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仙台ゆかりの自然主義文学作家・岩野泡鳴の世界に光 佐伯一麦さんと池上冬樹さん対談

泡鳴の作品世界を語り合う佐伯さん(左)と池上さん

 仙台市の作家佐伯一麦さんと、山形市の文芸評論家池上冬樹さんの対談が、佐伯さんが館長を務める仙台文学館(仙台市青葉区)であった。明治・大正期に活躍した自然主義文学の作家岩野泡鳴(1873~1920年)の人物像や作品を語り合った。

 兵庫・淡路島出身の泡鳴は18歳から3年ほど仙台で暮らし、東北学院に籍を置いた。教師で赴任したはずが生徒として扱われ、失意にあったという。一方で後の評論「神秘的半獣主義」の着想を得られたこともあったためか、仙台を「第2の故郷」と呼んでいる。

 小説家としての地位を確立した「耽溺(たんでき)」や、5部作の一つ「放浪」などは、男女関係のもつれが自らの欲望に忠実に描かれる。佐伯さんは「日本で初めてピカレスク(悪漢)小説を書いた作家ではないか。軽率で無鉄砲だが、むき出しの人柄がどこか憎めない」と語った。池上さんは「自己弁明を一切せず、逃げずに徹底して書いた裸の文学は、100年たった今読んでも面白い」と評した。

 作中のリズミカルな会話も魅力を放つという。「勢いがあって調子がいい。耳の良い作家のなせる技だと思う」と池上さん。作品を貫く、たくまざるユーモアに注目する佐伯さんは「人間が人間らしく懸命に生きる姿は、はたから見るとユーモラスに映る」と話した。

 対談は12月15日まで開催中の特別展「文豪、仙台ニ立チ寄ル。」の一環で今月10日にあり、約40人が参加した。

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