震災描く伝承演劇「咆哮」 石巻の俳優、仙台で公演

浜に立つ母娘。海に向かって叫ぶ娘役の大橋さん(右)と母親役の三國さん=撮影・岩渕隆
漁師役の芝原さん(左)と母親役の三浦さん=撮影・岩渕隆

 目の前で展開されている舞台の光景が信じられなかった。石巻の演劇人たちが「劇都・仙台」の舞台に立っていた。仙台の演劇ファンの心をつかんでいた。作品は東日本大震災を題材にした「咆哮(ほうこう) <私たちはもう泣かない>」。震災から10年。「伝承演劇」という呼び方が生まれた日となった。

 「咆哮」は、三國裕子さんが主宰する劇団「うたたね.<ドット>」が2019年11月、第4回いしのまき演劇祭で初演した作品。震災から8年、被災した人たちの吐(は)き出せなかった思いを描いた。夫の文三さん(ペンネーム)が「伝えることが女優・三國の使命」と脚本を書いた。それに応えて三國さんは演出・出演を兼ねて臨んだ。

 その時、観客から受け取った言葉が「私たちの思いを描いてくれてありがとう」だった。石巻発の舞台をより多くの人に見てもらいたい-と意を強くした。

 その思いが今年、かなった。仙台の演劇文化の中心地「せんだい演劇工房10-BOX」(若林区卸町)の舞台に立っていた。

 漁船を避難させようと沖合に出たまま行方不明になった夫を待ち続ける妻役が三國さん。幼稚園のバスが津波にのまれ、乗っていたわが子を亡くした若い母親役に、初演時と同じ大橋奈央さん。新たに加わったのが震災後、コマイぬとして古里・石巻で活動する芝原弘さん。老いた母親と2人暮らしの漁師役で、迫る津波におぶっていた母をその場に置いて慚愧(ざんき)の思いで立ち去った息子を演じた。

 三國さんと大橋さんは母娘という設定でもあった。芝原さんと3人が同じ場面に立つのは最後の浜辺のシーンのみ。海に向かってそれぞれ震災からたまっていた思いのたけをぶつける、吐き出す。

 それは悔恨、怒り、悲しみ、苦しみ…。そして、再生に向かっての踏ん切りの叫びでもあった。芝原さんの母親の声「生きろう~」が客席にまで届いた。

 終演後、仙台市内の専門学校で演劇を学ぶ斎藤拓海さん(20)は「自分はまだ10歳で山形にいたが、父が石巻出身だった。きょうの舞台は…」と言って、声を詰まらせた。観客一人一人の心に何かが伝わった。

 大橋さんは「役とはいえしんどかった。が、若い母親を生きられた」と語った。

 芝原さんは「演劇を通して震災を伝承していくことの可能性を改めて感じた」と強調した。

 三國さんは「仙台でやったことに意味があった。被災した一人一人に物語があることを伝えたかった。ここからスタートでもある」と前を向いた。

 石巻と仙台の演劇人がつながった場となった。何より芝居は震災を語り継ぐ力を持っていた。「咆哮」は「伝承演劇」として新たな一歩を踏み出した。

   ◇

 「咆哮 <私たちはもう泣かない>」は仙台舞台芸術フォーラム2011→2021東北(仙台市市民文化事業団・仙台市主催)に招かれて6、7の2日間、上演。7日は配信も行われた。ほかに芝居屋の三浦幸枝さん(芝原さんの母親役)、佐々木恵真さん(セールスレディー)が出演。7日に観賞した。(文)

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