河北美術展きょう開幕 洋画部門・河北賞に石巻の鈴木千津さん
第83回河北美術展(河北新報社、河北文化事業団主催、特別協賛日本航空)が11日、仙台市宮城野区のTFUギャラリーミニモリで開幕する。石巻地方からは洋画部門で石巻市泉町の鈴木千津さん(69)が最高賞の河北賞を初受賞したほか2人が入賞した。賞候補1人、入選は16人だった。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で3年ぶりの開催。日本画、洋画、彫刻3部門の入賞40点、賞候補8点、入選281点をはじめ審査員、参与、顧問、招待作家らの作品合わせて382点が展示される。
鈴木さんの作品は「忘れた約束2022-II」。「東日本大震災、コロナ禍と困難な時代にあって、思いを絵で表現できる幸せをかみしめている」と喜びを語った。
河北美術展は東北地方最大規模を誇る公募展。今年は日本画118点、洋画684点、彫刻24点の計826点の応募があった。
会期は17日まで。午前10時~午後5時。一般・大学生800円、高校生300円、中学生以下は無料。
鈴木さん以外の石巻地方からの入賞・賞候補・入選者は次の通り。(敬称略)
【入賞】
◇日本画
▽東北福祉大学賞
和田正弘「秘峡」(石巻市)
◇洋画
▽仙台市教委賞
西脇正彦「老桜」(同)
【賞候補】
◇日本画
星澤邦夫「エーゲ海、イドラの春」(石巻市)
【入選】
◇日本画
加藤光「その問いは、延長する」(石巻市)
小金沢紀子「魅せられて」(同)
佐々木玲子「楽しい水族館」(同)
佐藤健太郎「静寂」(同)
深村宝丘「楽土」(同)
◇洋画
尾形たき子「花は咲く(石巻)」(石巻市)
小野みさを「道」(同)
柏谷佳代子「セーリングの後」(同)
木村武文「秋」(同)
金野有紀子「ねこやなぎP」(同)
佐々木仲子「憧憬印度」(同)
庄司信也「鳴子峡紅葉美」(東松島市)
畑中良二「大地に抱かれて」(石巻市)
皆川和子「百花繚乱」(同)
遊佐和花「残響~聲にならない堪え~」(東松島市)
◇彫刻
木村民男「躍動」(石巻市)
河北賞の鈴木さん、恩師・故浅井さんに感謝
「先生、取ったよ」。第83回河北美術展洋画部門で初の河北賞受賞の知らせを受けた鈴木千津さん(69)=石巻市泉町=は、4年前に他界した絵の恩師で洋画家だった浅井元義さん(河北美術展参与)=同市出身=を思い、空に語り掛けた。受賞作のタイトル「忘れた約束2022-II」には、絵に対する師弟の思いが受け継がれている。
浅井さんが河北美術展招待作家、顧問時代を通して制作した作品が「忘れた約束」シリーズだった。鈴木さんは、その頃に出合った浅井さんの言葉が強く印象に残ったという。
「人は一生のうちでいくつの約束をするのだろう。
忘れられない約束
忘れたい約束
忘れられた約束
そのほとんどは忘れてしまう」
鈴木さんは浅井さんに、こんな「約束」をさせる。「亡くなられるちょっと前だった。先生から欲しいものはないかと聞かれた。私はタイトルを使わせてほしい、と頼んだ」。浅井さんは快諾したという。
約25年前、河北カルチャーセンター石巻で浅井さんが講師を務める絵画教室に通い始めたのが師弟関係の始まりだった。心が折れそうになることもあった。そのたびに鼓舞してくれたのが浅井さんだった。
「自分を信じて描き続けろ」
「手を動かせ」
「何を表現したいか、自分と対話しろ」
そして今、師から引き継いだタイトル「忘れた約束」で新たな一歩を踏み出した。作品は若い女性の忘れたいこと、忘れられないことなどを巡る記憶の風景だろうか。強いまなざしでこちらを見つめる表情から読み取れるものは、見る人によって違う。
「私の受賞を一番、喜んでくれているのは天国にいる先生だと思う。今は病院に通いながらだが、先生の言葉を胸に刻み、自分の時間をつくり、コロナ禍の中、絵と向き合っていきたい」と誓う。
鈴木千津(すずき・ちず)さん:河北美術展では今回の河北賞をはじめ計6回入賞。県芸術協会運営委員、宮城二紀会会員、新現美術協会会員。絵画グループ「黄土展」同人でもあり、石巻地方の絵画文化の発展に努める。