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授業で使うよさこいの道具購入費、仙台の中学校が町内会に「おねだり」市教委から「不適切」一転返金

寺岡中が購入した鳴子(仙台市教委提供)

 「中学の授業で使う物品の費用をなぜ町内会にねだるのか」。生徒がよさこい踊りに使う「鳴子」の寄付を求める文書を目にした仙台市泉区の男性(74)から「読者とともに 特別報道室」に疑問の声が届いた。中学に取材を申し込んだところ、市教委の指導が入り、翌日にあっさりと方針を転換。「寄付を受ける基準に適さなかった」と釈明し、自校の予算で購入することになった。

寺岡中が連合町内会に寄付を要請した文書

 「生徒たちが、鳴子の音を響かせ、一体となって踊る姿は、きっと地域の方々にも感動を与えることと思います」

 男性が違和感を抱いたのは「教育活動充実のための寄付のお願い」と題されたA4判の1枚紙。寺岡中(生徒357人)の高橋彰吾校長名で昨年9月、紫山と寺岡の両連合町内会長に宛てた。

 体育の授業で、よさこい踊りを練習しているが、鳴子を所有しておらず、他校から借りている現状を説明。「気持ちよく練習に励めるよう」にと購入資金の寄付を要請する。

 代金は鳴子140組で22万4000円。紫山連合町内会が10万円、寺岡連合町内会が3万円を拠出し、残りは同校の「文化体育後援会」が保護者から集めた会費を充てることでいったん合意した。

 10万円を学校口座に振り込んだ紫山連合町内会の斎藤勉会長(75)は「地域の祭りに生徒を参加させてほしいとお願いしに行った席上で校長から『実は困っていることが…』と聞いた。何とかしてやりたいと思ったし、特段問題とは考えていない」と話す。

 地方財政法などは公立学校の経費を公費負担が原則とし、住民の負担を禁じる。男性は「子どものためなら前向きに考えたいと思う半面、例外の扱いをするには、きちんとした根拠や説明が必要ではないか」と指摘する。

 「文書で依頼したのは不適切だった。校長の認識が足りなかった」。今月22日、取材に応じた市教委教育指導課の新妻英敏課長はすんなりと学校側の非を認めた。

 市教委は2008年、教材などの寄付を受ける際の基準を設け、「寄付は自発的・任意的なものであるべきである」と規定した。

 新妻課長は「文書は連合町内会の依頼で作成されたと聞いている。そうだとしても、真に自発的な寄付と言えるかどうか疑問が残る」と説明。同校に取材を申し込んだ翌17日、全額公費で賄い、紫山連合町内会に返金する方針を決めたという。

 同課によると、文書で寄付を依頼する類似のケースは他校で確認されなかった。市教委は各校に改めて基準を周知し、事前に相談するなど寄付手続きの順守を求める予定。

 経過を知った男性は「自前で買えるものまで要求していたのか」とあっけにとられた様子。「互いに分別や節度をわきまえ、地域のために連携協力する健全な関係を築きたい」と語った。(佐藤理史)

禁止される寄付の典型例、市全体の教訓に

 千葉工業大の福嶋尚子准教授(教育行政学)の話 地方財政法が禁じる「割り当て的寄付」に当たる典型的な事例だ。高価格帯の鳴子を選んでおり、もらえるならいい物にしようという下心も透けて見える。町内会は構成員が長年変わらない分、PTAよりも表面化しにくい。今回はおかしさに気付いた住民がいて、いい形で決着した。学校は必要な物品の購入費をきちんと予算要求し、市教委は予算枠を確保しておくことの大切さをそれぞれ学ぶ契機になった。市全体の教訓にしてほしい。

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