仙台市ガス、民営化したらどうなるの? 先進地・金沢と大津、2都市の実情から行方探る

 仙台市ガス事業の民営化が2021年9月に再び白紙に戻り、間もなく1年となる。市が3度目の事業者公募に向けて検討を進める中、全国の他都市も民営化へかじを切る。競争が激化するエネルギー業界で、民間への事業譲渡は市民サービスにどのような効果をもたらすのか。今年4月に民営化した金沢市と、3年がたった大津市の現在を報告する。(報道部・布施谷吉一)

入り口に乾燥機が置かれた金沢エナジーの駅西オフィス=7月13日、金沢市西念1丁目

◆ ◆ 金沢市の場合

 「弁当忘れても傘忘れるな」。石川県の県都金沢市の公営ガス事業を4月に継承した金沢エナジー(金沢市)が着目したのは、年間降水量が全国有数の同県に伝わる言葉だった。都市ガスを使う衣類乾燥機のPRに力を注ぐ。

 通常の半額以下で乾燥機が購入できるキャンペーンを7月末まで実施した。無料貸し出しサービスは9月末まで提供する。JR金沢駅の駅西オフィスでは、入り口に乾燥機を置いて来店客にアピールする。

 「会社の知名度アップが狙いだ。今まで(市では)できなかったサービスを次々と進めたい」と高井郁大(いくひろ)社長(53)は意気込む。

648円値下げ

 金沢エナジーは4月、標準家庭(1カ月の使用量21立方メートル)の年間料金を648円引き下げ、民営化を印象付けた。秋以降、ガスや水回りの機器修繕、飲食店で利用可能なクーポン発行などを矢継ぎ早に展開する。

 大きなトラブルもなく、順調に事業譲渡が進んだ金沢市のガス事業民営化。民営化手続きに携わった市企業局の高橋圭企業総務課長(54)は「民間ならではの柔軟性、スピードを感じる」と評価する。

 市にとって、民営化は100年続いた事業を民間に委ねる大転換だった。

 2016年の電力、17年のガスの小売り全面自由化などの影響で、18年度の家庭向け契約戸数は減少が進み、5万5000戸を割り込んだ。15年3月の北陸新幹線の金沢延伸に伴う宿泊施設などの需要増もいつまで続くか未知数だった。

 地方公営企業法の制約で電力とのセット販売などができず、提供可能なサービスは限られた。

 市は19年3月、民営化の可能性を検討すると表明。ガス事業の在り方を検討した有識者委員会の答申を経て、3年後に事業譲渡した。08年度に公募を始め、2度頓挫した仙台市とはスピード感が大きく異なる。

設定上回る譲渡価格

 2グループで競った事業者公募も、予想以上の結果をもたらした。

 北陸電力(富山市)が参画する金沢エナジーのグループが示した譲渡価格は、市が設定した186億円を上回る300億円。市関係者も「想定を超える高さだった」と驚く。市はガス事業を中心に企業債の償還に充てる考えだ。

 金沢エナジーは、契約数が年1000件減る状況はすぐに変わらないとみる。窮状の打開に向け、供給エリアの拡大、ガス事業と一緒に譲渡を受けた水力発電による地産地消の電力販売など、次なる一手を探る。

 高井社長は「契約獲得に特効薬はなく、地道な取り組みを続けるしかない。料金以外に、サービスの付加価値をどう市民に見せていくかが重要だ」と先を見据える。

[金沢市のガス事業民営化]市の検討委員会が2019年10月、市に「事業譲渡が適当」と答申。市の選定委員会は21年2月、2グループから北陸電力を代表企業とするグループを選んだ。同社や東邦ガス(名古屋市)など出資の新会社「金沢エナジー」が22年4月、事業を引き継いだ。譲渡後10年以上の料金維持などを目標に掲げる。市は同社に3%出資する。

◆ ◆ 大津市の場合

びわ湖ブルーエナジー本社前で、事業を説明する米田社長=3日、大津市浜大津4丁目

 大津市のガス事業民営化から3年余り。運営を引き継いだ「びわ湖ブルーエナジー」(同市)は今夏、新事業に乗り出した。都市ガス料金に、ガス警報器の設置やトラブル時の駆け付けサービスを組み合わせたプランだ。

 1日の販売開始から客の反応は良く、申込数は順調に伸びている。米田吉克社長(56)は「安全安心の確保は事業者の役目。奇をてらわない取り組みが信頼につながる」と意図を説く。

 同社に出資する大阪ガス(大阪市)はグループで電力も扱う。ガスと電力のセット販売による値下げや使用量に応じた料金設定など、サービス強化を進めてきた。

 「付加価値を常に考える姿勢が必要」。米田社長は強調する。

 この考えを実践するために重視するのが「市民目線」。びわ湖ブルーエナジーは地域貢献に力を入れる。

 大津市や市社会福祉協議会と連携し、高齢者の安否確認で情報を共有するネットワークに参加。市消防局とは火災予防の啓発で協定を結んだ。地域を見守る取り組みは、市民との接点を増やして需要を掘り起こす商機にもなると読む。

市民と接点増やす

 民営化後3年で事業展開は軌道に乗りつつある。ただ契約数は、民営化の検討に入った2016年度末時点の約9万6000戸から「減少している」(同社)。人口減に加え、強力な競争相手の存在が影響している、との見方が根強い。

 運営権の売却に絞った全国初のコンセッション方式の公募で、選に漏れた関西電力(大阪市)の存在だ。

 同社は大津市の家庭向けに、グループで提供する電力とガスのセットメニューを販売するなどして対抗する。料金面でも競い合う。「魅力的な料金メニューやサービスを開発し、市民の選択肢を増やそうと努めている」と明かす。

 公募時からしのぎを削る2グループ。譲渡価格は市が設定した価格の5倍近い90億円に達した。手を挙げたのが東北電力などの1グループにとどまった仙台市では、事業者側が市の掲げた最低譲渡価格と同額の400億円を提示した。

 「民間の競争は結果的に市民の利益につながる」。大津市企業局の桐畑嘉弘経営戦略室長(55)が説明する。

競争は市民の利益に

 市の狙い通りに進まない側面もある。ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安で、液化天然ガス(LNG)など原料価格が高騰した。そのあおりを受け、年額ベースの料金上限に近づきつつあるという。

 上限を変更する場合は市の条例改正が必要になる。「3年前は想定しない事態。まずは市民への影響を考えなくてはならない」(市企業局)という。

 大津市は民営化表明時、「ガス事業に責任を持って関与する」と宣言した。民間の柔軟な発想を生かしつつ、安定供給を維持できるか。市の対応に注目が集まる。

[大津市のガス事業民営化]市が2016年11月、導管を市所有のまま、運営権を売却する全国初のコンセッション方式の導入検討を表明。18年10月、2グループから大阪ガスを代表企業とするグループを選んだ。同社など3社が計75%、市が25%を出資する「びわ湖ブルーエナジー」が19年4月から燃料調達や料金設定、保安業務を担う。

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