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東北DC、4月スタート コロナ禍で観光発信に工夫 キーワードは「デジタルとアナログ融合」

牡鹿半島チャレンジライド、ファンライドを終え、集合する参加者たち=昨年11月1日、女川町
地域に滞在しながら観光情報動画の制作に当たる若手お笑い芸人の撮影風景
県東部地方振興事務所地方振興部長・飯川氏

 新型コロナウイルスの感染拡大は石巻地方の観光に大きな打撃を与えた。迎えた2021年。3月には東日本大震災から10年を迎え、4月には東北6県を舞台にした大型観光キャンペーン「東北ディスティネーションキャンペーン(DC)」が始まる。コロナ禍の中、石巻地方の観光情報、魅力をどう発信し、人を呼び込むか。便利なデジタルツールを活用しながら自然豊かな石巻地方を楽しむ。コロナ禍の中、「デジタルとアナログの融合」がキーワードの一つになりそうだ。

 石巻、東松島、女川3市町の観光振興を広域で展開する一般社団法人「石巻圏観光推進機構」が近年、力を入れているのがサイクルツーリズム。20年、コロナ禍で大規模な大会が中止される中でもペダルをこぐ足は止まることはなかった。

 6月には牡鹿半島(石巻市、女川町)を一周する自転車旅「ツール・ドおしいち」を企画した。ツールとして欠かせないのがスマートフォン。ダウンロードしたアプリを起動し、設定されたスポットを巡りながら半島を一周する仕組み。9月末までの期間中、首都圏などから参加した計660人が自転車旅を楽しんだ。「密」を避け、風を切って走る。コロナ禍の中、安全な楽しさを提供した。

 9月、10月には19年に始めた自転車探検旅「ライドハンターズ」を東松島、石巻両市で立て続けに開催。11月の「牡鹿半島チャレンジライド」の3イベントはいずれも定員いっぱいだった。

 機構の斉藤雄一郎業務執行理事(63)は「コロナのためいずれの大会も東北在住者限定にした。喜んでいただいたことが、さらなる誘客につながればいい」と話す。秋に集中した大会を今年は分散させて通年にわたり人を呼び込もうと計画を練る。

 「お笑い」との融合にも取り組む。若手芸人が一定期間、石巻地方に滞在しながら、それぞれが「推す」石巻地方の観光情報を盛り込んで制作した動画をコンテスト形式で審査。上位作品を動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップロードした。

 コンテストで1~3位に入った芸人はさらに1週間滞在し、新作を制作。昨年12月8日から機構のユーチューブ公式チャンネルで配信されている。

 年明け早々の11日には「お笑い芸人と行く日帰りバスツアー」を企画。当初は通常のツアーの計画だったが、新型コロナウイルスの感染拡大が再び強まったことからオンラインツアーに切り替えた。臨機応変もデジタルの強みだ。

 斉藤理事は今後について「スマートフォンを生かした取り組みをより強化したい」と話す。圏域の観光施設、団体のホームページのスマホ対応を推進し、連動したコンテンツ作りを進めたい考えだ。

 「食を絡めたいいプログラムをつくればインバウンド(訪日外国人旅行者)誘致にもつながる」と意気込む。今はコロナで来られなくともオンラインで魅力は発信できる。「震災10年。多くの人に感謝の気持ち、復興の進捗(しんちょく)を伝えたい」とモチベーションは高い。

◇寄稿「石巻地域の観光の展望」 県東部地方振興事務所地方振興部長・飯川斉氏

<目指すは「適疎」>

 新型コロナウイルス感染症が世界を席巻し、石巻地域の観光も大きな影響を受けています。そのような中、回復策を議論する「みやぎ観光振興会議石巻圏域会議」を立ち上げました。そこで打ち出されたキーワードが「適疎」。過密でも過疎でもなく、適度な「疎」で心地よい…、石巻地域の観光の目指すべき姿が、そこにあると考えました。

 従来から観光地は、観光素材を磨き上げ多くの観光客を呼び込もうとしてきました。いわゆる「観光素材志向の観光」。そして次第に、観光客のニーズを探り満足させることを重視する「観光客志向の観光」にシフトしました。

 その先の石巻地域が目指す適疎な観光とは、観光客を満足させるだけでなく、地域や社会を良くしていく「社会性志向の観光」です。適疎な観光とは、単に適度な疎があるだけではなく、石巻地域が良くなる観光だと考えています。

 では「適疎な観光」をどう実現するか。石巻圏域会議で具体策を取りまとめました。その中でも次の三つの取り組みを今年度内に実施することにしています。

<デジタルシフト>

 一般社団法人石巻圏観光推進機構が主体で、今年度内に「石巻地域観光デジタルシフト構想」を策定します。観光のデジタルシフトは、大きく二つに分けられます。一つは「観光事業者にとってのデジタルシフト」、もう一つは「観光客にとってのデジタルシフト」です。

 観光事業者のデジタルシフトは、電子決済や非接触型サービスの導入など、主に事業者の利便性向上に役立つものです。そして、観光客のデジタルシフトは、Wi-Fi(ワイファイ)の整備やオンラインツアーの実施など、観光客へのサービスの向上です。構想にはその双方を盛り込みます。両者から得られたデータを分析し、マーケティングへの活用も試みます。

<課題は公共交通>

 入り組んだ地形や島が多い石巻地域は、多彩な観光的魅力がある半面、公共交通の不便さが指摘されています。そこで、その魅力的な場所へ公共交通を試しに走らせてみよう!と考え、一般社団法人石巻観光協会など石巻地域3市町観光協会が主体となり、今年度内にバスやタクシーでのモデルツアーを実施します。

<関係人口の増加>

 人口減少が進んでいる石巻地域で活力を生み出すためには、外部の方々との交流が重要なポイントです。「観光客以上、移住者未満」とされる「関係人口」を増やし、外部に石巻地域の応援団を創れたら素晴らしいと考えました。そのため「石巻地域ファンクラブ」を年度内に創設し、関係人口を増やしていきます。

(いいかわ・ひとし:1967年5月、松島町生まれ。北大法学部卒。1991年に県庁入りし、水産林業部森林保全課を振り出しに、財政、保健福祉、国際政策などの部門に勤務。95年から96年は自治体国際化協会への出向でニューヨーク勤務も経験した。2020年4月から現職。趣味は海外旅行。家族は妻と長男、次男。松島町在住。)

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