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コメ農家にも給付金 申請はモラル任せ 農閑期の収入ゼロ、コロナの影響どこまで

 「農閑期で収入のないコメ農家の持続化給付金の申請が増えているようだ。これって不正受給じゃないの?」。宮城県栗原市の男性(59)から「読者とともに 特別報道室」に疑問の声が届いた。取材を進めると申請要件の線引きがあいまいで、農家のモラル任せの制度の実態が見えてきた。

 栗原市の農家の持続化給付金の話題が出始めたのは7月上旬。栗原南部商工会には、市内の農家から連日10件以上の問い合わせがあったという。担当者は「新型コロナウイルスの影響かどうか判断できない」と困惑する。

 農家の場合、コメや果樹などの出荷は一定期間に集中する。持続化給付金の申請では、税務書類で月ごとの収入が確認できないため前年の収入の月平均額と今年の任意の月収の比較になる。結果として農家は、月収が前年同月から半分以上減ったことが条件となる一般の事業所などより、申請のハードルが低くなる。

 例えば、昨年の収入が240万円のコメ農家の計算例は表の通り。月平均収入が20万円に対し、農閑期の1月の収入は0円なので、申請が可能になる。

 新型コロナの影響を示す書類も、月収を比較できる資料以外は提出する必要がない。農林水産省経営政策課も「自己申告の性善説に立った制度」と説明する。

 実際に100万円を受け取った栗原市のコメ農家は、コロナの影響で今後米価が下がると考えて申請した。「半信半疑だったが、手続きに従って提出したら給付された」と素直に驚く。

 このようなケースは不正受給に当たるのか。制度を担当する中小企業庁は「申請時にコロナの影響による減収との宣誓を求めている。あとは申請者個人の判断になる」(総務課)として見解を示さなかった。

 現場では、線引きがあいまいな制度への不満が広がる。宮城県農業振興課の担当者は「国で基準を明確にしてもらわないと現場が混乱する」と指摘。宮城県農協中央会も「申請を個人のモラルに委ねる制度自体に無理がある」と批判する。

 地元農家から相談を受ける地方議員は「常識的に考えれば不正受給。コロナの影響を受けない人ももらえる制度では国民が納得しない」と指摘している。

◎最低限の審査を/有川博日大客員教授(公共政策)の話

 給付を急ぐために既存の制度設計のルールを無視して作られた制度だが、申請時に最低限のチェックは必要だ。後から不正の有無を調査するとなると膨大な時間と労力と費用がかかり、結果としてより多くの税金を使うことになる。

[持続化給付金]新型コロナウイルスの影響で収入が急減した中小企業やフリーランスを含む個人事業主の救済のための給付金で、農漁業者も対象となる。支給額は個人が最大100万円、事業者が200万円。経済産業省によると、20日までに約267万件、計約3兆5000億円が給付された。

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