異彩放つ【特集】障害者アートプロダクツ
独創的な美的感覚にあふれる障害者アート。そのデザインを取り入れたバッグや小物のファンは多い。ブランド展開する施設などを訪ねた。
■色使い鮮明 形にとらわれず ~「tam tam dot」 多夢多夢舎中山工房(仙台市青葉区)~
鮮やかな色使い、形にとらわれない模様が描かれたポーチやクリアファイルが並ぶ。就労継続支援B型事業所「多夢多夢舎中山工房」(仙台市青葉区中山)の作品販売を兼ねるタムカフェは、見ていて飽きない作品で彩られる。
「メンバーの方が思い思いにデザインした作品。作者を指名して購入する方もいます」。工房の管理者でアートディレクターの沼崎マイコさんが教えてくれた。
制作を始めたのは東日本大震災後。自由に水玉模様のような丸(dot)を描くことからスタートした。ブランド名は「tam tam dot」。次第に作品の幅は広がり、人や動物のデザインも登場するように。現在は全国のセレクトショップでグッズ販売を展開している。
電車好きの通所者は、駅構内に響く電車の発車を告げるアナウンスをそのままコメ袋で作ったポーチに書くことも。「ご利用ありがとうございます」「ドアが閉まります」。アナウンスの言葉が楽しそうに躍る。
色を変えながら繰り返し「田」の形を描いたり、動物を描いたりと通所者によって好むデザインはそれぞれで、タッチも異なる。沼崎さんは「作品はバラエティーに富んでいます。描いた本人にも直接会いに来ていただけたらうれしいです」と話す。
【DATA】
仙台市青葉区中山2-18-5
TEL022-277-0081
営/11:30〜16:00
休/日・月・水曜、祝日
■丸みある文字 リズム独特 ~もじもじ制作所(仙台市青葉区)■
清水ちはるさん(29)=仙台市青葉区=が太い水性ペンで描く平仮名は丸みがあって独特のリズムを刻む。「うずらのたまご」「すぱげつていー」など好きな食べ物だったり、「ぷるぷる」「ざぶざぶ」とオノマトペだったり、その時々で文字は異なる。猫や眼鏡などのイラストに「ねこ」「めがね」と文字を添えることも。
「これはアートになる」と思った母で布小物作家の由美子さんがバッグのデザインに取り入れたのは2013年。翌年、夫の実家がある滋賀県の「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」にバッグを持って見学に行ったところ関係者の目に留まり、国内外のさまざまな作品展に出品を依頼されるようになった。
ちはるさんが描いた作品を基にした布のバッグやクリアファイルなどは主にイベントで販売する。「娘と言葉のやり取りは難しいけど、いろいろな言葉が心の引き出しに入っていることが分かるんです」と由美子さん。文字で彩られた作品は、親子の会話なのかもしれない。
■似顔絵、迷路 独自の世界観 ~「ユニークアート」 わらしべ舎羽黒台工房(仙台市太白区)■
障害者がアート活動に取り組む社会福祉法人わらしべ舎の羽黒台工房(仙台市太白区)。在籍する28人が創作活動に励む。ビニール袋の中に絵の具と布を入れてもんで色付けしたり、キャンバスに太鼓をたたくようにスポンジを打ち付けて彩色したりと発想は自由。作品はプロのデザイナーに依頼するなどして商品化している。
「ユニークアートというブランド名で商品展開しています」と話すのは、同工房アートコーディネーターの堀川夏季さん。デザインは企業のノベルティーグッズに使ってもらい使用料を得たり、バッグやTシャツにプリントして販売したりする。
似顔絵が上手な人、迷路と建物や文字を融合させて独自の世界を表現する人など、それぞれが特長を作品に落とし込む。
動物を描くのが得意だった角濱英一さん(故人)の作品をキーホルダーにした「KADOHAMA ZOO」のシリーズは、角濱さんが亡くった後に商品化した。「角濱さんは優しい人だった。『忘れないよ』という思いが込められています」と堀川さん。
作品はInstagramで閲覧できる。実物を見ての購入検討も可能で事前連絡が必要。羽黒台工房℡022-399-8238(祝日を除く火~土曜、9:00〜17:30)へ。
【DATA】
仙台市太白区羽黒台42-6
■作品は角なく柔らか 創作活動で人つなぐ ~ワンダーアート(仙台市若林区)~
アートを通じて障害の有無などさまざまな壁を超えて人と人がつながる―。アートスタジオと通所施設を運営するNPO法人ワンダーアート(仙台市若林区荒町)は、こんな理念を掲げる。
法人代表理事の高橋雅子さんは「スタジオと通所合わせて約50人が絵を描いたり陶芸をしたり、それぞれのアート活動に取り組んでいます」と説明する。医療ウェアのデザインに起用されたり、企業のブランドイメージを描き下ろしで手掛けたりしたことも。
絵画のレンタルもしており、作者指名で依頼を受けることもあるという。高橋さんは「メンバーは自意識にとらわれず自由なので、角がなく柔らかい作品が多い。アートを取り入れることで生活を楽しく、豊かにしてほしい」と期待する。
【DATA】
仙台市若林区荒町172 第一旭ビル
TEL022-724-7255(平日9:00〜18:00)
■あふれる創作の喜びとエネルギー ~ぼーだれすアートくらぶBACせんだい代表・菅原道子さんに聞く~
具象でも抽象でもない。形にとらわれないのが障害者アートの魅力。作品は「表現したい」「伝えたい」という思いと、創作の喜びに満ちています。他者の評価は眼中になく、誰かのまねでもない。本人の中から湧き出るエネルギーが形になっているのです。その力が人の心を揺り動かすのかもしれません。
私はかつて、宮城県内の中学校で美術教師をしていました。その頃から障害者アートには大きな可能性を感じていました。私たちが見落としてしまう美が描かれているのです。美術教育を受けていないからこそ構築できる世界観―。こんな障害者アートを多くの人に楽しんでほしいと思います。
(河北ウイークリーせんだい 2024年10月24日号掲載)
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