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震災、新型コロナ いまを歩む>石巻フードツーリズム研究会石巻おでん部会

「もっと明るい色にしよう」。レトルトおでんを手に、パッケージデザインの改良について話し合う平塚さん(右)と水野さん

 東日本大震災から間もなく10年を迎える石巻地方は、新型コロナウイルスの感染拡大で逆境に立たされている。それぞれの分野で奮闘する人たちを紹介する。(相沢美紀子)

■レトルト化、需要に合致/石巻フードツーリズム研究会石巻おでん部会

 封を切れば、だしの効いたおでんが手軽に味わえる。新型コロナウイルス感染拡大に伴い家庭での飲食が増える中、昨秋に販売を始めた「石巻レトルトおでん」に注目が集まる。

 手掛けたのは、地元の食品会社や飲食店で組織する石巻フードツーリズム研究会の「石巻おでん部会」。レトルト化には、練り物やたれの製造、海産物卸などの6社が参画し、宮城学院女子大と共同で開発した。

 石巻は明治から続く全国屈指の練り物産地だ。「ぼたん焼きちくわ」は石巻が発祥とされ、戦後の高度成長期に60以上あった製造業者は、近海での水揚げ減少や価格競争、東日本大震災の影響で2社まで減った。

 おでん部会は、練り物文化を見直し、新たな発想で復興に弾みをつけようと2017年9月に結成した。「石巻おでん」と銘打ち、おでん種の直売や、飲食店ごとの独自おでんの提供などに取り組んできた。

 そもそも石巻は練り物を全国に出荷する一方、地元におでんの文化がない。部会長の平塚隆一郎さん(61)は「東京で販売会を開くと、通り掛かった石巻出身者に『石巻でおでん? なじみがない』といぶかしがられる」と苦笑する。

 歴史が浅い分、地場産品を使う原則を守れば、味付けは自由だ。多彩な食べ方が広がる中、部会としての基本モデルを作ろうと18年からレトルト化を検討。6社の技を結集し、ぼたん焼きちくわやサバ天、豆富(とうふ)天、結び昆布、ダイコン、卵の6種をサバだしで煮込んだ。

 販売初日の20年11月末、石巻市で販売会を開くと、用意した150食はほぼ完売。コロナ禍の巣ごもり需要を追い風に「本格的な味が家庭で手軽に味わえる」「衛生的で安心」と口コミが広がり、1カ月余りで生産した4000食は残り少ない。

 レトルト化で認知度が高まりつつあるが、平塚さんは「まだこれから。地元の人に愛される商品に育てたい」と語る。身近な店で買えるよう、月1回の直売会と併せて趣旨に賛同する小売店を増やしたい方針だ。

 地元や県外の歌手が歌う2曲のPRソングも普及を後押しする。副部会長の水野武仁さん(50)は「セリ、ホヤ、カキなど地元の食材を加えてもおいしい。レトルトおでんをベースに地場産食材の新しい食べ方を提案したい」と意気込む。

 それぞれの具材が持ち味を発揮しながら、豊かな風味を生み出すおでんのように、食材や作り手の個性を引き立て合い、石巻の食産業を次代につなぐ。