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東日本大震災11年 私の歩み>石巻市・千葉昭悦さん

震災後、新たに取り組むオリーブ栽培について語る千葉さん=石巻市北上町十三浜

 東日本大震災から11日で丸11年となる。多くのものが奪われ、止まったあの日からの歩みを経て、次へと力強く踏み出す人や犠牲者に心を寄せる人の姿を紹介する。(随時掲載)

   ◇

■農事組合法人みのり代表理事
 千葉昭悦さん(72)=石巻市北上町

<持続可能な農業目指す>

 「植物はいい。この土地に根付いて長い年月、共に育ってくれる」。石巻市北上町の農事組合法人「みのり」の代表理事千葉昭悦さん(72)は、目を細めながら東日本大震災後、北上町十三浜に植えたオリーブの木の葉をなでた。

 栽培は2014年に開始。震災から10年の節目だった昨年、運営を市から移譲され、えりすぐりの実から品質に優れたエキストラバージンオイルを搾り、商品化した。地元イベントで販売したほか、仙台市内の百貨店で販売を予定。今年は地元を含め、販路開拓に本腰を入れる。

 みのりは13年に発足。震災前から水稲、大豆を共同生産していた仲間と結成した。「全員の田畑が津波で壊滅した」と当時を振り返る。千葉さん自身、家族は無事だったが自宅も流失。震災直後、塩害の状態を知るため井戸の底を掘ったが、地下8メートルの土にも潮水が染み込んでいた。「絶望的な気分になった」と千葉さん。

 それでも仲間と前を向いた。がれき撤去や除塩、盛り土をこつこつ重ね、農地を復旧させた。現在、スタッフは計15人。112ヘクタールに水稲を作付けし、大豆や野菜、そしてオリーブ栽培を手掛ける。

 昨年11月、うれしい出来事があった。21年度県農林産物品評会(県など主催)で、出展したササニシキのうるち玄米が最高賞の農林水産大臣賞に輝いた。被災水田で育てたコメが受賞するのは初めて。同時出展の「だて正夢」は3席の県農協中央会長賞を受けた。除塩と土作りに苦労した成果が実った。今秋の宮中・新嘗祭には、今年育てるササニシキを献上する。

 みのりは北上川河口対岸の長面地区にも管理する農地がある。震災から10年がたったのに農地から窓枠など大きながれきが見つかった。農機にさびが目立つなど、復興完遂への道のりはまだ続く。

 北上町地区は土地が肥え、気候も温暖。南三陸町との境にある山々から来る沢水は栄養をたっぷり含み里山を潤す。豊富な海の幸と合わせ、昔から地域の結束で生活を維持してきた。

 国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)。何も最先端の考え方ではない。みのりが震災からの復興を歩んできた道のり、そして目指す未来も、まさにそこにある。「仲間と一緒に正直なもの作りをしていくだけ」。千葉さんの言葉は明るく、力強い。(佐藤紀生)

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