閉じる

仙台・母子心中 市長はいじめ再調査しない方針 遺族は改めて要望の考え

再調査を実施しない理由を報道陣に説明する郡市長=25日、仙台市役所

 仙台市泉区で2018年11月、寺岡小2年の女子児童へのいじめを苦に母親が児童と心中したとみられる事件で、郡和子市長は25日、遺族が求めたいじめ防止対策推進法に基づく再調査を実施しないと明らかにした。市教委の第三者機関、市いじめ問題専門委員会が提出した答申内容を踏まえ、決定した。遺族は「到底、納得できない」として、改めて市長に再調査を要望する考えを示した。

 市は遺族からの要望を受け、19年3月~23年3月に計60回開かれた専門委の採用資料や議事録を基に、再調査の可否を検討。重要な事実の判明や調査が不十分な場合に実施するという国の指針に照らし、(1)専門委の調査は尽くされた(2)調査の公平性、中立性に問題はない-などと結論付けた。

 郡市長は市役所内で報道陣の取材に応じ「学校・市教委側、遺族側の双方の意見を客観的にまとめた専門委の答申を改めて検討し、再調査は必要ないと判断した」と理由を説明した。

 遺族は市長への要望書で、専門委が使用した資料に誤った記載が見られ「信頼性に疑問がある」と主張していた。市いじめ対策推進課の担当者は「答申内容と異なるような事実は認められなかった」と指摘した。

 遺族が調査を強く求めた「いじめと死の因果関係」に関して、市は市教委が専門委に諮問した調査事項に入っていないことから、再調査に必要な事項と認めなかった。担当者は「いじめ防止法に基づく調査で、因果関係の判断は対象とされていない」と繰り返した。

 再調査を巡り、遺族は4月、専門委が3月にまとめた答申を不服として、郡市長に再調査を求める要望書を提出した。今回の決定を踏まえ、街頭やインターネットで署名を集めて郡市長に再び要望するという。

 [仙台・母子心中事件] 2018年11月29日、仙台市泉区の寺岡小2年の女子児童と母親が自宅で死亡しているのが見つかった。市教委は19年3月、市いじめ問題専門委員会に事実関係の調査や学校対応の検証を諮問。専門委が22年12月に出した「いじめ重大事態との判断が適当」との答申を踏まえ、市教委は児童に関し、いじめが原因の不登校重大事態と認定した。市教委は今年2月、専門委に調査や検証を改めて諮問。専門委は3月に前回の内容を踏襲した答申を出した。

郡市長、遺族の面会要望に「思いに応えるため、会わせていただく」

 いじめの再調査を実施しない方針を明らかにした郡和子市長は25日、市役所で報道陣の取材に応じた。市長に面会を求める遺族に対し「思いに応えるため、会わせていただく」と語った。一問一答は次の通り。

 -再調査しない理由は。

 「(市教委の市いじめ問題)専門委員会が4年にわたって60回、学校や遺族から丁寧に話を聞いて調査し、学校と市教委にいじめの再発防止に取り組むよう提言した。改めて答申の内容を見て、国のガイドラインにのっとっても、必要ないと私自身が判断した」

 -遺族は納得していない。

 「関係者間の認識や見解の違いがあった上で、専門委の答申が客観的な評価だと理解している。遺族は本当につらい思いを重ねてきた。受け止めるのは難しいかもしれないが、ご理解いただきたい」

 -遺族は改めて再調査を要望する考えだ。

 「再度、要望が出されたとしても結果を覆すことにはならないとみている」

 -遺族の要望から1カ月で再調査しないと判断したのは拙速との見方もある。

 「関心を強く持っており、当初からさまざまな資料を見てきた。私はそう思っていない」

 -南中山中2年の男子生徒が自殺したケースでは、郡市長の就任後に再調査が本格的に始まった。

 「ここで詳しくは言わないが、個別のいろんな状況に違いがある」

遺族が会見「本気で取り組んでいるように見えない」

再調査しないとする市の回答を受け、記者会見する遺族=25日、仙台市役所

 仙台市泉区で2018年11月、寺岡小2年の女子児童へのいじめを苦に母親が児童と心中したとみられる事件で、郡和子市長がいじめ防止対策推進法に基づく再調査をしない方針を示した25日、遺族は「本気で取り組んでいるように見えない。憤りを感じる」と怒りをあらわにした。

