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古里の歴史・文化を体感しよう 石巻市博物館、展示充実

生命力にあふれた「海の3部作」など高橋英吉の代表作がそろう展示室
石巻の成り立ち、古代から現代までの時の流れを体感できるプロジェクトマッピング
数々の土器が並び、縄文時代の先史から始まり、古代、中世、近世、近現代までの石巻地方の歴史を巡る
里山、川、海への連関をアワビ漁を通じて体感できるコーナー。隣接して海運を担った千石船の歴史を知る展示もある

 石巻地方の成り立ちと、文化を総合的に体感できる石巻市博物館が昨年11月、同市開成の市複合文化施設(マルホンまきあーとテラス)内に開館した。東日本大震災で被災し解体された石巻文化センターの役割を受け継ぎ、より充実させた。

 先史時代~近現代の石巻を学ぶ資料やパネル、市出身の木彫作家高橋英吉の代表作などが並ぶ。歴史研究家の毛利総七郎が収集した「毛利コレクション」、人権派弁護士布施辰治ら市出身の先人の功績を振り返るコーナーなどが来館者を迎える。今の石巻へとつながる自然、人々が紡いだ歴史が凝縮されている展示概要を紹介する。

石巻市博物館副参事・成田暢さんに聞く

 石巻文化センター(東日本大震災で被災、解体)の精神を受け継いで昨年11月、開館した石巻市博物館。見どころや今後の役割などについて同館副参事の成田暢さん(60)に聞いた。

-常設展示室の内容は。

 「『大河と海』をテーマに大きく四つのコーナーに分けている。高橋英吉作品、石巻にゆかりの先人たち、毛利コレクション、そして歴史文化である。ここに来れば民俗、考古、美術など港町として栄えた石巻の歴史文化、先人たちの功績を総合的、多角的に学べる」

-見て、触れて、体験もできる。

 「昔の博物館にあった堅いイメージを払しょくしたかった。例えば地層めくりでは、それぞれの時代から何が発掘されたかを知ることができる。現代をめくると『えっ、これが』と意外に思うようなものが埋もれている。でも100年後、200年後には貴重な考古学資料になるかもしれない。知的好奇心を刺激するような遊び心を大事にした」

-写真撮影もOKなので驚いた。

 「以前だと撮影禁止が当たり前だった。今はインターネットの時代。その手段を活用しない手はない。常設展示室にある収蔵資料はどれを撮影しても大丈夫。バンバン撮ってSNSなどで、ここを国内外にPRしてほしい」

-偶然にも今、石巻専修大生が講義の一環で来ている。教育で果たす役割は大きい。

 「地元の小中学校や高校に学習の一環として活用してもらいたい。歴史や文化、先人たちを知ることで古里に対する見方、認識が変わり、古里への愛着もより深まると思う」

-石ノ森萬画館など他の施設との連携は。

 「まだ具体的には何も決めていないが、連携は大事だと考えている。萬画館のほかにも市内にはサン・ファン館、おしかホエールランド、雄勝硯伝統産業会館などがある。ツアーで巡れば石巻のいろいろな魅力に触れられる。ルートに震災遺構も含めれば伝承にもつながる」

-震災に続いて新型コロナウイルス感染症が市民を不安に陥れている。改めて文化の力が問われている。

 「私は秋田県の山間で生まれ育ったので、海や北上川がある石巻に独自の魅力を感じる。交通網の大動脈だった川によって栄えた港町であり、海や川が歴史や文化を育んできた。そこに誇りを持つことが生きる力になるはず。それを実感できる場所にしたい。過去と現在、未来をつなぐ石巻の原風景を発信する拠点がここ、博物館である。震災から10年という空白があったが、市民の心の拠(よ)りどころになるような新たな歴史文化空間を創造していきたい」

開館記念企画 被災作品を修復、展示

 企画展示室では、開館記念企画展として「文化財レスキュー 救出された美術作品の現在(いま)」が開催されている。東日本大震災で被災した収蔵品が並ぶ。修復が施された彫像や絵画など55点を通し、震災時に活動した「文化財レスキュー」が果たした意義と役割を伝えている。

