, Ronita Bardhan, Keagile Bati, Eri Bertsou, Cornelia Betsch, Apurav Yash Bhatiya, Rahul Bhui , Olga Białobrzeska, Michał Bilewicz, Ayoub Bouguettaya, Katherine Breeden, Amélie Bret, Ondrej Buchel, Pablo Cabrera-Álvarez, Federica Cagnoli, André Calero Valdez, Timothy Callaghan, Rizza Kaye Cases, Sami Çoksan, Gabriela Czarnek, Steven De Peuter, Ramit Debnath, Sylvain Delouvée, Celia Díaz-Catalán, Lucia Di Stefano, Kimberly C. Doell, Simone Dohle, Karen M. Douglas, Charlotte Dries, Dmitrii Dubrov, Małgorzata Dzimińska, Ullrich K. H. Ecker, Christian T. Elbaek, Mahmoud Elsherif, Benjamin Enke, Tom W. Etienne, Matthew Facciani, Antoinette Fage-Butler, Md. Zaki Faisal, Xiaoli Fan, Christina Farhart, Christoph Feldhaus, Marinus Ferreira, Stefan Feuerriegel, Helen Fischer, Jana Freundt, Malte Friese, Simon Fuglsang, Albina Gallyamova, Patricia Garrido-Vásquez, Mauricio Garrido Vásquez, Winfred Gatua, Oliver Genschow, Omid Ghasemi, Theofilos Gkinopoulos, Jamie Gloor, Ellen Goddard, Mario Gollwitzer, Claudia González Brambila, Hazel Gordon, Dmitry Grigoryev, Gina M. Grimshaw, Lars Guenther, Håvard Haarstad, Dana Harari, Lelia N. Hawkins, Przemysław Hensel, Alma Cristal Hernández-Mondragón, Atar Herziger, Guanxiong Huang, Markus Huff, Mairéad Hurley, Nygmet Ibadildin, Maho Ishibashi, Mohammad Tarikul Islam, Younes Jeddi, Tao Jin, Charlotte A. Jones, Sebastian Jungkunz, Dominika Jurgiel, Zhangir Kabdulkair, Jo-Ju Kao, Sarah Kavassalis, John R. Kerr, Mariana Kitsa, Tereza Klabíková Rábová, Olivier Klein, Hoyoun Koh, Aki Koivula, Lilian Kojan, Elizaveta Komyaginskaya, Laura König , Lina Koppel, Alexandra Kosachenko, John Kotcher, Laura S. Kranz, Pradeep Krishnan, Silje Kristiansen, André Krouwel, Toon Kuppens, Eleni A. Kyza, Claus Lamm, Anthony Lantian, Aleksandra Lazić, Oscar Lecuona de la Cruz, Jean-Baptiste Légal, Zoe Leviston, Neil Levy, Amanda Lindkvist, Grégoire Lits, Andreas Löschel, Alberto López Ortega, Carlos Lopez-Villavicencio, Nigel Mantou Lou, Chloe H. Lucas, Kristin Lunz-Trujillo, Mathew D. Marques, Sabrina Mayer, Ryan McKay, Hugo Mercier, Julia Metag, Taciano L. Milfont , Joanne Miller , Panagiotis Mitkidis, Fredy Monge-Rodríguez, Matt Motta, Iryna Mudra, Zarja Muršič , Jennifer Namutebi , Eryn J. Newman, Jonas P. Nitschke, Fernando Luiz Nobre Cavalcante , Ntui-Njock Vincent Ntui, Daniel Nwogwugwu, Thomas Ostermann Tobias Otterbring, Jaime Palmer-Hague, Myrto Pantazi, Philip Pärnamets, Paolo Parra Saiani, Mariola Paruzel-Czachura, Michal Parzuchowski, Yuri Pavlov, Adam R. Pearson, Myron A. Penner, Charlotte R. Pennington, Katerina Petkanopoulou, Marija Petrović, Jan Pfänder, Dinara Pisareva, Adam Ploszaj, Karolína Poliaková, Ekaterina Pronizius, Katarzyna Pypno, Diwa Malaya Quiñones, Pekka Räsänen, Adrian Rauchfleisch, Felix G. Rebitschek, Cintia Refojo Seronero, Gabriel Rêgo, James P. Reynolds, Joseph Roche, Simone Rödder, Jan Philipp Röer, Robert M. Ross, Isabelle Ruin, Osvaldo Santos, Ricardo R. Santos, Philipp Schmid, Stefan Schulreich, Bermond Scoggins, Amena Sharaf, Justin Sheria Nfundiko, Emily Shuckburgh, Johan Six, Nevin Solak, Leonhard Späth, Bram Spruyt , Olivier Standaert , Samantha K. Stanley, Gert Storms, Noel Strahm, Stylianos Syropoulos, Barnabas Szaszi, Ewa Szumowska, Mikihito Tanaka, Claudia Teran-Escobar, Boryana Todorova, Abdoul Kafid Toko, Renata Tokrri, Daniel Toribio-Florez, Manos Tsakiris1, Michael Tyrala, Özden Melis Uluğ, Ijeoma Chinwe Uzoma, Jochem van Noord, Christiana Varda, Steven Verheyen, Iris Vilares, Madalina Vlasceanu , Andreas von Bubnoff , Iain Walker, Izabela Warwas, Marcel Weber, Tim Weninger, Mareike Westfal, Florian Wintterlin, Adrian Dominik Wojcik, Ziqian Xia, Jinliang Xie, Ewa Zegler-Poleska, Amber Zenklusen, Rolf A. Zwaan
掲載日:2025年1月20日(月)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41562-024-02090-5
DOI: https://doi.org/10.1038/s41562-024-02090-5
(8)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
本研究の日本分の調査は、日立感染症関連研究基金(https://www.hitachi-zaidan.org/activities/fundsupport/index.html) を中心に、JST-RISTEX「デジタルメディア社会における科学の信頼(#JPMJRS24L1)」「現代メディア空間におけるELSI構築と専門知の介入(#JPMJRX20J3)」の助成も受けて実施しました。
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