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災禍の記憶、未来に 「震災遺構 門脇小」整う 4月開館

4月の公開が迫る震災遺構門脇小。震災遺構の校舎と展示館が並び立つ
校舎北側に新設された観察通路から、津波や火災の跡が残る本校舎内を見学できる
地域の思い出や学校の歩みなどを解説する特別教室の一室。中央には被災前の地域を再現したジオラマがある
津波で被災した車両が展示された屋内運動場

 東日本大震災の津波と火災の痕を唯一残すとされる旧石巻市門脇小が4月、市の震災遺構として一般公開される。立地する門脇町地区と、隣接する南浜地区は、地震と津波、火災による複合災害で甚大な被害に遭った。現在は震災後に造成された地域住民の生活区域と、行政や民間が設置した数々の追悼、伝承の拠点が共存する。

 震災の発生から間もなく11年。地域の風景は大きく変わり、時間の経過とともに、最大被災地の石巻でさえも記憶の風化が課題となる。大災害の教訓を未来に継承する-。かつての学びやは新たな使命を背負い、開館の春を待っている。

<校舎中央部を保存>

 本校舎と校舎脇から内部をのぞく観察通路からなる「震災遺構」と、屋内運動場と特別教室で構成する「展示館」、校舎南東の駐車場や休憩所を整備した。敷地面積は約1.27ヘクタールで、施設の延べ床面積は計約5800平方メートル。2019年12月、幅107メートルだった校舎を維持管理費の抑制を目的に解体し、中央部の67メートルを残した。整備は20年7月に始まった。総事業費は約13億2800万円。国の復興交付金を活用した。

<本校舎・観察通路、爪痕一目で>

 鉄筋コンクリート3階建ての本校舎は延べ床面積2300平方メートル。内部は津波による堆積物や児童の靴、焼け焦げた机など、当時の痕跡を現在に残す。階ごとに特徴の異なる被災跡を、校舎脇に新設された観察通路から見ることができる。

 1階部分には職員室や校長室が見える。机や棚が散乱し、何度も襲ってきた津波が室内をかき回したことが分かる。2、3階は火災の爪痕が色濃く残る。天板などが焼失した机や椅子があり、地区や学校を襲った火の強さを物語る。

 3階のみ校舎側面からも内部を観察できる。通路の南端部分が海側に大きく開き、石巻南浜津波復興祈念公園が整備された南浜地区が一望でき、海との距離を体感できる。

<特別教室、写真や映像など多彩に展示>

 鉄筋コンクリート3階の既存の特別教室棟を増改築した。震災前後を時系列順に巡る展示順路に従い、3階から1階までを移動しながら見学する。

 3階の展示は地域の記憶や学校の歴史を伝えるパネル、被災前の地域を再現したジオラマなどで始まる。その後、校舎の解体部分から移設した被災物を見ることで、日常が一変した「あの日」の午後2時46分を追体験する。燃えた靴箱や黒板、観察通路からは見られない箇所の校舎内部の写真などが、津波火災の脅威を突き付ける。

 約20人を収容するミニシアターも設けた。当時の児童や教職員、地域住民らにインタビューして制作した約20分のドキュメンタリー映像を上映する。それぞれが被災から閉校までを振り返り、胸に抱えて来た思いを語る。

 市の遺構として、2階では市全体の被害を伝える資料も充実させる。壁面全体に、市内で判明した被害や東京電力福島第1原発事故などの経過が3月11日から5月末まで時系列に並ぶ。発災直後のラジオ石巻の音声も流し、当時の緊迫した状況を体感させる。

 最大被災地となった石巻は被害の形態も多岐にわたる。産業や文化、教育、道路、港湾など、12の分野別で紹介。市内の地形別被害の特徴も写真や地図、グラフィックで示すほか、被災者の実体験を言葉や写真で伝えるパネルや、約20人の体験談を視聴できるタッチモニターも備える。

 展示室「石巻平野と巨大津波」には、全国各地で活断層や津波の痕跡調査に携わった産業技術総合研究所の資料がある。平安時代の869年に石巻平野を襲った貞観津波を中心に、過去の津波の堆積物の標本を掲示。床一面に広がる石巻平野の平面図とひも付け、過去に繰り返し津波が来ていたことなどを解説する。

 地震の規模や頻度を示すプロジェクションマッピングも展示。日本列島と周辺の海溝を刻んだ白模型に、2000年以降に起きた地震を震源ごとに投影する。

 1階には企画展示室や約70人を収容する多目的学習室を備え、地域の語り部ガイドや防災ワークショップに対応する。

<屋内運動場、市民が語る復興の歩み>

 旧校舎脇の体育館を改修した。入場券を購入してエントランスに入ると、牡鹿消防団のポンプ車と北上総合支所の公用車が目に飛び込んでくる。大きく変形した車の姿が、津波の威力を雄弁に語る。石巻市の概要や各地区の航空写真、市内各地の被災状況を記したパネルも設置する。

 特別教室からの移動順路では、被災後の復興と復旧を紹介する空間に入る。約20人分のインタビューを収めたタッチモニターを設置。未曽有の大災害から立ち上がってきた市民の証言を伝える。海外や自衛隊などの救援、全国から集まったボランティアらへの感謝の言葉を集めた映像を見られるモニターも4台設ける。

 期間展示のコーナーもあり、今は石巻南浜津波復興祈念公園の市民活動拠点となった場所に2011年4月~16年4月に設置された「がんばろう!石巻」看板を展示する。現在ある看板は3代目で、展示では初代を毎年2~3月に公開する予定。遺構の一般公開が始まる4月は、期間限定で展示する。

 南境にあった第7仮設住宅団地を再現した空間には2棟の仮設住宅を置く。室内には風呂や冷蔵庫、洗濯機など当時の現物を設置。住宅間の通路幅も再現し、プライバシーの問題など、被災者が直面した環境を体験できる。

 入場料は大人600円、高校生300円。小中学生は200円で、幼児以下は無料。開館時間は午前9時~午後5時。月曜定休。指定管理者はともに一般社団法人の、石巻震災伝承の会と石巻観光協会で構成する「石巻市震災遺構指定管理グループ」が務める。

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