母子世帯の困窮が深刻 <女性と困難 支援の現場から(2)切迫>
性被害やドメスティックバイオレンス(DV)、経済困窮などの問題に包括的に対応する「女性支援法」が4月、施行された。女性たちが直面するさまざまな課題には、家父長制や男女格差の影響が色濃く残る。東北の当事者や支援者の声から、困難の実相を見つめる。(せんだい情報部・菊池春子、丸山磨美)=6回続き=
「新学期に必要な学用品を買うお金がない」「進学費用で生活が苦しい」
子どもたちの入学や進級の春。ひとり親世帯の相談支援に取り組む認定NPO法人STORIA(ストーリア、仙台市)の事務所には、切実な電話やメールが相次ぐ。
「収入が不安定な母子世帯が大半。コロナ禍に続く物価高でさらに追い詰められている」。相談員の一人が明かす。
ひとり親世帯の相談支援は市の事業で2021年度に始まった。相談件数は増え続け、23年度は年間7300件以上。ストーリアからのメールによる情報提供などが受けられるサポートシステムには、約3000世帯が登録する。
相談は家計や子育て、仕事に関する内容が多い。相談員は状況に応じて利用できる支援制度につなぎ、必要に応じて役所に同行して手続きをサポートする。
不安定な雇用やそれに伴う生活困窮、育児の負担…。母子世帯が直面する問題には、女性を取り巻く社会構造が深く関わる。
自らもシングルマザーとして子育てをしてきたストーリアの佐々木綾子代表理事は「1人で育児をしながらでは、フルタイム就労自体が厳しい。非正規のパートなどで働かざるを得ない女性がどうしても多くなる」と指摘する。
子どもの学級閉鎖などで仕事を休んだ母親が、会社から「もう来なくていい」と言われた例もあったといい、母子世帯の母親が安定して収入を得るには「職場や社会の理解も欠かせない」のが現状だ。シングルマザーの就労に向け、企業への働きかけにも努める。
4月施行の女性支援法は基本理念で「困難な問題を抱える女性が自立して生活するための包括的な支援」を掲げる。
女性支援では緊急性の高いドメスティックバイオレンス(DV)被害者のシェルターでの一時保護の在り方などが注目されやすい。ただ、困窮する母子世帯の生活を安定させるには複合的な背景に目を配りつつ、息の長い取り組みと伴走支援する存在が必要という。
日々の生活で手いっぱいになると、長期的に安定した職に就く準備をする余裕もなくなる。離婚の背景に夫からのDVがあった場合、メンタル面のケアも欠かせない。佐々木さんは「第三者のサポートを得ながら、心身の回復や経済的自立を図っていける道を拡充すべきだ」と強調する。
支援法の施行によって社会の理解が進むことに期待が集まる一方、大きな懸念も浮上している。
離婚後に父母の双方が親権を持つ「共同親権」を可能とする改正民法が5月、成立した。離婚した相手が再び親権を申し立てられる制度だ。ストーリアには既に「元配偶者が申し立ててきたらどうすればいいのか」といった不安の声が寄せられている。
佐々木さんは「共同親権によって不利益を被る当事者についても考えてほしい」と訴える。
ストーリアはウェブサイトで活動内容を紹介している。ひとり親家庭の電話などの相談窓口は、仙台市の母子家庭相談支援センター、父子家庭相談支援センターのほか、宮城県母子・父子福祉センターなどがある。
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