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暖水系魚を有効活用 水産業、生息域の変化と向き合う 石巻地方

追波湾でプランクトンを採取する石巻専修大の学生ら
昨秋から販売され、贈り物としても人気を集める「石巻金華茶漬け 鯛」

 地球温暖化の影響で、国内で水揚げされる魚が様変わりしている。海水温の上昇などで、生息域に変化があったとみられており、親しまれていた魚がかかる網に暖水系の魚が交ざる割合が増えた地域が多い。全国有数の水揚げを誇る石巻地方も同様で、数年前から市場や研究機関、水産加工の関係者らが海の環境調査や新商品開発などを行い、南からやってきた「新顔」と向き合っている。(大谷佳祐)

石巻専修大、次世代見据え実態調査

 石巻専修大は石巻市北上町十三浜の追波湾で、生息する生物の採集を含む海洋環境観測調査を実施している。浜の漁師から「地元の海を知り、次世代を見据えた持続可能な漁業を考えたい」と依頼を受け、おととし始めた。5~10年ほど継続することで実態を把握し、対策につなげていく考えだ。

 追波湾は、周辺の女川湾や志津川湾などに比べ、外に開き、潮の流れが速く複雑に入り組んだ構造をしている。そのため、調査団体が設置した観測機材が流出するケースが多く、データが極めて少ないという。

 十三浜はワカメやコンブの養殖で有名だが、数年前から南方系のタチウオなどが漁獲されるようになった。地元の漁師遠藤俊彦さん(46)は「本来取れていたものや生産できていたものが姿を消してから対策を考えるのでは遅い。踏み込んだことを知ることは今後の生活で必要不可欠」と言う。

 石巻専修大は理工学部生物科学科(海洋生物コース)の学生と、太田尚志教授(農学博士)が昨夏、漁師の協力を得て調査を実施。海中プランクトンの採集をはじめ、水温や酸素濃度、濁度などを調べた。

 プランクトンの専門家でもある太田教授は「三陸沿岸は外洋水の影響を受ける海域だが、追波湾は河川水が多く流入する。そのため、他の湾よりも、環境の多様性が高い」と語る。

 また、東日本大震災も海洋環境の変化の一つではないかと考えられている。震災後から護岸工事が始まったことで、地形が変化。河川から濁った水が沖合まで流れることで光を遮り、水温に影響を与え、生態系が変わった可能性があるという。

 今後も調査を継続し、データを収集する。解析を進めながら周辺の湾との比較、現場の漁師らへのヒアリングも重ね、現状を少しずつ明らかにしていく。

 太田教授は「調査の回数を増やしたり季節を変えたりして、データを蓄積することが必要になってくる。情報交換を積極的に行い、漁業者の気持ちに応えたい」と話している。

石巻うまいもの、チダイ使い茶漬け開発

 東日本大震災後に石巻市内の水産加工会社など10社で設立した「石巻うまいもの株式会社」は昨年秋、東北より南に生息していた「チダイ」に着目し、切り身を使った「石巻金華茶漬け 鯛(タイ)」(2食入り、864円)の販売を始めた。18年に商品化した人気商品「石巻金華茶漬けシリーズ」の一つ。暖水系の魚としては第1弾で、好評を得ている。

 チダイはタイの一種で、体長は30~40センチほどと小ぶり。淡泊で癖がない味が特徴で、加工品の原材料に向いているとされている。

 製造はサバやサンマなどをレトルト食品に加工、出荷している山徳平塚水産(石巻市魚町2丁目)が担当。平塚隆一郎社長は「石巻で水揚げされているなら取り組む価値はあると感じた。全体の売り上げの2割を占めていたサンマの漁獲量が激減したこともある」と理由を語る。

 しかし、さまざまな魚の加工品を手がける企業も暖水系の扱いには一苦労。山徳平塚水産でも、うろこの処理を機械で試したり、人の手で行ったりと試行錯誤し、最終的にきめ細かい作業ができる人の手を選択した。

 暖水系の魚を使った商品開発に、石巻うまいもの株式会社の木村一成社長は「1社でやろうとするとリスクが大きくなる。主力商品の生産以外にも考えなければいけない問題なので、関係者同士で知恵を出し合うことは業界としてメリットだ」と語る。

 「金華茶漬け 鯛」は食べ応えのある切り身が人気で、贈り物としても注目を集めるが、懸念材料もある。平塚社長は「安定的に魚が取れれば問題ないが、この状況がいつまで続くか分からない。急にチダイがいなくなることも考えられるため、原料の確保が課題になる」と心配する。

 震災を乗り越えた加工業者らが、温暖化などの問題にチームとなって取り組む。平塚社長は「自然にあらがうことはできないので、新たなチャレンジは必要。サバやサンマといった今までの顔は変わらないが、新しい魚種に柔軟な対応を見せることがこれまで以上に大事になる」と話す。

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