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東日本大震災から間もなく12年 記憶を伝える、備えを学ぶ 石巻地方

みやぎ東日本大震災津波伝承館(石巻南浜津波復興祈念公園内)

震災伝承拠点の役割を担うみやぎ東日本大震災津波伝承館
県内の震災語り部による定期講話も注目を集める=2022年12月17日、みやぎ東日本大震災津波伝承館
来館者に展示物の説明をする飯塚主任解説員(左)=2022年12月21日、みやぎ東日本大震災津波伝承館
毛布を使った簡易担架を作る利用者。震災を経験していない子どもたちも真剣に取り組んでいる=キボッチャ
体験型プログラムで防災の大切さを伝えているキボッチャ
研修会への講師派遣や学校での出前授業なども行うツナミリアル=2022年7月13日、大谷地小

 石巻南浜津波復興祈念公園内にある「みやぎ東日本大震災津波伝承館」は、2021年6月のオープン以来、さまざまな企画や活動を繰り広げ、全国から訪れる来館者に、震災の記憶と教訓を伝え継いでいる。次の災害や未来に向けた情報発信、他の関係機関との交流など、伝承館の果たす役割は高まっている。(桜井泉)

<重責担う解説員、来館者と「双方向」意識>

 館内の案内や展示物の説明などを担当するのが解説員だ。来館者と伝承館をつなぐ潤滑油のような存在で現在14人を数える。

 主任解説員の飯塚千文さん(67)もその一人。元市職員で企画部副参事として復興事業に携わる一方、市情報交流館などの設立、運営にも尽力した経験を生かし、2021年8月から解説員を務める。

 飯塚さんのモットーは、正しく震災を伝えること。「エピソードなどを入れて話すと、こちらが意図することが伝わらないこともある。言葉によっては受け取る側の解釈が違ってくる可能性もある」と理由を明かす。「言葉を吟味し、慎重に」を心がけている。

 館内で小中学生と接する機会も少なくない。世界で発生した大地震について説明すると、中学生からは「教科書で習っています」との返答もあるといい、一方通行ではないやりとりにうれしさを隠せない。

 伝承館には北海道から沖縄まで全国の人が訪れる。飯塚さんは「阪神大震災の経験者や南海トラフ巨大地震の発生を懸念する人たちと話す機会もある。今後もつなげる言葉の大切さを胸に取り組みたい」と語っている。

<語り部、思いを熱く>

 「災害で死なせたくない思いで防災に取り組んでいる」 
 「生きることが恩返し。だからこそ皆で支え合うことが必要と思っている」 

 昨年12月17日、伝承館であった公益社団法人3・11メモリアルネットワーク主催の県内語り部講話。気仙沼市大浦自治会女性部長で防災士・県防災指導員の吉田千春さんは「いのちを守る~あの日からいま 今から未来へ」の中で、震災から12年の道のりを振り返りながら決意を語った。

 県主催の講話は毎週土曜日に開催しているほか、第2・3土曜日には石巻南浜津波復興祈念公園参加型運営協議会、メモリアルネットワークが企画し、多彩な人選でも注目を集める。

 さらに伝承館では昨年8月以降、東北大災害科学国際研究所と「3・11学びなおし塾」「3・11げんば探訪」「ぼうさいキッズパーク」を開催し、震災伝承の拠点として機能強化を図っている。

 「津波防災の日」に合わせ、昨年11月5日には「震災遺構VR(バーチャルリアリティー)」の展示を開始。ヘッドセットを頭に着け、顔を動かせば県内六つの震災遺構を臨場感たっぷりに1分間で見られる。

 「県外の来館者からは震災当時の生の声が聞けて良かったという意見が多い」「ぼうさいキッズでは、保護者から子どもと地震や防災について話す機会がなかっただけに、一つのきっかけになった」。女性企画員は反響の良さに自信を深める。

 こうした積み重ねもあり、伝承館の知名度は上昇している。中高校生の修学旅行をはじめ自治会、老人クラブの研修旅行などにもコースとして組み込まれる。「旅行会社からの問い合わせも多くなってきた」(女性企画員)と語る。

 22年度(12月16日現在)の来館者は4万3053人(累計8万2695人)。新年は累計10万人突破が確実な情勢だ。関係機関から震災に関する企画、展示で場所の提供を求める声も増えつつある。

