<東北の本棚>宿敵政宗との攻防描く

奥州戦国に相馬奔(はし)る 近衛 龍春 著

 相馬野馬追の古里、福島県相馬地方。この地を治めた戦国大名・相馬義胤(よしたね)の生涯を、豊富な史料を基に描き出した長編歴史小説。著者が2012年に別名で刊行した作品に大幅加筆した。義と名誉を重んじる義胤のリーダーシップに引かれる物語だ。
 6万石を有する相馬氏は、東北に覇を唱えた伊達政宗、天下人となった豊臣秀吉と徳川家康の脅威に耐え抜き、太平の世には2度の大津波も乗り越える。相馬家の命運を大きく左右するのが、19歳年下の宿敵政宗との攻防。政略結婚で均衡を保ってきた東北の諸勢力を力で制し、天下取りへ走る独眼竜は終始、義胤にとって国境を荒らす憎き敵として描かれる。
 序盤に訪れる両雄の3日間にわたる会談シーンが興味深い。配下に加わるよう求める政宗に対し、拒否する義胤。初対面の翌日、義胤が供回りだけを連れて政宗の居所へ「アポなし訪問」を敢行すれば、その翌日には政宗が義胤の元を訪ねる意地の張り合い、腹の探り合い。義胤は数倍の国力を持つ政宗を相手に相馬武士の心意気を曲げず、不可侵の約束を取り付ける。
 忠実な家臣団と精強な騎馬武者ぞろいの相馬軍は「命を惜しまず名を惜しめ」とげきを飛ばす義胤の下、無類の強さを誇る。小田原攻めには参陣しなかったが、伊達への抑えとして秀吉に本領を安堵(あんど)される。関ケ原の合戦後、家康から出羽への転封を命じられる最大のピンチも、義胤の嫡男利胤の粘り強い交渉で免れる。大大名でさえ国替えが当たり前だった時代、先祖伝来の領地を守り抜いた数少ない領主となった。
 慶長(1611年)、元和(16年)の大津波で壊滅的な被害に遭う相馬地方。藩の復興に晩年をささげた義胤は88歳の大往生を遂げる。信じるもの、守るべきものがある人間の強さが伝わってくる。(浅)

 実業之日本社03(6809)0473=968円。

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