閉じる

観賞記>石巻出身の佐藤さん監督映画 大川題材、自身の体験重ねる

「春をかさねて」を上映中の会場
自ら監督した作品について語る佐藤さん

 石巻市出身の佐藤そのみさん(24)=東京都=が日大芸術学部映画学科に在籍していたころに監督として作った映画2本が、石巻市中央3丁目の旧観慶丸商店で上映された。映画は東日本大震災で被災した大川地区を題材にしていた。自身の体験を基にした劇映画「春をかさねて」(2018年)と、あの日からどのように生きてきたかを記録したドキュメンタリー映画「あなたの瞳に話せたら」(19年)。震災と向き合ってきた心の葛藤が表現されていた。

 「春をかさねて」は、震災で妹を亡くした14歳の少女・今野祐未が主人公。マスコミへの取材に応えてきた少女が、ある日を境に口をつぐんで語らなくなる。大勢といても独りぼっちの時が多くなる。そんな少女をカメラはじっと捉える。が、その視点は突き放していない。妹を津波で亡くした佐藤さんが少女に寄り添っているからだ。

 祐未役の斎藤小枝さん(17)も、ほかの役の人たちも震災後、石巻で演劇活動に力を入れてきた。彼らが彼女の内なる声に応えた。

 「これ以上つらいことはない、好きに生きよう」「話したいことがたくさんある」。前を向き始めた祐未に佐藤さんが重なった。

 「あなたの瞳に話せたら」は、多くの犠牲者を出した大川小にまつわるドキュメンタリーだった。親友や家族を亡くした当時の子どもたちの8年半後の姿があった。佐藤さん自身と、2人の男女の若者が登場。何を感じて、どのように生きてきたかを手紙にして朗読。

 身近な存在だった者が突然いなくなった喪失感、生かされた自分がどう過ごしてきたかなどが「あなた」に語り掛けてくる。

 「5年1組のみんなと年が離れていく」「昔の自分がいるよ」と、あの日と向き合いながら生き続けてきた3人の言葉から、葛藤してきた時間の長さを思い知らされた。それは生きている間、続くに違いない。

 出演を断られたケースもあった。まだ言葉にできない人たちがいることに改めて気づかされた。

 両作品には大川地区の被災状況や、子どもたちの命を守る大切さを伝承しようと活動を続ける大人たちの姿にもスポットを当てていた。語り継いでいくことの大切さを伝えようとする佐藤さんが、カメラの向こう側にいた。

<出演者トーク>

 「ある春のための上映会」(実行委員会主催)と題し3月21日、旧観慶丸商店(石巻市中央3丁目)で行われ、トークもあった。佐藤さんは「本当に込めたかったのは若者たちがどのように思い、生きているか」と語った。「春をかさねて」に出演した芝原弘さん(コマイぬ)は「土地に吹いている風や空気、においが演技に影響を与えた」と強調。

 観賞した40代の女性は「生き残った若者たちの葛藤が映像で表現されていた。多くの人が見られる機会をつくって」と話した。

 震災を扱った映画やテレビドラマは少なくない。が、ほとんどは外部の人たちによって作られてきた。今回の2本は違う。自らの被災体験を基に、内側から表現された映像であるところに特別な意義がある。(久)

石巻かほく メディア猫の目

「石巻かほく」は三陸河北新報社が石巻地方で発行する日刊紙です。古くから私たちの暮らしに寄り添ってきた猫のように愛らしく、高すぎず低すぎない目線を大切にします。

三陸河北新報社の会社概要や広告などについては、こちらのサイトをご覧ください ≫

ライブカメラ