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ニュースを聴く>福島原発処理水の海洋放出 風評被害の再燃確実

情報共有の必要性や販路拡大の重要性を語る大塚社長

 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水を2年後をめどに海洋放出する政府決定を受け、石巻地方の漁業者からは風評被害や消費低迷を懸念する声が多く上がる。東日本大震災からの復興が進み、10年という節目を迎えた中で、水産業に与える影響は大きい。

 石巻市の水産加工会社「大興水産」社長で、石巻商工会議所の副会頭も務める大塚敏夫氏(70)に、現状や今後の影響などについて聞いた。(聞き手・大谷佳祐)

   ◇

-東日本大震災から10年すぎての方針決定だ。

 「なぜこの時期なのか?という印象が強い。政府や東京電力はいずれ起こることに対しての考えが甘い。政府にとっては東京五輪や選挙への影響、東電からすれば処理水を保管するタンクの満杯時期が迫るからと見ることができる。ただ、生産者の立場として予測できた件でもあるので、危機意識の面では反省しなければいけない。政府や東電は漁業者らといくらでも話し合うことはできたはず。納得して方針を受け入れるまでの時間は全然足りない」

-風評被害の再燃が懸念される。

 「可能性ではなく確実にあると考えた方がいい。既に起きていると想定して対策を考えていくべきだ。震災後は宮城の魚も安く買われることが多かった。持ち直してきた中で、新型コロナウイルスが世界にまん延し、価格低下だけでなく、需要そのものが減る恐れもある。福島、宮城だけにとどまらず、茨城や千葉、秋田、山形など隣県にも影響はある。県内には『金華さば』や『伊達のぎん』などブランドが多くあり、いいものはいいと評価してくれる人も必ずいるので、信じてやっていくしかない」

-海外への情報発信が大事になる。

 「原発事故から10年がたった今も、県内には負の影響が色濃い。ホヤの一大消費地だった韓国は禁輸措置を講じたままで、このままだとなくても困らない食材と見なされてしまう恐れがある。新しい販路を開拓する必要も迫られるだろう。売り先を見つけられても、コストが高くなっては意味がない。フィリピンやベトナムといった魚を使った缶詰を作る国との結びつきを強くするなどして乗り切るのがいいのではないか」

-具体的に何をしていけばいいか。

 「大興水産では震災前に導入を検討していた陸上養殖を復興が進む過程の中で取り入れている。この事態を予測してのものではないが、海水を使わずに育てるやり方なので、安全をPRすることは可能。今やっていることをベースにして新しい魚種に挑戦するなどの取り組みが大事だ」

 「情報共有を盛んにするべきだと感じる。企業や生産者は必ず成功と失敗の事例を持ち、しっかりと生かされているから今に至っている。確立したアイデアを自分のものにするだけでなく、意見交換という形でやりとりすれば地域全体の活性化にもつながる。新型コロナで会うのは難しくても、オンライン会議などを使っていければ問題ないだろう」

-現場の漁師らができることは。

 「機械化できる部分は人の手を離し、水産業を応援する団体や企業と連携するのがいいのでは。今はネット社会で通信販売やSNSが当たり前になっている。写真や動画で人の目に訴えていけば、必ず心を動かすことができる。助けてくれるのを待つのではなく、自らが動かないとこの問題を解決するのは難しい」

<メモ>
 処理水に含まれるトリチウムは雨水や海に混ざって存在しており、人体にも取りこまれるが、ほとんどが体外に出されるため健康への影響はないとされている。政府が海洋放出方針の決定を押し切ったことに、漁業関係者らが不信感を強めた。宮城県は11日、政府や東電に対する地元の要望をまとめる官民会議の初会合を開き、福島県農協中央会、県漁連、県森林組合連合会、県生協連合会は4月30日に方針に反対する共同声明を発表した。

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