「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子さん、独文学賞 日本作品で初

オンライン記者会見で受賞の喜びを語る若竹さん

 河出書房新社は7日、岩手県遠野市出身の若竹千佐子さん(68)の芥川賞受賞作「おらおらでひとりいぐも」が、ドイツの文学賞「リベラトゥール賞」に決まったと発表した。賞金は3000ユーロ。授賞式は10月にフランクフルトで開かれるブックフェアであり、若竹さんも出席する予定。

 同賞はアジア、アフリカ、ラテンアメリカ、アラブ地域の女性作家の翻訳作品を対象として、ドイツの文学協会が1987年に創設した。日本の作品の受賞は初めて。

 受賞作の主人公「桃子さん」は1人暮らしの74歳。内面から湧き起こる東北弁の声とともに人生を振り返り、喪失の悲しみを超え、自分らしく生きる老いの新境地を描いた。若竹さんは同作で2017年に文芸賞を受けてデビューし、18年に芥川賞に選ばれた。

 最終候補には、伊藤比呂美さんの「とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起」と川上未映子さんの「ヘヴン」、中国、チリなどの計7作品が挙がっていた。

外国の人に伝わりうれしい

 若竹さんは7日、千葉県の自宅からオンラインで記者会見に臨んだ。「六十数年の個人的な経験が作品に結集し、思いが外国の人にまで伝わってうれしい。小説の桃子と同じく『おらはこれがらの人だ、まだ戦える』。賞をきっかけに、さらに頑張りたい」と喜びを表現した。

 「おらおらでひとりいぐも」は、ほとばしるような東北弁の語りが特徴だ。同時にドイツから会見した翻訳者のユルゲン・シュタルフさん(68)は、悩んだ末にドイツ東部のフォークトラントの方言を使ったと明かした。

 「私には話せないので文献学者に頼んで直してもらった。戻ってきた原稿を読むと、まるでスープに塩を入れたように味が出た。リスクがあったが、うまくいって感激した」と振り返った。

 ドイツ語版は、シュタルフさんと妻のカティア・カッシングさん(52)が営む日本文学専門の出版社「カス フェアラーク」が刊行した。社長を務めるカッシングさんは「人間であるとはどういうことか、自分のアイデンティティーをつくるため言葉はどんな役割を果たしているか。主人公と全く同じように考える人はドイツにもいっぱいいて、それが賞にもつながったと思う」と話した。

「言語超え引きつける」仙台、遠野で称賛の声

 若竹さんは7月、仙台市青葉区の市民図書館開館60年を記念する講演会に招かれ、仙台を訪れたばかり。「おらおらでひとりいぐも」を書く前と、書いた後の思いを伝える東北弁交じりの講演は、会場を埋めた約230人の聴衆の心を打った。同館のアンケートには「元気づけられた」との感想が目立ったという。

 リベラトゥール賞の知らせに接した樋口千恵館長(58)は「言語を超えて人々を引きつける小説の力を改めて感じた」と感嘆。「心からお祝いを申し上げる」と称賛した。

 古里の遠野市でもニュースが駆け巡った。幼なじみの自営業林崎俊勝さん(68)は「学校の図書館の本を読み尽くすほど読書好きだったが、まさか小説家になって芥川賞、今度は外国の文学賞とは」と驚く。「最近は新型コロナウイルス下で明るい話題が少ないので、地元も盛り上がりそう。同級生と喜び合いたい」と声を弾ませた。

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