 仙台市役所で記者会見した遺族は、市が再調査しない理由として専門委での調査が尽くされたことなどを挙げた点に言及。「会合の回数ばかり強調して、たくさんやったからもういいだろうという風に受け止めた」と批判した。

 遺族が強く求めた「いじめと死の因果関係」は明らかになっていない。答申時に示された専門委の調査資料には、加害とされる児童の母親と和解し、いじめが解消したような記述もあったという。

 遺族は「信憑性(しんぴょうせい)に疑問がある。事実を反映していないから再調査を要望していた」と不信感を募らせた。

 「このまま終わるつもりはない」と強調。亡くなった2人に何を報告するか問われて30秒以上沈黙し、「諦めない…」と言葉を絞り出した。

 遺族代理人の一般社団法人全国自死遺族連絡会(仙台市)の田中幸子代表理事(74)も会見に同席。「再調査を拒否するのは全国的にも珍しい。遺族側の心情に全く配慮していない」と語気を強め、「正しくない資料によって答申に何らかの影響があったのではないか」といぶかった。

 遺族側は市こども若者局長らから約1時間説明を受けたが、最終決定を下した郡市長とは会っていない。会見後、郡市長との面会を求めて市に掛け合ったが、「予定が合わない」として断られた。

「やむなし」「拙速」議員は反応分かれる

 仙台市泉区の母子心中事件で、遺族が求めた再調査は必要ないとした郡和子仙台市長の判断に、市議会ではさまざまな受け止めが交錯した。学校のいじめ対策を巡って2017年に全議員の特別委員会を設置し、19年の市いじめ防止条例の制定につなげた議員らの反応は「やむなし」「拙速」などと分かれた。

 郡市長を支える「市政与党」会派のある議員は「遺族の心情に寄り添うなら、やらない理由はないと思っていた」と意外そうな様子。「いずれにせよ、判断が妥当かどうかは難しい」と悩ましい表情を見せた。

 別の議員は「市は捜査機関ではなく、遺族が求める『いじめと死の因果関係』に踏み込めない。やれることは尽くしてきた」と理解を示し、「再調査しない事実が、いじめに悩む子どもや親にどう受け止められるか。冷たい対応に見える可能性もある」と指摘した。

 「野党」勢力の議員は「(再調査の要望から)わずか1カ月で、くまなく精査できるのか」と、判断に要した期間の短さに疑問を呈した。

遺族に寄り添った対応とは程遠い

 仙台市泉区の寺岡小2年の女子児童へのいじめを苦に母親が児童と心中したとみられる事件を巡り、郡和子市長は25日、遺族が望んだいじめの再調査を「必要ない」と断言した。専門家委員会が市教委に提出した調査結果を尊重し、首長に与えられた再調査の権限を封印した。だが、判断に至るプロセスはおざなりと言わざるを得ず、遺族に寄り添った対応ではなかった。

 市は、専門家委員会が4年にわたり計60回の会合を開いたことも踏まえ、調査結果を「見解の違いを考慮した上で客観的に判断してまとめられた」(担当者)と評価。「再調査する理由は見当たらない」とした。

 遺族が再調査を要望してから決定まで、わずか1カ月。市の担当者は、市教委には複数回問い合わせをしたが、遺族や専門家委員会のメンバーには話を聞かなかった。市長の判断材料が十分にそろっていたとは言い難い。

 遺族は3月に市教委から提供された委員会の関連資料に「いじめが続いているのに仲直りしたと、事実と異なる記載がある」と調査への疑義を訴えたが、市長側は考慮しなかった。

 市の担当者は25日、報道陣に「(調査結果を)改めて全部確認するのは時間的にも実務的にも困難」と語った。いじめ防止対策推進法に基づく再調査の意義を否定するような発言で、結論ありきの姿勢が見える。

 郡市長も重要な決定を下したにもかかわらず、当初は紙1枚の談話を出しただけだった。報道陣が求めて取材に応じたが、説明を尽くそうとしない態度からは本気度が感じられない。

 2016年、泉区の南中山中の男子生徒がいじめを苦に自殺した件では、当時の奥山恵美子市長の決断で再調査が決まった。いじめ防止を「一丁目一番地」に掲げて市長に就任し、市いじめ防止条例まで制定した郡市長が、自ら再調査の道を閉ざした事実は重い。
(解説=報道部・田柳暁)

関連リンク

関連タグ

河北新報のメルマガ登録はこちら

最新写真特集