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いしのまき二刀流>医師、作家 神部眞理子さん

白衣姿で自らの著作を手にする神部さん

<地域医療支え 物語も紡ぐ>

 神部眞理子さん(72)には、医師と作家という二つの顔がある。医師としては、仙石病院の内科部長として石巻の地域医療を支える。

 作家としては、2006年に、専門であるがん治療を題材にした「フロンティア」で文壇デビューを果たす。さらに続く3作は、日本の芸術や文芸史上に名を残す3人に焦点を当てた。その事績と人物像を生き生きと描いた小説「松籟(しょうらい) 狩野永徳伝」(2010年)、「玉の緒よ 式子内親王の生涯」(12年)、「奈良の八重桜-仏師運慶伝-」(18年)を刊行した。

 安土桃山時代の天才絵師狩野永徳、百人一首にその名を残す後白河天皇の娘・式子内親王、平安末期から鎌倉初期に世の安寧と民衆の救済を願い、仏像制作に献身した運慶。いずれも神部さんの魂を激しく揺さぶった人物像を掘り下げ、事実に基づきながらも、小説というフィクションの中で、神部さんが物語を紡ぐ。

 神部さんは「歴史好きが高じただけ。好んで書いている趣味」と笑うが、緻密で優美な文体は、読む物を時代絵巻の中へといざなう。時代考証を含め、歴史小説としての評価は高い。

 「もちろん本業は医師」と神部さん。自立した女性になり、社会に貢献したい-と目指した医業への道。がん治療のエキスパートでありながらも、石巻地方の地域医療を支えることに心血を注いでいる。「高齢化社会、健康寿命を長くすることが医療に求められている」と話す。

 忙しい日々を送る中で「一番、リラックスできる」のが作家として「自らの心に刺さった歴史上の人物の世界に没入し、それを物語にしているとき」という。

 狩野永徳の場合、神部さんが一番心を打たれたのは大徳寺聚光院にある襖(ふすま)絵「四季花鳥図」。作中、永徳のいとこが「絵の前に座れば、鳥の声が聞こえ、水音が響き、花が香りを放っているかのような錯覚を覚えてしまう。…そうだ、あらゆるものの息遣いが感じられる」「永遠の命を持った絵だ」と感嘆する。それは作者自身の感動でもあろう。

 現在、新作を執筆中。医師と作家の二刀流は続く。(佐藤紀生)

 かんべ・まりこ 1949年1月、千葉県生まれ。その後、仙台市に移る。宮城一女高から東北大医学部へ進学。同大学病院勤務などを経て、99年から仙石病院(東松島市赤井)勤務。現内科部長。2女は独立し、石巻市の自宅で夫と2人暮らし。

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