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SDGs達成へ 石巻地方での事例紹介

 近頃、新聞や街中でよく見掛ける「SDGs」。日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。「聞いたことはあるけれど具体的には分からない」「国や大企業が取り組むこと」と思っている人も多いのでは。そこで、SDGsの達成に向けた石巻地方での事例を紹介します。

ニイヌマ(石巻市)

通常の水耕栽培より水の使用量が少ないアイメック農法で高糖度トマトを栽培している=石巻市蛇田

<環境重視し商品開発>

 建築資材販売などを手掛ける「ニイヌマ」(石巻市門脇元浦屋敷)は、社内にSDGs推進担当者を置き、全社一丸となってSDGsに取り組んでいる。

 新沼利英社長(54)は「どの事業にもSDGsに対応する部分があり、ポイントを探して取り組むことが大切だと思っている」と語る。

 以前から発光ダイオード(LED)照明の開発製造販売やトマトのハウス栽培など環境に関わる事業を広く展開しており、近年はSDGsの観点を重視した商品開発やサービスの提供に力を入れている。

 その一つが、廃棄される卵の殻を活用した除菌・抗菌スプレー。アルコールや化学原料を使わず、天然由来の成分のみで高い殺菌・抗菌効果を実現した。敏感肌の人や、厳しい制約があるイスラム教徒も安心して使用できる。

 海外事業でもSDGsを重視。ベトナムでは国際協力機構(JICA)の事業採択を受け、山岳地帯で太陽光発電・蓄電池などの普及に向けた取り組みを行っている。

 新沼社長は「チャレンジ精神を持って進み、本業を通じてSDGsの達成に貢献できるよう努めたい」と意欲を燃やす。

石巻市・グリーンスローモビリティ

電動カートで出掛ける住民たち。冬場は車両に風よけのカバーを掛け防寒対策をしている=2021年12月、石巻市のぞみ野地区

<電動車、移動も交流も>

 石巻市は2021年3月、東日本大震災の被災者らが暮らすのぞみ野地区で、低速走行の電動カートを移動手段として活用する「グリーンスローモビリティ」の運用を始めた。高齢者らが乗り合い利用し、地区内の量販店やイベントなどに出掛けている。利便性向上だけでなくコミュニティーの活性化にもつながると期待を寄せる。

 内閣府の認定を受けた「自治体SDGsモデル事業」の一環。電動カートは太陽光発電を搭載した非接触給電所で充電し、100%自然エネルギーで走行する。

 車両には廃車となったハイブリッド車の基幹部品を再利用。市はカートの生産を「ハイブリッドリユース事業」として環境に配慮した新産業に育てる計画で、市内の4事業者が共同企業体をつくり取り組んでいる。

 課題もある。離半島部などへも運用を広げる計画だったが、最速20キロ未満と低速なことや航続距離が10キロと短いことから住民の反応は鈍い。環境が整っている新蛇田エリアから導入を進めていく。

 市ICT総合推進課の担当者は「電動カートが当たり前に走っている社会を目指し、地域の声を聞きながら導入を進めたい」と話す。

おらほの女川食堂(女川町)

地域の大人が見守る中、真剣な表情でクッキー作りを楽しむ子どもたち=2021年12月、きらら女川駅前店

<地域の人と共に調理、楽しく交流>

 食卓を囲んで地域住民が交流する「子ども食堂」の活動が石巻地方でも増えてきた。「おらほの女川食堂」は、運営するNPO法人きらら女川が毎月第2土曜の午後、女川町中心部で運営する飲食店で開く。

 子どもたちが地域の人と一緒に調理し、味わうのがモットーだ。たこ焼きやお好み焼き、粉をこねてうどんを作ったことも。昨年12月にはクリスマスにちなみ3~12歳の24人がにぎやかにクッキー作りを楽しんだ。

 始めた5年前は参加者が1人ということもあったが、楽しいと評判が広まり、今では20人程度が参加する。毎回参加する女川小6年遠藤摘希(つみき)さん(12)は「家で料理するのとは違う楽しさがある。小さな子と触れ合えるのも楽しい」と笑顔で話し、準備や片付けを手伝う。

 子育て世帯の中には、外から見えづらくても、経済面や発達面をはじめ、あらゆる悩みを抱えているケースがある。そうした親子のサインに気付けるように、誰でも気軽に来てほしいと無料にしている。

 きらら女川の管理者沼田利恵さん(52)は「誰一人取り残さないために、門戸を開き続けることが大事。楽しいから行きたいと思ってもらえる活動を末永く続けたい」と意気込む。

東松島市・持続可能な観光推進

持続可能な観光の考え方を学んだトレーニングプログラム=2021年11月、東松島市野蒜

<地元や環境にも配慮、選ばれる旅先目指す>

 海外の旅行者を中心に、SDGsに配慮した観光地を選ぶ傾向が増えつつある。観光名所「奥松島」がある東松島市は、新型コロナウイルスの収束後を見据え、SDGsに対応した観光地としてブランド化に注力する。

 市は、観光庁の「日本版持続可能な観光ガイドライン」の2021年度モデル地区に選ばれた。観光客と地域住民の双方に配慮しつつ、経済、地域社会、環境の各分野でバランスを保ちながら観光事業を永続できるよう観光庁が国際基準に準拠し設けた観光指標だ。

 昨年11月下旬、東松島市で開かれたトレーニングプログラムでは、観光事業者らが3日間、持続可能な観光の考え方や取り組みについて、先進事例を参考に理解を深めた。グループ討論では、環境に配慮して客が食べきれる量を提供する工夫などに意見を交わした。講師の荒井一洋さんは「お客にとって利益があると思わせよう」と助言した。

 一般社団法人地域観光研究所の主任研究員久保竜太さん(38)は、釜石市で持続可能な観光事業の推進に携わった経験について「関係者の理解と実行が伴い、商品やサービスの質が高まり、観光地としての質が向上した」と振り返る。地元の一人一人ができることを重ね、観光客に選ばれ、地域も発展する東松島市を目指す。

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