1000円でべろべろに酔える酒場 「せんべろ」仙台で人気 景気低迷、デフレが追い風 お一人様女性も増加<アーカイブから>
東京などではやる「千円でべろべろに酔える酒場」、通称「せんべろ」の愛好者が、仙台市内でじわじわ増えている。低価格で飲み、食い、満足できる大衆酒場は、夜な夜なにぎわいを見せている。仙台版となる魅惑の「仙べろ」事情を探った。(報道部・大橋大介)
つまみは30円から
仙台市青葉区のさくら野百貨店裏の路地にある「もつ焼専門 丸昌」は、午後5時にもなれば、サラリーマンや年配の飲んべえでごった返す。約20席あるカウンターはあっという間に満席。つまみは30円からあり、50円、100円メニューもずらりと並ぶ。飲み物もお手頃だ。
常連客の70代男性は1時間でおでん3種類と白ワイン4杯を満喫し、1300円程度で済んだ。レシートを手に「この値段がうれしい。やめられないよね」と赤ら顔で笑った。
手軽なほろ酔い体験は、おじさんだけの特権ではない。店舗を運営するドリームリンク(秋田市)の渡部栄浩代表代行は「最近は1人で来てさっと帰る女性や学生も増えている」と話す。
高い回転率が秘密
「仙べろ」の元祖は、同じ路地にある「立ちのみ処 ちだや」とされる。1950年代から続く老舗酒場は、つまみの大半が120円。3人の女性スタッフのてきぱきとした動作が小気味良い。
千田義孝社長は「1人当たりの単価は平均約900円。つまみより酒を楽しむお客が多く、30分ぐらい飲んで帰って行く」と説明する。高い回転率が薄利多売の秘密だ。
小遣い額減、寒い懐
愛好家が増えている背景には、長く続いた景気低迷とデフレ経済がある。新生銀行が調べた2013年の会社員の1カ月の平均小遣い額は、バブル崩壊後最低の3万8457円。月の飲み代は7689円と、99年の調査開始以来2番目に低い水準になっている。
出版社プレスアート(仙台市)が発行するタウン情報誌「S-style」の梅津文代副編集長は「懐が寒いサラリーマンは日々のやりくりも大変。気安く飲み食いできる店を求めている」と話す。
梅津副編集長によると、「学都」として知られた仙台市内にはもともと学生が安く飲める居酒屋が多かったという。近年は低価格を売りにした大手居酒屋チェーンによる出店攻勢もあり、「仙べろ」需要を見込んだ競争は激化している。
梅津副編集長は「目玉料理や店の雰囲気、店主の人柄など、特徴がないと客は集まらない。酔えれば何でもいいわけではない」と指摘している。
<せんべろ> 作家の故・中島らもらが日本各地の大衆酒場をリポートし、03年に刊行した著作「せんべろ探偵が行く」から広まったといわれている。雑誌で特集が組まれ、1000円で楽しめる店を案内する書籍も多数出版されている。
※この記事は2014年03月18日の 朝刊に掲載されました