たばこの健康影響を知ろう きょう、世界禁煙デー
インタビュー>石巻赤十字病院感染症内科部長 亀井克彦氏
<たばこと呼吸器感染症>
たばこは呼吸器感染症とも密接な関わりがあるとされる。5月31日は世界禁煙デー。石巻赤十字病院(石巻市)の亀井克彦感染症内科部長(65)に理由を聞いた。
-喫煙と呼吸器感染症との関係を教えてください。
「私はもともと呼吸器内科医ですが、今春、石巻赤十字病院に着任してみて、肺気腫にかかる患者さんの多さに驚きました。肺気腫は肺が壊れていく病気で圧倒的に喫煙に由来します。若い時からたばこを多く吸ってきたのかなという印象を受けます」
-肺の特徴は。
「肺は空気中の酸素を取り込んで二酸化酸素を捨てる大事な臓器なのに修復能力が悪いです。手術などで取り除いた肺は生えてこないし、傷ついても元の形に戻らず、ひきつれてしまいます。肺の中を走る気管支は微妙な角度と太さで枝分かれしているため上手に空気が入り、ばい菌やカビなどが出ていきます。これがたばこの影響で気管支がゆがんだりひきつれたりするとばい菌やカビがたまりやすくなります。たばこを吸っていると、細菌性肺炎や結核、特にカビによる肺の病気は少なくても約2倍、場合によっては10倍もかかりやすくなります」
-どんなメカニズムで感染症になるのですか。
「肺はばい菌やカビを吸うとこれを追い出す仕組みを持っています。肺の奥で粘液を出してくるんだり、気管支の粘膜表面の繊毛が押し出したりしてくれます。押し出されずに肺胞まで入り込んでも白血球の一種『マクロファージ』が攻撃してくれます。たばこを吸うことで気管支の粘膜が腫れ上がったり繊毛が抜け落ちたりと本来の働きが奪われ、マクロファージの力が落ちる。肺全体の機能が下がっていって、ばい菌やカビを退治できなくなり、肺でこれらの菌が増えていきます」
「たばこの煙によって肺胞が壊れると肺気腫になります。小さな風船の集まりのような肺胞が壊れていってスポンジの目が粗くなるように空間ができ、ばい菌を追い出したりやっつけたりする機能が落ちます。肺胞の表面はミクロン単位と非常に薄くデリケート。ほっておいても年齢とともに傷んでいくのですが、これを少しでも遅らせるためにも禁煙はすごくプラスになります」
-カビによる代表的な病気は何ですか。
「肺炎の一種のアスペルギルス症です。せきが増えてたんが出て体がだるくなり、息苦しくなって最終的には命取りになる。大量の血を吐くこと(喀血(かっけつ))もまれではありません。5年生存率は5割程度と言われています。肺はもともと加齢に応じて傷みやすくなりますが、たばこは破壊のスピードをぐんと高め、カビにもずっと感染しやすくなります」
-喫煙の年数も影響しているのでしょうか。
「研修医の頃にたばこを1本だけ吸ったことがありますが、しんどかった。まずせき込み、むせてしまう。それが吸ってはいけないものを吸った人間の体の素直な反応です。そのうち慣れや快感の方が上回ってやめられなくなってしまう。若い頃から吸っていると肺の傷み方がさらにひどくなり、ある程度の年齢になるとぐんと差が出る。若い頃から吸わないことがとても大切です」
-健康被害の防止へメッセージをお願いします。
「たばこは肺感染症になる原因の中でも、その気になれば明らかに防げる一番の要素です。たばこを吸わない人生を歩めばまるで違うものになり、私たちの仕事も減ります(笑)。そんな意識で禁煙に努めてはいかがでしょうか」
寄稿>石巻赤十字病院呼吸器内科 花釜正和氏
「加熱式たばこと電子たばこについて」
たばこの規制が進む一方で、加熱式たばこや電子たばこといった火を使わないタイプのたばこが販売され、これらを吸う方も多くなってきました。
従来の燃焼式たばこに比べて体に害がないといったうたい文句で販売されていますが、実際には健康被害の報告も出ています。今回はこれらについてお話したいと思います。
●加熱式たばこについて
加熱式たばことは葉タバコの加工物を過熱して生じるエアロゾル(微細な粒子)を吸うものです。日本で販売されている商品としては「アイコス」「プルームテック」「グロー」といったものがあります。日本では燃焼式たばこと同じたばこ製品の扱いです。
「電子たばこ」と呼んで吸っている方もいますが、後で説明する電子たばことは正確には別ものです。
さて、初めに書いたように、加熱式たばこは従来の燃焼型たばこと同じく葉タバコから作られます。当初は燃やさないから有害成分が出ないということも言われましたが、実際には加熱式たばこのエアロゾルにはニコチンや発がん物質などの有害成分が含まれています。さらに加熱式たばこは煙が見えにくいため周囲への影響が分かりづらいですが、加熱式たばこ喫煙者の吐いた息にも有害成分が含まれており、受動喫煙のリスクがあります。喫煙を始めてからがんや肺の病気を発症するまでには20年以上と長い期間がかかります。加熱式たばこの健康被害も今後の調査で明らかになってくると考えられます。
●電子たばこについて
電子たばこは「Eリキッド」と呼ばれる液を加熱して生じるエアロゾルを吸うものです。タバコ葉が原料ではなく、日本では家電製品の扱いです。さまざまなメーカーの製品が販売されています。
電子たばこにはニコチンが入ったものと入っていないものがありますが、日本ではニコチンを含む電子たばこの製造や販売は承認されていません。しかしインターネットなどでニコチン入りの電子たばこを個人輸入する人もいます。
Eリキッドには、フレーバーと呼ばれる風味付けのためにさまざまな添加物や香料などの化学物質が入っています。これらの化学物質は体に無害とするうたい文句がありますが、加熱して吸入した場合の安全性は十分に検証されていませんし、海外では肺障害などの健康被害や死亡例の報告もあります。また、電子たばこも従来型たばこや加熱式たばこと同じく受動喫煙のリスクが指摘されています。
若者をターゲットにした商品も多く、健康被害のリスクに加え、従来型たばこの喫煙につながるという指摘があり、世界保健機関(WHO)では近年電子たばこを従来型たばこと同様の規制対象にすべきだとの見解を示しています。日本呼吸器学会も電子たばこの使用は(従来型たばこの禁煙を含め)いかなる目的であっても推奨されないとの見解を出しています。
以上、加熱式たばこと電子たばこについてお話いたしました。
体に害がないという考えで加熱式たばこや電子たばこを吸われている方、燃焼式たばこから切り替えた方もおられるかもしれません。これを読まれた方はいま一度お考えいただき、本当の禁煙を達成していただければと思います。
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