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芝居で震災と向き合う 石巻の俳優・大橋奈央さん、伝え続ける大切さ実感

「いのちのかたりつぎ」で熱演する大橋さん。後ろは芝原さん=3月28日、旧観慶丸商店
大橋奈央さん

 東日本大震災を題材にした演劇と真正面から取り組んでいる石巻市在住の俳優がいる。大橋奈央さん(26)だ。2月の「咆哮(ほうこう) 私たちはもう泣かない」に続いて、3月は「いのちのかたりつぎ」に出演。被災地の俳優として震災を芝居で伝え続けることに役割と意義を見いだしている。

 「咆哮」は石巻市を拠点にする劇団うたたね.<ドット>主宰の三國裕子さん演出による震災劇。大橋さんは津波で園児の娘を亡くした母親を演じた。石巻の演劇人たちが2月6、7の2日間、仙台の演劇の中心地・せんだい演劇工房10-BOXで上演、「伝承演劇」という言葉を生みだし発信した。

 「いのちのかたりつぎ」は東日本大震災と阪神・淡路大震災を題材に五つの短編で構成するオムニバス演劇。3月28日、旧観慶丸商店(石巻市中央3丁目)で上演された。石巻市出身の芝原弘さん(39)=仙台市在住=らと歌やダンスなどを取り入れた芝居で、語り継ぐ大切さを訴え、生きる勇気を与えた。

 大橋さんは「咆哮は被災者の悲しみ、怒りを真正面から取り上げた作品。いのちのかたりつぎは変に重くならないで柔らかい雰囲気の中で被災地の思いを込めた。震災を扱いながら対照的な作品に関わり合うことができた」と充足感をにじませる。

 東日本大震災から10年。「巡り合わせか、演劇という形で震災を伝える役目をいただいて身が引き締まる思いだった」と振り返る。

 昨年からの新型コロナウイルス禍で演劇活動も制約されるなど影響が出ている。それでも悲観しない。「動画による配信など上演スタイルも変わってきている。さらにこれから新しい表現の方法が生まれるかもしれない。咆哮の仙台進出の意義も大きい。石巻と仙台の演劇人たちとの交流に弾みがつき、伝承演劇が広がれば」と期待する。

 2017年に東京から古里の石巻に戻り、いしのまき演劇祭に参加するなど、石巻の演劇界を担う若手としてなくてならない存在となっている。二つの震災劇を通じて改めて地元の演劇人として伝承を継続していくことの大切さも実感。

 「この地に生きる人間として、芝居を通して震災と向き合っていきたい」と誓う。

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