 塩水に漬かり、水損した美術品は、仙台市の県美術館に運ばれ、全国各地から集まった学芸員や修復家に学生たちも加わり、応急処置が施された。その後、国立西洋美術館などに分散して移され、専門家の手で洗浄と保存処置が行われた。作業を終えた作品は県美術館で保管した。

 震災から10年半が過ぎ、補修を終えた美術品は石巻へと戻り、再び、この地が育んだ文化の光を伝える役目を担っている。

 前期は10日まで。後期が12日から2月27日まで。観覧料(常設展も含む)は一般500円、高校生300円、小中学生150円。

   ◇

 講演会「石巻文化センターの木彫作品の修復について」が23日午後1時半~3時、小ホールで行われる。講師は元東北芸術工科大学美術史・文化財保存修復学科の学科長藤原徹さん。入場無料。予約不要。

■石巻市博物館
 開館時間は午前9時~午後5時(最終入館は午後4時半)。休館日は毎週月曜(ただし、当日が祝日の場合は翌日)。年始の休館日は1~4日。観覧料(常設展)は一般300円、高校生200円、小中学生100円(20人以上は2割引きの団体料金)。無料駐車場(347台分)あり。連絡先は0225(98)4831。

先人たち

◇高橋英吉(1911~42年) 
 石巻市生まれ。木彫作家。東京美術学校(現・東京芸術大)で学び、将来を期待されるが、太平洋戦争で応召され、ガダルカナル島で31歳の若さで戦死。「海の三部作(潮音、黒潮閑日、漁夫像)」をはじめ「母子像」「少女と牛」など、短い活動期間ながら才能を伝える木彫作品を後世に残した。戦後、英吉を知る人たちによって全国に散らばっていた遺作が集められ、石巻市に寄贈された。

◇毛利総七郎(1888~1975年) 
 石巻市生まれ。70数年かけて私財と労力を投じて収集した資料(史料)は10万点を超える。その総称が「毛利コレクション」。沼津貝塚・南境貝塚からの出土遺物をはじめ、鍔・鞘などの刀剣関係、灯火具・喫煙具・古鏡などの生活用具、古銭などの鋳銭場関係、マッチラベルや駅弁の包み紙といった生活関連資料、さらにアイヌ民族資料もある。毛利コレクションは学術的に高い評価を得たものから、庶民の暮らしを伝える資料まで多岐にわたる。

◇布施辰治(1880~1953年) 
 石巻市生まれ。人権派弁護士。弱者を守る弁護士として数多くの弁護を引き受ける。特に三鷹事件の弁護団長として活躍した。また弾圧・迫害を受けた朝鮮人民の生存と自由のために命をかけて闘った。日本人として初めて韓国政府から独立に寄与した愛国の士に贈られる「建国勲章」を授与された。

◇フランク安田(1868~1958年) 
 石巻市生まれ。米国アラスカに渡り、イヌイットの教育と経済開発のために尽力。彼らの救世主として尊敬された。彼の生涯をテーマに、作家の新田次郎が書いた小説が「アラスカ物語」。

◇芳賀仭(1909~63年) 
 石巻市生まれ。画家。油絵を学ぶため上京。画家らが集まった芸術村「池袋モンパルナス」に住む。紙芝居を描き生計を立てながら太平洋美術学校に通う。プロレタリア美術研究所にも在籍、社会的作品を制作。検挙されることもしばしばだった。39年から児童漫画を制作。40年「愉快な小熊」(中村書店)は当時の文部省推薦児童図書となった。

◇阿波研造(1880~1940年) 
 石巻市生まれ。弓道場を創設し、多くの門弟を指導した。 

◇太斎春夫(1907~44年) 
 仙台市生まれ。幼少期を石巻で過ごした漆絵研究の第一人者。高橋英吉と親交が深く、学生時代に2人で帯留などを制作した。

石巻かほく メディア猫の目

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