 「震災の記憶と教訓を伝え継ぎ、被災地の再生と復興に向けて歩み続けることが責務」。スタッフは、伝承館のパンフレットに記されている言葉を改めてかみしめ、新年も高い使命感を持って業務に臨む。

   ◇

 震災伝承には、犠牲者を悼むことと、再び命が失われないよう防ぐことの二つの大きな役割がある。いつ起こるか分からない次の災害を前に、「体験すること」を機軸にした防災の取り組みを紹介する。

防災学習「ツナミリアル」

<疑似体験で避難考える>

 語り部の経験を疑似体験し、防災を自分事として考える防災学習「ツナミリアル」。東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授指導の下、一般社団法人石巻震災伝承の会(大須武則代表理事)が開発した。

 参加者は震災当日の語り部の状況から避難行動を想像し、実体験と照らし合わせ、次の災害にどう備えるか考える。体験は1回30分で、研修など限られた時間の中でも活用できる。

 現在は会に所属する語り部6人分のプログラムを用意している。主婦や管理職などさまざまだ。立場が違えば求められる行動も決断も変わる。その人になりきり、自分はもちろん家族や従業員の命を守るために何をすべきか考える。

 感じたことを記憶に残してもらうため、ワークシートへの記入作業を体験に入れた。しかし「書けなくてもいい」と大須代表。重要なのは「いざとなるとどう行動すればいいか分からない」と体感することだ。

 災害関連死を防ぐことも防災の一つと考え、今後は震災当日だけではなく、その後の生活再建などを疑似体験するプログラムの作成を検討している。

 大須代表は「震災を知る段階からもう一歩進んで、命を救うには何が必要か考えてほしい」と話した。

<体験会に記者が参加>

 石巻市の東日本大震災遺構「門脇小」で昨年12月に行われた無料体験会で、ツナミリアルを体験した。以前の取材で大まかな流れは知っていたが、見るのとやるのでは大違いだった。

 体験は地震発生時の講師の状況説明から始まる。今回の講師は主婦で市民グループ「SAY’S東松島」代表の山縣嘉恵さん。自宅は東松島市の野蒜海岸から600メートル、敷地の離れに義母がおり、小学生の息子は学校から帰ってない。ここから、身に迫る危機や決断の場面を想像してワークシートに記入する。

 いざ書くと「どう逃げるか」ではなく「逃げるかどうか」に迷う自分に驚いた。生活圏に海がなく、津波の威力は震災で知った。あの日この場所にいたなら。報道や遺構で学んだつもりが、11年たって初めて津波の脅威を体感した。

 「震災直後は自然を前に『人間には何もできない』と思ったが、事前にできることはあると気付いた。まずは災害を自分事として捉えてほしい」と山縣さん。

 いつ起こるか分からない危機から命を守るには、災害の種類に合わせた避難行動の策定など、平時の備えが不可欠だと身を持って知った。(西舘国絵)

東松島・研修施設「キボッチャ」

<有事対応が身に付く拠点>

 東松島市の旧野蒜小校舎を改修した、防災体験型宿泊施設「KIBOTCHA(キボッチャ)」は昨年、施設の名前に入っていた「子供未来創造校」を「未来学舎」に改めた。運営する貴凛(きりん)庁の三井(みい)紀代子社長は「将来の担い手である子どもたちだけでなく大人も未来に向けたアップデートが必要。防災を身近な習慣にしてほしいという願いを込めた」と理由を語る。

 ロープワークや、毛布などを使った応急的な担架作製といったプログラムを日帰りか宿泊で体験することで、有事の際の判断力・行動力・危機管理能力を身に付けられるようになっている。震災の映像を放映するシアタールームなど、充実した機能も魅力の一つだ。

 2018年のオープンから、親子やスポーツ団体、企業研修など、世代を問わず震災の教訓と防災の重要性を分かりやすく伝える。東北地方有数の防災教育の拠点として認知され、さらなる発展が期待される。

 三井社長は「防災を軸にすることは変えず、地元で活躍する団体や農水産の生産者らとコラボした活動がしたい。観光振興や地域の豊かな食、自然などを生かしたまちづくりにも貢献したい」と意欲を示す。(大谷佳祐)

石巻かほく メディア猫の目

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