水産都市・石巻、官民一体で研究 陸上養殖調査や未利用魚種活用へ
記録的不漁や担い手不足など水産関係者を取り巻く情勢は年々厳しさを増す。昨年「最も長い魚市場」として、ギネス世界記録に認定された石巻魚市場のある水産都市・石巻も同様だが、官民が一体となり、課題と向き合っている。数年前からは、石巻ではなじみがなかった魚種の利用方法や養殖技術のマニュアル化に向けた動きや研究が進められ、新たな可能性に期待が掛かる。
低コスト型陸上養殖
◇石巻専修大、キャンパス内に水槽
石巻市などは本年度、再生可能エネルギーを活用した低コスト型陸上養殖の実証調査事業に乗り出している。ギンザケ稚魚とウニを対象に、県内の大学の協力を得て、調査結果を基に採算性も考慮した養殖技術マニュアルを作成。地元事業者らに周知し、所得向上や担い手不足の解消などにつなげる「石巻モデル」の確立を目指している。
石巻専修大が担当するギンザケはエサにかかるコストが少ないという利点が魅力。魚種によって違いはあるが、1キロ育てるのに3~5キロ、マグロは10キロ以上必要とされている。対するサケやマスは1~2キロで、費用対効果が高いことで陸上養殖向きとされている。
キャンパス内には四つの水槽があり、1000を超える稚魚を飼育する。市販のエサにポリフェノールを加えたものを与えたり、成長を促進させるため、発光ダイオード(LED)ライトを青や緑にする実験をして、魚へのストレスなどを調べている。
海面養殖と異なり、陸上養殖は、環境変化にすぐ対応できるだけでなく、感染症へのリスクも減る。一方、ろ過装置や施設を動かす電力や設備投資といったランニングコストを抑えるのが課題だ。
石巻専修大では、装置に必要な電力は風力、太陽光発電で実施。角田出理工学部教授は「人がいない時間や寒さが厳しい時期など想定されることを試して予算が少なくてもできるプランをつくりたい」と話す。
ウニを研究する宮城大では大学内で飼育水を浄化しながら循環利用する「閉鎖循環式」を、田代島では水を入れ替えながら育てる「半循環式」を試し、コストを算出する。
同大の片山亜優助授は「天候に左右されなければ安定的に生産でき、品質も向上する」と話し、「日本産のウニは海外で人気が高まっている。年間通して出荷できれば価値が上がり利益につながる」と期待する。
両大学による研究は2月まで行われ、3月に関係者が集まり成果を確認する予定だ。今後は陸上養殖ならではの付加価値を見いだすことも求められるため、さまざまな角度からの調査や実験が続く。
低利用・未利用魚の活用
◇検討会議、付加価値付け流通へ
日々水揚げされる魚の中には、サバやイワシといった市場価値のある魚種の他に、市場には出回らない深海魚などが交じる。こうした「低利用、未利用魚」は、スーパーの店頭に並ぶ機会はほぼなく、捨てられてしまうことが多い。ところが近年は行政や企業などが連携し、付加価値を付けることで流通させる取り組みが増えており、石巻でも関係者らが活用を目指している。
石巻市は数年前から漁業者、水産加工、大学、飲食店などと検討会議をつくっている。関係団体が協力してレシピ集を作ったり、仙台うみの杜水族館(仙台市宮城野区)で深海魚を展示するなど、さまざまな視点で活用方法を探っている。
利用できる期間やうま味成分などを研究する石巻専修大の鈴木英勝准教授は「知名度が低く、採算が取れる水揚げ量がないことなどから出回らない。未利用魚の多くは深海魚で、食べられる部分が少ないといったハンディも抱えている」と理由を話す。
大学では主にホウボウと見た目が似ている白身魚「カナガシラ」を研究。タウリンやコラーゲンが豊富ということが分かり、刺し身でも数日は楽しめることが分かった。
鈴木准教授によると、全国有数の水揚げを誇る静岡県沼津市では低利用・未利用魚を使った料理が漁港周辺の飲食店で提供されている。週末になると近隣住民らが大勢訪れるといい、深海魚などへのイメージも変化しているという。
検討会議は昨年5月、石巻市内で低利用、未利用魚の試食会を開いた。竹乃浦を営む飛翔閣の伏見不二雄会長(78)は「規格外だったり傷が付いていたりという理由で販売されないのはもったいない。味は問題ないので、石巻で取れるものをうまく使えればいい」と期待を寄せる。
今後は主婦層を中心とする消費者向けへのPRが必要になってくる。鈴木准教授は「利用、低利用、未利用と分類せずに市民がいろいろな魚に興味を持ち、食べていくきっかけをつくりたい」と語る。