<東北の本棚>平和の礎守る思い貫く

井上ひさしの憲法指南/井上ひさし 著

 「九条の会」発足を呼び掛けた一人だった作家の井上ひさしさん(1934~2010年)が、日本国憲法について書いたエッセーや講演録をまとめた。一貫して「日本国憲法はすばらしい憲法だ」と、護憲の立場を明快に打ち出している。

 2部構成で、第1部では1977~2009年に、改憲論議への思いや9条の在り方などをつづった12編の文章、講演録を紹介する。第2部の「二つの憲法」は1999年に書かれ、2011年に「岩波ブックレット」の一冊として刊行された。大日本帝国憲法と日本国憲法の成立過程を歴史を追って解説し、憲法の意義を考える内容になっている。

 収録された文章の執筆年代は異なるものの、井上さんの論旨はほぼ変わらない。(1)連合国からの「押し付け」憲法ではない(2)「平和主義」など憲法の基本原理を変えるのは「革命」「クーデター」(3)日本の平和憲法が世界の目標になっている-と改憲の動きをけん制し、平和の尊さを訴える。

 第2次世界大戦中、出身地の山形県川西町で経験した悲しいエピソードの紹介もある。東京から町に疎開してきた男児と仲良くなったが、男児が一時的に東京に戻った際、東京大空襲があり、二度と会えなかったという。こうした悲しみの記憶が、現行憲法のうたう平和を守りたいという、強い願いにつながったのだろう。

 戦前とは全く異なる価値観を提示した日本国憲法を、悲惨な戦争を経た人々がどう受け止めたのか。当時を知る人の多くが鬼籍に入り、直接話を聞く機会は少なくなった。しかし、井上さんの文章は、多くの現代日本人に時を超えてその思いを伝えてくれる。現行憲法へのスタンスのいかんにかかわらず、ぜひ若い世代に手に取ってほしい。(矢)

 岩波書店03(5210)4000=1210円。

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