社説(12/2):障害者の逸失利益/「生産性」の差別 見直しを

 障害者だからというだけで「命の値段」は低いのか。交通事故で亡くなった聴覚障害の女子=当時(11)=の逸失利益を巡り、加害者側が障害者の尊厳を傷つける主張を展開する訴訟が、大阪地裁で続いている。

 事故は2018年2月に起きた。歩道にショベルカーが突っ込み、女子を含む5人が死傷。運転手の男は危険運転致死傷罪で懲役7年の判決が確定した。訴訟では、女子の遺族が男と勤務先に損害賠償を求めている。

 逸失利益は将来の収入など本来得られるはずだった利益のことで、損害賠償の大きな部分を占める。訴訟で被告側は「聴覚障害者は思考力、言語力、学力を獲得するのが難しく、就職自体も難しい」「就職できても得られる賃金は低廉」として、女性労働者平均賃金の4割相当(約153万円)を基に算定した逸失利益を主張した。

 亡くなった女子のみならず聴覚障害者全般に向けられたこの主張は、明らかに偏見や差別ではないか。さらに年少者の逸失利益は昨今、男女の全労働者平均賃金に基づいて算定するのが一般的だ。女性労働者に限った平均賃金を算定根拠に持ち出した点にも、首をかしげざるを得ない。

 聴覚障害があっても補聴援助システムや音声認識アプリなど技術の進化で、自らの可能性を切り開いている人は多い。現に訴訟でも今年5月の口頭弁論で、女子より重い聴覚障害がある遺族側弁護士が意見陳述に立ち、被告の主張に反論する場面があった。

 被告側は8月、それまでの主張を撤回し、逸失利益の基になる収入を聴覚障害者の男女平均賃金(約295万円)に変更したが、なお男女の全労働者平均賃金(約497万円)とは開きがある。

 かつては障害者の逸失利益が、就労可能性がないことを理由にゼロと判断された時代もある。障害者雇用の進展に伴って運用は少しずつ見直され、09年には青森地裁が重度障害者にも逸失利益を認める全国初の判決を出し、確定した。

 ただ、画期的だった青森地裁判決も算定の基になる収入を青森県の最低賃金とし、全労働者平均賃金を当てはめなかった。障害の程度と収入の関係、いわば「生産性」や「稼ぐ力」で健常者と差をつけた。障害者の逸失利益が争われた今年9月の広島高裁判決も、基礎収入を全労働者平均の8割にとどめた。

 生産性による価値判断は、過去に優生思想が招いた差別と大差ない。障害者に不妊手術を強いた旧優生保護法を、司法は明確に違憲と断じた。障害者の逸失利益に関し、差別を追認するような司法判断は見直されるべきだ。

 あすから9日までは障害者週間。社会に根深く残る差別や偏見こそが「障害」であり、多くの可能性を閉ざしていないかを考えたい。

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