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「心の復興」を推進 石巻市複合文化施設が3月開館

1月末の完成に向けて建設工事が大詰めを迎えた市複合文化施設
音楽や演劇などの発表の場となる大ホール
古里の歴史や先人たちの業績を紹介する市博物館の内部

 石巻市が東日本大震災からの復興のシンボルに位置付ける市複合文化施設の完成が間近に迫ってきた。ホールが入る「市芸術文化センター」と郷土の歴史を紹介する「市博物館」で構成し、文化活動の新たな舞台となる。震災から間もなく10年。住宅や交通、産業などの社会基盤を再建してきた復興の歩みの中で、残されていた文化、芸術の拠点施設。さまざまな年代の交流をはぐくみ、「心の復興」を推進する。建設工事は1月末に完了し、施設は3月に開館する。

 複合文化施設は、震災の津波の直撃を受けて解体された石巻文化センターと石巻市民会館の後継施設に位置付けられる。

 1986年に南浜地区で開館した文化センターは、石巻地方の美術、民俗資料や文化遺産の収集、保管、展示を担い、市民活動の発表の場でもあった。67年に不動町に建設された市民会館は、文化、芸能のステージとして長く活用された。

 両施設の機能を代替する複合文化施設は、芸術文化センターと博物館の機能を融合させた。センターは大小二つのホールに加え、生涯学習を育むギャラリーや研修室、アトリエなどを設置。博物館は常設、企画展示室のほか、収蔵庫などを備える。

 建設場所は、震災後に仮設住宅が立ち並んでいた開成地区の産業団地「石巻トゥモロービジネスタウン」。インフラ環境や交通利便性の良さから選定した。

 総事業費は約130億円で、災害復旧費補助金などを活用した。企業や市内外の文化団体など延べ約120個人・団体から寄付が寄せられ、総額は約1億3600万円に上っている。

 建設工事は1月末に終える予定。市は3月に開館させ、震災10年の追悼式会場に使うことを想定している。開館記念行事を展開し、一般利用は研修室などが4月から、ホールは6月から始める。博物館は今秋のオープンを計画する。

 施設の愛称は公募で「まきあーとテラス」に決まった。市は命名権(ネーミングライツ)の売却先も募集し、優先交渉権者に同市の建設業丸本組を選定。正式に決まれば、愛称は「マルホンまきあーとテラス」となる。

<デザインは建築家・藤本壮介氏>

 白一色の外壁がトヤケ森山(標高173.6メートル)を背景に輝く。複合文化施設は昨年12月、建設工事の足場が取り外され、その外観を現した。

 形の異なるでこぼこの屋根が連続する。特徴的な五つの三角屋根は、旧北上川に沿って建物が立ち並んだ昭和初期の市内の風景をイメージした。最も高い大ホール部分は高さ約31メートル。西側に広がる住宅地への圧迫感を軽減するため、離れた位置に配した。

 建物と周辺環境だけでなく、人と人、活動と活動をつなぐ工夫も凝らした。

 約200メートルのロビーはホールや展示室、ギャラリーなど全体に通じる。カフェを設置するほか、テーブルやイスも各所に配置。さまざまな芸術、文化がロビーに流れ込み、会話や活動を生むことを狙う。通常はバックヤードとなる楽屋や収蔵庫といった機能も部分的に開放する。

 設計は国内外で活躍し、2025年大阪・関西万博の会場デザインを担当する建築家、藤本壮介氏が手掛けた。建築的な価値にも注目が集まる。

<芸術文化センター、多彩な利用形態に対応>

 芸術文化センターは1、2階の大ホール(1254席)と小ホール(300席)を備える。大ホールは1階のみで中ホール(812席)としても使用できる。5カ所の研修室や市民ギャラリー、創作室、アトリエ、楽屋なども設置する。

 大ホールはコンサートやミュージカル、演劇などの舞台芸術に加え、講演会や式典などにも対応する多機能型ホールとする。小ホールは小規模な音楽、演芸、研修会、シンポジウムなど多様な利用形態に対応。平土間式で舞台と客席を一体的に活用できる。

 展示会場となる市民ギャラリーは、市美術展や市文化協会展などの開催場所となることを想定。研修室や防音の練習室、絵画や陶芸の創作室などは市民活動に広く利用してもらう。市は2021、22年度にそれぞれ十数回ずつ、コンサートなどの興業や市民参加型のワークショップといった記念事業の開催を計画する。

 市民に貸し出す一般利用の予約は昨年8月に始めた。大、小ホールの予約率は7割を超えた月も多い。市教委複合文化施設開設準備室は「新型コロナウイルスの影響もある中、順調に予約が進んでいる」と話した。

<博物館、古里の歴史や先人を紹介>

 博物館は常設展示室(832平方メートル)、企画展示室(377平方メートル)に加え、設定湿度別に三つの収蔵庫、学芸室で構成する。

 常設展示室は、原始から古代、中世、近世の石巻の歴史を解説。東日本大震災の記憶を伝える内容も盛り込む。石巻市出身の彫刻家で太平洋戦争で戦死した高橋英吉(1911~42年)の作品コーナーを設置する。

 歴史研究家・毛利総七郎(1888~1975年)が集めた民俗資料「毛利コレクション」のミュージアムも設ける。人権派弁護士・布施辰治ら地元出身の先人を紹介する「先人展示」もある。それぞれの展示内容は定期的に入れ替える。

 震災で被災した文化センターの収蔵品を再び展示する。展示物は震災後、旧湊二小や東北歴史博物館(多賀城市)、県美術館(仙台市)などで保管していた。

 文化センター時代よりも合併前の旧町地区の展示を充実させる。テーマに合わせて資料を調べ、他の施設や個人が保有する文化財を借りたり、複製を作ったりし、内容を充実させた。

 企画展示室は、歴史や文化、美術などさまざまなテーマの下、年数回の展覧会開催を計画する。