2020ニュース回顧 取材ノートから>演劇
2020年も残りあとわずか。記者の取材ノートから今年のニュースを振り返る。(久野義文)
<のぞき穴、口パク コロナ逆手に芝居企画>
新型コロナウイルス感染症拡大で舞台公演が次々中止に追い込まれた。最初に飛び込んできたニュースは石巻市出身の俳優・半海一晃さんが出演するはずだった「桜の園」(4月、東京)の公演中止だった。
前兆だった。対岸の火事ではなかった。「いしのまき演劇祭」の来年延期が早々と決まった。今年は節目の5回目と、地元の演劇人たちは張り切っていた。コロナ禍には勝てなかった。
だが、ここから石巻の演劇人たちの闘いが始まった。「コロナ禍に負けない」が合言葉になった。
立ち上がった一人が矢口龍太さん。昨年まで演劇祭実行委員会代表だった。仲間と企画したのが「のぞき穴演劇」(6、7月)。戸に開けた丸い穴から向こう側の芝居を観劇する。観客はたった一人。戸1枚が飛沫防止にもなった。矢口さんの呼び掛けに、石巻地方を代表する女優の三國裕子さんや若手の大橋奈央さんらがはせ参じた。
10月には牡鹿半島にある古民家カフェで四つの朗読劇を展開した。換気対策として戸を開け放した。自然空間に朗読の世界が広がった。矢口さんは「逆境に奮い立つ。逆にやりがいを感じる」と語った。
矢口さんに続け-と都甲マリ子さんは、バーチャル・リアルティー(VR)を活用した芝居(8、9月)に挑んだ。11月3日には支倉常長を題材にした芝居(演出・作)も手掛けた。「3密」を避けて野外劇で上演。ステージに使ったのは石巻市渡波のサン・ファン館の復元船がある広場。地元4劇団が駆け付けて共演、石巻地方の演劇人の心意気を内外に示した。
芝原弘さん代表の演劇ユニット「コマイぬ」による「月いちよみ芝居」は3月から活動を休止したが8月に再開。意表を付いたのが「口パク」。事前にセリフや音を収録、当日は録音に合わせて演技した。
コロナ禍を逆手に取ったあの手この手の上演スタイルに、中央の演劇人たちも刺激を受けた。東日本大震災後、石ノ森萬画館で公演を行ってきた東京の「劇団 球」主宰の田口萌さんは「こんな手があったか。自分たちも頑張らないといけない」と感心した。
11月29日には旧観慶丸商店(中央3丁目)で二つの演劇イベントが立て続けに行われた。コロナ禍を吹き飛ばすように街中に芝居の活気があふれた。
演劇祭は中止になったが、被災地を芝居の面白い街に変えよう-という演劇人たちの情熱は、コロナ禍にあっても消えることはなかった。逆に演劇人たちの心に火をつけた。「いしのまきの演劇を考える会」の浅野将宏代表は「継続させていくことが大事」と来年を見据える。コロナ時代、新たな演劇が石巻地方から生まれる予感がする。